全日本選手権の女子ショートプログラムで首位に立った坂本花織 北京冬季五輪のフィギュアスケート日本代表を決める最終選考会を兼ねる全日本選手権。女子は、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器とする最有力候補だった紀平梨花がケガにより欠場。シ…



全日本選手権の女子ショートプログラムで首位に立った坂本花織

 北京冬季五輪のフィギュアスケート日本代表を決める最終選考会を兼ねる全日本選手権。女子は、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)を武器とする最有力候補だった紀平梨花がケガにより欠場。ショートプログラム(SP)では平昌五輪6位の坂本花織がプログラムの完成度の高さを発揮して完璧な演技を披露し、79.23点の高得点で首位発進した。

 国内大会なので得点は国際スケート連盟(ISU)非公認ながら、自己ベストを1.45点上回る会心の出来だった。技術点42.97点も、演技構成点36.26点も、出場選手中トップの得点をマークし、2位の樋口新葉に4.57点の差をつけた。

「全日本でびっくりするくらいの点数が出ると、その次のシーズンから国際大会でも全日本と同じくらいの点数が出るようになって、年々得点が上がってきているので、それが自分にとって自信になっている。今回、自己ベストを更新できたのはすごくうれしい気持ちだし、今後も点数アップを目指してもっと頑張らないと、と思っています。今日の出来は自分のなかでも結構よかったです。他の人の得点は気にしないタイプで、前の自分を超えるようにやっているので、人と戦うよりも自分と戦うつもりでやっています」

 SPの好結果を坂本はこう振り返った。

 この日のSPでは、2位の樋口から5位の三原舞依までの点差はわずか1点で、代表選考レースは25日のフリーの結果によって大きく左右される混戦となった。そのなかで一歩リードした坂本は、2大会連続五輪出場に向けて「今回は優勝して一発で五輪内定を決めたいです」と、照準を合わせてきた。

 4年前の五輪代表選考会では、「チャンスと運があれば......」という立ち位置だったが、今回はまったく違うと坂本は言う。自分のやるべきことをやれば、五輪代表切符は手に入ると確信しているからだ。

 大事な試合を前に、プログラムの完成度をさらに上げるために、平昌五輪シーズンからタッグを組む振付師のブノワ・リショー氏と一緒にプログラムの手直しをして、ミスのない演技ができるまで滑りこなしてきた。

【国際的にも高評価のプログラム】

「先週、ブノワ先生とリモートで(プログラムを)ブラッシュアップして、細かい部分をいっぱい修正して、ちょっとでも5コンポーネンツが上がるように手直しをしてもらった。SPの前には『今日は花織がやるべきことをしっかりわかっているから、集中してやるだけだよ』とメッセージをもらいました」

 坂本がシニアデビューした平昌五輪シーズンに躍進できたひとつの要因は、このリショー氏との出会いにあったと言っても過言ではない。坂本が持つ個性と感性、得意とする部分を存分に引き出し、課題にする部分を振り付けで補いながら、ステップアップさせるためにあえて実力よりも一歩先の難易度のプログラムを振り付けてきた。

 たとえば、SPで基礎点が1.1倍になるプログラム後半に3回転の連続ジャンプを跳ぶことは体力的にはきつい演技構成だが、いまでは坂本にとっては「譲れないこと」だと胸を張る。

「SPでの後半の3+3は自分にとっては欠かせないことなので、そこは前半で3+3をやる考えはまったくなくて、攻めの気持ちでいくだけだなと思ってやっています」

 坂本とリショー氏がタッグを組んで作り上げたプログラムは、国際ジャッジからも高く評価され、見る側にもインパクトを与えて魅了し、坂本の代名詞となる作品になっている。SP『グラディエーター』も、音楽にマッチしている坂本のスピード感あふれるスケーティングを存分にアピールするプログラムになっていて、大きく躍動する動きと力強さ、そして疾走感は見ていて気持ちがいいほどだ。

 演技後は、やり切ったという笑顔が広がり、キスアンドクライでは得点が出た瞬間、両腕を頭の上でぐるぐる回して大喜びをした。

「この試合の1週間前からすごく緊張していて、NHK杯以上に緊張を感じていたんですけど、この会場に入ると、『あっ、試合だな』と気持ちが入って、試合にあまり支障がないほどの緊張になっていた。6分間練習前には更衣室で(樋口)新葉と談笑して、お互いの緊張をほぐし合ったのがいい感じになったかな」

【「フェラーリと言われてます」】

 心の緊張をコントロールするとともに、体のコントロールも万全の準備を怠らなかった。試合前のウォーミングアップでは、寒風吹く中、会場の外に出てかなり走り込んだという。

「自分は動けば動くほど動けるタイプなので、よく先生たちからは『フェラーリ』と言われています(笑)。最初にエンジンをかけるのは時間がかかるけど、エンジンがかかり出すとすごく動くから、試合で動けるよう体を温めるためにすごく走っていました」

 今シーズンはGPシリーズ2大会で初戦のスケートアメリカで4位、2戦目のNHK杯で優勝してGPファイナル(コロナ禍のために中止)進出も決めた。しっかりと結果を出してきた五輪シーズンだけに、五輪代表入りを是が非でも実現させたいところだ。

「ここまでグランプリも自分なりに頑張ってきたので、オリンピック最終選考会で自分の演技ができたらいいなと思っています。誰よりも(五輪に)出たいという気持ちが強いと思うので、その気持ちが、緊張で弱ってしまいそうな自分の背中を押してくれたらいいなと思います。この全日本選手権ではSPもフリーもパーフェクトにできるようにしたいです」

 大会開幕前にこう抱負を語っていた坂本は、SPで有言実行を果たした。25日のフリーで勝負の行方はどうなるか。

「フリーも最後まで集中を切らさないように、パーフェクトに演技したいです」

 この目標を達成できれば、坂本の願いはかなうはずだ。