連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな…

連載「#青春のアザーカット」カメラマン・南しずかが写真で切り取る学生たちの日常

 学校のこと、将来のこと、恋愛のこと……ただでさえ悩みが多い学生の毎日。その上、コロナ禍で“できないこと”が増え、心に広がるのは行き場のないモヤモヤばかり。そんな気持ちを忘れさせてくれるのは、スポーツや音楽・芸術・勉強など、自分の好きなことに熱中する時間だったりする。

 そんな学生たちの姿を、スポーツ・芸術など幅広い分野の第一線で活躍するプロカメラマン・南しずかが切り取る連載「#青春(アオハル)のアザーカット」。コロナ禍で試合や大会がなくなっても、一番大切なのは練習を積み重ねた、いつもと変わらない毎日。その何気ない日常の1頁(ページ)をフィルムに焼き付けます。(取材・文=THE ANSWER編集部・佐藤 直子)

6頁目 ヨコハマスイミングクラブ 青山学院大学3年・五味桂士くん、明治大学1年・五味智信くん

 太陽の光がキラキラと乱反射する水面。まだ誰もいないプールには、水を掻く音だけが静かに響きわたる。色々な角度から2人の姿を撮影していた南カメラマンは、ふとファインダーから目を離すとうれしそうな笑顔で呟いた。

「双子くらい似てますね」

 背格好はほぼ一緒。顔を見れば、兄・桂士くんが穏やかさを、弟・智信くんは負けん気の強さをわずかに携えてはいるが、笑うと目が三日月になる様子はそっくりだ。

 兄はミレニアムに沸いた2000年、弟はその2年後、この世に生を受けると歩き出すよりも先に泳ぎ始めた。ベビースイミングの時から通い続けるヨコハマスイミングクラブで、今も2人は泳ぎ続ける。

 ともに小学生の頃から頭角を現し、中学では県内トップに名を連ねるようになった。高校ではそれぞれインターハイに出場。2021年は揃って日本選手権、ジャパンオープン、日本学生選手権(インカレ)など国内主要大会で戦い、インカレではともに入賞を果たした。競技種目は桂士くんが個人メドレー、智信くんが自由形と異なるが、良き理解者でもあり良きライバルでもある互いの存在は最高の刺激になっている。

桂士「弟には負けたくない思いもあって、大きい試合では刺激をもらっています。大体いつも弟の方が先にレースがあるんですよ。今年のジャパンオープンは弟がB決勝(100m自由形)に残ったので、さすがに弟だけで兄貴が目立たないわけにはいかないと頑張って、僕もB決勝(200m個人メドレー)に進めました(笑)」

智信「インカレでは僕がベストが出なくて(200m自由形で)予選落ちした日に、兄が(200m個人メドレーで)決勝に残ったんですよ。そうなると『やっぱり明日は俺がやってやらないと』という気持ちになる。ライバルじゃないですけど『俺も!』と思わせてくれるのですごく大事ですね」

大学入学を機にプールを離れた兄、その時、弟は…

 まさに好敵手。互いに負けじと高め合う2人だが、2019年は状況が違った。この年、大学に進んだ桂士くんは一時期、水泳から距離を置いた。

桂士「高校3年で進路を決める時に、今考えるとまだやるべきことはいっぱいあったんですけど、自分の実力として『ここがもう限界かな』と。大学では勉強をしたり他にやりたいことを見つける方が、その後の人生においていいのかなと思って、水泳を辞めることにしました」

 青山学院大に入学すると、大講堂で講義を受けたり、友人と遊びに出かけたり、バイトに励んだり、水泳に縛られないキャンパスライフが新鮮で魅力的に映った。だが、そんな生活もいつかは慣れる。数か月が過ぎると「やっぱり少し刺激が足りない」と感じるようになっていた。

桂士「1日が終わる時のやりきった感が違うって言うんですかね……。ただただ同じ毎日を繰り返しているだけだなって。そう思い始めた頃にテレビでインカレを見て、もう1回頑張ってみようかなという気持ちになりました」

 兄がプールを離れていた間、その姿を最も近くから見ていた弟は「兄の選んだ人生だったら、それでいいんじゃないか」と思いつつも、淡い期待を抱きながら泳ぎ続けていた。

智信「その時、僕は高校2年で、インターハイで優勝したり国体でいい順位を取ったりしていたんです。多分兄もそれを見ていたので、直接『もう1度水泳やれよ』とは言えないけれど、僕の成績を見てまた火が着いてくれたらいいなとは思っていました」

