12月26日、全日本フィギュアのフリーで『天と地と』を演じる羽生結弦12月26日の全日本フィギュアスケート選手権男子フリー。会場を満たした観客や関係者だけではなく、テレビやインターネットを通じて見ている数多くの人たちが注目した羽生結弦(AN…



12月26日、全日本フィギュアのフリーで『天と地と』を演じる羽生結弦

12月26日の全日本フィギュアスケート選手権男子フリー。会場を満たした観客や関係者だけではなく、テレビやインターネットを通じて見ている数多くの人たちが注目した羽生結弦(ANA)の4回転アクセルへの挑戦は、両足着氷でダウングレードと判定される結果になった。だが、ほとんどの人たちは、目にした彼の夢への挑戦に大きな満足感を得ただろう。

【本番前に「精神がグジャグジャ」】

 この日昼過ぎからの公式練習で羽生は、なかなか4回転アクセルに取り組まなかった。開始から25分ほど過ぎたところでようやくスピードを上げてシングルアクセルで感覚を確かめたあとにトライしたが2回転半で体を開いて着氷。そして、曲かけではシングルアクセルになった。

「今日(12月26日)の公式練習では、自分のなかで回せることは期待しなくなっていて......。とにかく本番が一番大事なので、『本番に合わせきる』と思って練習をしていました。ただあまりにも跳べなさすぎて若干失望もしたので、本番にいくまではかなり精神がグジャグジャになっていたんです。そういうところも含めて、自分自身がまだ練習でも成功していない4回転半を、本番で使用するというのが本当に難しいなとあらためて感じさせてもらいました」

 こう話す羽生。「(着氷した)公式練習初日(12月23日)の4回転アクセルを皆さんは見ていて、『羽生はめちゃくちゃアクセルが上手になったな』と思われたのではないかと思う」と語り、「でもあれができるようになったのは本当にここ2週間くらい」とも説明した。

「ずっとぶっ飛ばして(4回転アクセルを)跳んでいて軸も作れなくて、回転も(今より)もっと足りなくて何回も何回も体を打ちつけていて。本当に毎回、頭を打って脳しんとうで倒れて死んでしまうんじゃないかと思うようなジャンプをずっとしていたんです。だから、皆さんのなかで『これは跳べるんじゃないか』みたいに感じて思っていただけるというのもあるけど、正直、けっこうまだいっぱいいっぱいです。あそこまで軸を作るということがどれだけ大変なことかというのと、軸を作りきれる自信ができてきたら、それから100%回しきることをやっていかなければダメなので。まあ、試合のなかであれだけできたら、今の自分にとっては妥協できるところにいるんじゃないかなと思います。悔しいですけど」

 11月のNHK杯の前に、現在より完成度は低いものの、着氷できるようになったという。だが、その数日後にねんざをし、ストレスで食道炎になって熱が出た。1カ月くらいは練習できない時期が続いた。そうした時期には「やめてもいいのではないか」とも思った。それでも、今のような4回転アクセルができるようになった2週間ほど前からは、自分のなかで練習の仕方が確立されてきていた。「このためにはこの練習をすべきだ」というものを思いつき、「やっと身についてきたのではないか」という手応えも得るようになった。

「ただ、(練習の仕方が)わかってきたと言ってもそれをパッとやってパッとできるわけではないし、トリプルアクセルともまた違っているので、もっと積み重ねていかなければいけないなと思います」

 羽生はそう話し笑顔を見せた。

【"らしい演技"で全日本連覇】

 この日の羽生は、フリー直前の6分間練習の前から「泣きそうになっていた」とも話した。会場を見まわし、「あと何回こういう景色を見られるのだろう」と。そして、「今まで頑張ってきたなかでの、いろんなことを思い出した」と。

 そんな気持ちで臨んだ4回転アクセルを組み込んだフリー演技は、4回転ループを入れた構成とは比べ物にならない体力の消耗があったという。だが、冒頭の4回転アクセルはダウングレードでトリプルアクセルと同じ基礎点のうえで3.89点減点されたが、以降、完璧な演技をした。

 きれいにコントロールした4回転サルコウは4.30点の加点をもらい、そのあとのトリプルアクセル+2回転トーループも3.31点の加点。後半に入ってもショートプログラム(SP)で悔しさが残った4回転トーループ+3回転トーループは3.12点の加点で、4回転トーループ+1オイラー+3回転サルコウはジャッジも5点と4点を並べる、4.48点の加点。スピンとステップもすべてレベル4でフリーの得点は、完璧な演技をした昨年の全日本選手権に4.78点足りないだけの211.05点。合計も公認の自己最高に0.23点及ばないものの322.36点の高得点で大会連覇。羽生結弦らしさとすごさを、存分に見せた。



全日本選手権連覇を果たし、北京五輪出場権を獲得した羽生

 そして、そうした演技ができた理由を、「4回転アクセルを組み込んだ構成での通し練習は、完全な通しではないけれど、自分のなかでは6割程度の達成度の練習はできていると思うので。それがあったので最後まで何とか持ったなと思います」と説明した。

 全日本の結果で北京五輪代表の座を勝ちとった羽生は、3度目の五輪を「勝ちにいくつもりで臨む」と腹を決めた。

「やるかぎりは1位を目指したいが、このままでは勝てないのはわかっている。勝ちにいくためには4回転アクセルにこだわりすぎる必要はないという選択肢もありますが、自分が北京五輪へいく覚悟を決めた背景には4回転アクセルがあるし、それを成功させたいという思いもある。今回のような形ではなく、ちゃんと武器になるような4回転アクセルを携えて北京では優勝を狙いたいと思います」

 強気な言葉を口にする羽生。その心のうちにあるのは、今回、4回転アクセル以外の要素はすべて完璧に決められたという大きな自負だ。強い心を持って、3度目の五輪に挑もうとしている。