全日本選手権SPでトリプルアクセルを決めた河辺愛菜「(全日本選手権に向けては)ショートもフリーも(トリプルアクセルは)一…



全日本選手権SPでトリプルアクセルを決めた河辺愛菜

「(全日本選手権に向けては)ショートもフリーも(トリプルアクセルは)一本ずつ、入れていこうと思っています。自分は挑戦するしかないと思っているので」

 河辺愛菜(17歳、木下アカデミー)は甘い声で、強い意志を示していた。来年2月の北京五輪出場に向け、逆転で滑り込むにはトリプルアクセルにかけるしかない。演技を深めてきた年上の選手たちと対等以上に戦うには、大技が不可欠だった。

【唯一のトリプルアクセル成功】

 そして全日本選手権のショートプログラム(SP)、河辺は女子シングルで出場選手中唯一、トリプルアクセルを成功させている。

「今シーズンは練習からアクセルを跳ぶ回数が増えたので、自信になっていると思います」

 そう語る河辺は、試合でも高難度のトリプルアクセルにひるまず取り組んできた。「中に入らないように」や「踏み切りのタイミングを早く」など微調整を重ね、成功率は着実に上がった。10月の近畿選手権でSPでは初めてトリプルアクセルを着氷し、「今シーズンは(トリプルアクセルを)挑戦していきたいと思っていて、たとえ調子が悪かったとしても入れたいと、練習してきました」と不退転の決意だった。そして11月のNHK杯のSPでも、みごとに着氷していた。

 それだけに、今回の成功もフロックではない。

【国際大会の経験値が糧に】

 はたして、河辺はトリプルアクセルを旋回軸に大きく羽ばたけるのか。

 12月23日、さいたま。全日本のSP、河辺は第4グループの6分間練習でリンクに入っている。純白の衣装で、シルバーのストーンが煌めき、スケート靴まで真っ白だった。SPの使用曲「ビバルディの『四季』より『冬』」の演出だ。

 河辺は渾身のプログラムで、トリプルアクセルに果敢に挑んでいた。こらえて着氷したかと思えば、あっさり失敗もしたが、恐れないトライだった。前日公式練習、曲かけでもトリプルアクセルは転んでいたが、攻める姿勢を崩していない。あどけなさの残る表情は引き締まり、緊張の色よりも"やってやるぞ"という前向きな気概が強く浮き立った。

「6分間(練習)では、あまりよくなかったので、いいジャンプのイメージが来るのを待っていました」

 河辺は言う。大観衆のなかでも、少しも焦っていなかった。

「全日本はもっと緊張するかと思っていんたんですが、6分間で出た時、NHK杯でも大勢のお客さんを経験していたことで、ビックリせず、自然な演技に入れました。経験が力になったのかなと思います」



SP演技後、拳を握り、笑顔を見せた

【スピン、ステップでも見せた改善】

 観客を味方にしたのか。河辺は、基礎点が8点(他の多くの女子選手が飛ぶダブルアクセルは3.30点)になるトリプルアクセルを鮮やかに成功した。その勢いで、近畿選手権では失敗した3回転ルッツ+3回転トーループの連続ジャンプも成功で11.45点を記録。最後のジャンプ、3回転フリップも危なげなく降りた。

 加えて、スピン、ステップもすべてレベル4だった。トリプルアクセルは強大な武器だが、それだけに頼っているわけではない。大技に取り組みながら、技術を全体的に改善させてきた。たとえばプログラム全体を盛り上げるため、ステップで上体の動きを多く入れ、練習に時間を費やし、それがレベル獲得につながった。

「今日はすべてレベル4を取れたのがうれしくて。毎回、どこかで落としてしまっていたので。メンタル面でも成長できたのかなって思います。国際大会で緊張する戦いを経験することで、成長できたのかもしれません」

 トリプルアクセルに挑むという冒険心が、彼女を強くした。SPは74.27点で堂々の3位。最後、雪を拾って天に向かって投げる振り付けのあと、勢いよく両腕を振り下ろしたのは、会心の演技の証拠だ。

 北京五輪の扉が見えた。

「もちろん、全日本に出るからにはオリンピックに選ばれたいという気持ちは強いです。でも、あまり考えすぎると、演技に集中できなくなってしまうので。一番は、自分の最高の演技ができるように」

 河辺はおっとりとした口調だが、競技者としての野心もにじむ。そのバランスが、スケーターとしての幅を広げているのか。

【北京五輪出場のカギはトリプルアクセル】

 次のフリーでは厳しい勝負になるだろう。SPでも技術点こそ首位の坂本花織と0.04点差の2番目だが、プログラムコンポーネンツ(構成点)は6番目。優位に立つには、やはりトリプルアクセルにかけるしかない。それが、河辺の五輪出場の条件だ。

 誰よりも、河辺が腹をくくっている。

「今回は、思いきってやる、というのを一番大事に」

 意外なほど巨大な胆力で、確実に運も引き寄せてきた。NHK杯は全日本女王である紀平梨花のケガによる代替出場で、2位という結果を出している。勝負の世界、運も実力のうちだ。

「ショートは一個、課題をクリアできました。ただ、今シーズンはショートがよかったのに、フリーで失敗とかあって。そこも課題なので、今回は達成できるように」

 12月25日のフリー、河辺は「サラ・ブライトマン&Yoshiki『ミラクル』」で乾坤一擲の勝負に挑む。命運を握るトリプルアクセルは冒頭だ。