桂士「確かに弟の成績も刺激になりましたね」

 弟の思いはしっかり兄に届いていた。

コロナ禍で次々と大会が中止に…「かなりモチベーションが下がりました」

 2020年、再出発を決めた兄と、高校ラストイヤーに全力を注ぐ決意の弟の前に立ち塞がったのがコロナ禍だった。特に、この年の成績が進路に大きな影響を与える智信くんは、八方ふさがりになった思いだった。

智信「3月に全国大会が中止になった時点で、かなりモチベーションが下がりました。5月には出場予定だったジャパンオープンが中止になって、インターハイも中止、国体も中止。プールも閉まって泳げなくなって、同級生と連絡はとってはいたものの、全員やる気がなくなっていた。1か月くらい家に閉じこもっている生活でした」

 そんな時、目標を失いかけていた弟を奮い立たせたのが兄の存在だった。

桂士「僕はまた水泳を始めようと前向きな時期だったので、どうしたら速く泳げるか考えて、それまでほとんどやらなかった陸上トレーニングを始めたんです。自粛期間が明けたら、すぐにいい泳ぎができるように参考になる動画を見たりもしました」

智信「僕もこのままじゃダメだと思って、どうやったら自粛期間を有益に過ごせるか考えて、軽かった体重を増やすことにしました。兄と一緒に陸上トレーニングをして食事も増やして、3か月で8キロ増やしたんです。ただ肉体改造をしたら元の泳ぎはできないので、動画で色々な選手の泳ぎを見て。それが自粛明けにハマって、いい成績が出るようになりました」

桂士「傍から見たら何もできないように見えたかもしれないけど、自分たちの中ではメチャクチャ成長できた期間になりました」

 近所の公園でトレーニングしたり、横浜港の玄関口となる埠頭まで走りに行ったり。1人では長続きしなかったかもしれない地道なトレーニングも、2人でいたから積み上げられた。

選手としてのタイプも性格も「全く正反対ですね」

 兄弟であり同志でもある2人だが、実は選手としてのタイプも性格も「全く正反対ですね」と声を揃える。

智信「兄はすごく安定感のある選手。僕は爆発力があるタイプで、成績を出したい時は集中してドカンと出せるんですけど、それ以外の試合ではベストから離れてぐらついてしまう。だから、兄のようにコンスタントにベストに近いタイムを出せる選手はすごいと思います」

桂士「弟はガッツがある選手。兄弟ですけど正反対なんです。僕は試合に向けて淡々と準備をして、本番でも平常心を保てる方。でも、弟は僕の何百倍もガッツが表に出るタイプ。内に秘める思いは同じくらいかもしれないけれど、外に出ると周りも一緒に乗せていけるし、華がある。そこは尊敬していますね」

智信「そうですね。僕は外に自分を出せたり、気合を入れたりできるタイプ。空回りすることもありますけど(笑)。考え過ぎると悪循環にハマってしまうので、直感でやった方が僕にはいい。逆に、兄が感情的になっているのを見たことがない。普段から怒ったり、感情がバラバラになったりするのは見たことがないですね」

桂士「僕は大学で、弟は高校でキャプテンをしていたんですけど、弟は自分で声を出したり発信して引っ張るタイプで、僕は言葉ではなく行動で見せるタイプ。そういうところも全然違いますね」

 2022年以降の目標にもまた、それぞれの個性が反映されている。はっきりと口にこそしないが、弟の視線の先には2023年のパリが映っている。

智信「僕はまず、世界代表になれることを一番の目標としてやっていきます」

桂士「僕はオリンピックより、将来のことも考えながら、最後のインカレに全力を注ごうと思います。今年は7位でしたけど、自分はまだまだ伸びると思っているので、来年は優勝や表彰台を目指します」

 この先、それぞれ全く別の道を歩むことになっても、兄弟2人、互いに最大のサポーターである事実は変わらない。

■南しずか / Shizuka Minami

 1979年、東京都生まれ。東海大学工学部航空宇宙学科、International Center of Photography:フォトジャーナリズム及びドキュメンタリー写真1か年プログラムを卒業。2008年12月から米女子ゴルフツアーの取材を始め、主にプロスポーツイベントを撮影するフリーランスフォトグラファー。ゴルフ・渋野日向子の全英女子オープン制覇、笹生優花の全米女子オープン制覇、大リーグ・イチローの米通算3000安打達成の試合など撮影。米国で最も人気のあるスポーツ雑誌「Sports Illustrated」の撮影の実績もある。最近は「Sports Graphic Number Web」のゴルフコラムを執筆。

「撮影協力:Pictures Studio赤坂、ヨコハマスイミングクラブ」(THE ANSWER編集部・佐藤 直子 / Naoko Sato)