全日本フィギュアを優勝し、メダリスト・オン・アイスで演技する羽生結弦【夢のその先へ】 全日本フィギュアスケート選手権の男子フリーが終わり、来年2月の北京五輪代表が発表された12月26日、夜。全日本2連覇を果たし、五輪出場権を獲得した羽生結弦…



全日本フィギュアを優勝し、メダリスト・オン・アイスで演技する羽生結弦

【夢のその先へ】

 全日本フィギュアスケート選手権の男子フリーが終わり、来年2月の北京五輪代表が発表された12月26日、夜。全日本2連覇を果たし、五輪出場権を獲得した羽生結弦は、記者会見で、五輪へ向けての意識をこう語った。

「僕にとっては2018年平昌五輪までが完全に夢の舞台で、2014年のソチと平昌で金メダルを獲って五輪連覇を達成するのが小さい頃から描いていた夢であり、具体的な目標でした。正直言って北京までの五輪3連覇というものを、あまり考えずに過ごしてきました。ただ、僕が今置かれている状況だったり、僕が今挑んでいるものを考えれば......。また、いろんな年齢で五輪に向けて頑張っている多くの選手たちの姿を見て、今のフィギュアスケート男子で五輪3連覇という権利を有しているのは僕しかいないので。もちろん夢に描いていたことではなかったかもしれないけれど、夢の続きをまたしっかり描いて、前回、前々回とはまた違った姿で北京五輪に臨みたいと思います」

 そして一夜明けた12月27日には、五輪3連覇を狙う決意をした瞬間について話した。

「選考委員会が終わって代表に選んでもらい、日本代表のジャージをいただいて腕を通した時に『ああ、これが五輪だな』と思いました。でも自分は2連覇というものをすでに持っていて、それを失うのは確かに怖いんです。北京で負ける確率のほうが、今のところは間違いなく平昌五輪より高いと思うし。ただユニフォームを着た時に『これは勝ちにいくためのジャージだな、勝ちにいかなきゃいけないんだな』と、あらためて思わせていただきました」

 羽生の五輪連覇という実績は、どんなことがあっても消え去るものではない。だが、3回目の挑戦で敗れてしまえば、その連覇という実績に傷をつけるかもしれない、と考えているのだ。だからこそ、挑戦する以上は勝ちたい、と。

【五輪3連覇のキーポイント】

 そのキーポイントとしている4回転アクセル。平昌五輪のあとは「次のシーズンには降りられると思っていた」と言う。だが、翌シーズンにはケガを負い、試合に出れば常に結果を求められることもあって4回転アクセルだけに集中できない時期が続いた。「やればやるほど、4回転以降を回ることがどれだけ大変かということを、あらためて痛感した4年間だったんじゃないかなと思います」と苦笑する。

 心のなかには、自分の体の衰えへの気がかりもあった。ソチ五輪のあと、羽生は20代になる自分の体の成長を楽しみにしていたが、その成長が止まった時にどうするのかが重要になるとも語っていた。

「24〜25歳くらいの時に、成長が止まっているなと思った時期がありました。練習でも『フリーの通しができなくなったな』と感じたことがけっこうあった。でもたぶん、今が一番うまいのは間違いないですね。それはトレーニング方法が自分で確立できるようになったり、自分でプランニングをできるようになったから。それで羽生結弦にとっても、フィギュアスケートのトレーニングというものがどういうものかというのを確立できたのが一番大きいと思います。精神的には、『誰よりも練習している、誰よりもうまい、自分が一番強い』と思っていた9歳の頃が一番強いと思います。でも技術的には間違いなく、今が一番強いと思っています」


北京五輪出場を決めた羽生。五輪3連覇に挑む

 

「勝たないといけない場所」】

 4回転アクセルを4分の1回転程足りない回転で転倒するようになった時、「ここで終わらせてしまったら裏切りになる。ここでやめられない」と思い、北京五輪まで覚悟を持ってやらなければいけないと腹を決めた。

「五輪は発表会ではないんです。僕にとってはやっぱり、勝たないといけない場所なんです。2連覇もしているところだから、その2連覇を絶対に失いたくないし......。だからこそ決意を持って、絶対に勝ちにいきたいと思いました」

 勝つための戦略。それは単純で、4回転アクセルをGOE(出来ばえ点)でプラス加点をもらうジャンプにした構成だ。

「はっきり言って勝つためには、4回転ルッツとか4回転ループを入れるという構成は現実的ではないと思います。これから1カ月半しかない状況でやれることはたぶん4回転アクセルくらいだから、しっかり練習したいと思って。あとはショートに関しても、(全日本選手権で)よかったのは4回転サルコウくらいでまだ完璧なところまではいってないので。それが点数につながるかどうかはわからないけど、詰めて、詰めて練習をしていきたいなと思います」

 そう話していた羽生は、そのあとのアイスショー「メダリスト・オン・アイス」では昨季のSP曲だった『レット・ミー・エンターテイン・ユー』を演じた。「今シーズンのプログラムは自分が表現したいことを突き詰める構成を選択しているが、このプログラム(『レット・ミー・エンターテイン・ユー』)はみんなに楽しんでもらいたいと思って選んだ」と話した。

 その冒頭には4回転トーループを跳んだ。そして、彼のエキシビションプログラムの代名詞でもある、大きく舞い上がるシングルアクセルも入れ、激しく舞いながら観客とともに気持ちを盛り上げようとするステップシークエンスを披露。キレとスピードのある滑り。北京に戦いにいく攻めの気持ちを、氷上でそのまま見せつけるような演技だった。