「特集:なぜ『呪術廻戦』にハマるのか」(9)証言者:井上浩樹(元ボクサー・漫画家) 特集記事一覧はこちら>> 呪いを祓(はら)う"呪術師"の戦いを描く、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の『呪術廻戦』。12月24日に…

「特集:なぜ『呪術廻戦』にハマるのか」
(9)証言者:井上浩樹(元ボクサー・漫画家) 特集記事一覧はこちら>>

 呪いを祓(はら)う"呪術師"の戦いを描く、『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の『呪術廻戦』。12月24日には、初の映画化となる『劇場版 呪術廻戦 0』が公開し、同作品にとって新たなステージを迎える。

 そんなクリスマスを心待ちにしているのは、WBAスーパー&IBF世界バンタム級王者・井上尚弥のいとこで、元ボクサーの井上浩樹(こうき)。昨年7月に現役を引退し、現在は漫画家として活動している。自身のツイッターで「一番ハマっている漫画」として挙げていたほどの『呪術廻戦』ファンで、映画化される「0巻」は何度も読み返しているという。

 そんな彼に、漫画家とボクサーの両視点から『呪術廻戦』の魅力を語ってもらいながら、井上尚弥の裏話なども聞いた。



井上尚弥のいとこで元ボクサー。現在は漫画家としても活躍する浩樹さん

──浩樹さんから見る、『呪術廻戦』の魅力を教えてください。

「僕はまず、主人公である虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)の物語への"入り方"に魅力を感じました。もともとは普通の高校生で、呪霊や呪力など何も知らないところから、急に呪術師の世界に入ってしまいましたよね。そんなゼロの状態で壁にぶち当たりながらも、ものすごいスピードで成長していく。僕の場合は、ボクサーとして強くなるまでかなりの年月を費やしましたけど、虎杖の呪術師としての人生の入り方、その後の歩みには感情移入してしまいました。

 物語の内容も、すぐに"特級呪霊"に遭遇して、最強の呪術師・五条 悟(ごじょう・さとる)先生が現れてと、どんどん強いキャラクターが出てくるじゃないですか。環境の変化、目の離せない展開の連続に、息をするのも忘れるくらい釘づけになってしまいました。加えて、画の迫力もすごい。魅力を挙げだしたらキリがありません」

──やはり漫画家の視点からも画力のすごみは感じますか?

「感じますし、それこそ僕は漫画家を志した頃、『呪術廻戦』の画を参考にさせていただいていた時期があるんです。今思えば本当に恐れ多いのですが(笑)」

【伏黒の領域展開は「鼻血もの」】

──どんな流れで漫画を描こうと?

「僕が現役時代からお世話になっている小説家の方がいるんですけど、一緒にご飯を食べている時に『君の人生を漫画にしたら面白いかもね』と言われたことがあって。その物語を描いてくれる漫画家を探してくれることになったんです。その後、候補がふたり見つかって、どちらの方も画のタッチが上手いので決めるのに1週間ほど悩んでいたんですが、小説家の方に『(悩むんだったら)自分で描いてみようか』と言われて。『あ、はい』と、急な展開で漫画家を目指すことになったんです。僕、言われたら断れないタイプなので(笑)」

──押しに弱いんですね(笑)。それまで漫画を描いた経験は?

「ありません。子どもの頃から模写することは得意だったんですけど、オリジナルを生み出すというのは経験がなくて。悩んでいた時、ハマっていた『呪術廻戦』を参考にしてみようと思ったんです。でも、いろんな描写を細かく見ながら参考にしようともがいたのですが、画のタッチを含めて何もかも次元が違いすぎて......。もう漫画家視点でこの作品を見るのはやめました(笑)。今は以前のように、いちファンとして追いかけています」



さまざまな角度から呪術廻戦の魅力を語った

──そういった試行錯誤の繰り返しの末に、漫画『闘え! コウキくん』の誕生があったのですね。では、『呪術廻戦』のアニメの魅力はどこに感じますか?

「迫力ある演出や、綺麗な作画ですね。特に両面宿儺(りょうめんすくな)vs漏瑚(じょうご)のバトルシーン。ここの映像は衝撃的で、『制作側の力が入っているな』というのが伝わってきました。なので、尚弥の弟・拓真に『このシーンだけでいいから見てくれ』と勧めたら、めちゃくちゃ好評で作品にハマってくれて。尚弥は僕の言うことを聞いてくれないので、勧めていませんが(笑)。

 あとは伏黒 恵(ふしぐろ・めぐみ)が領域展開『嵌合暗翳庭(かんごうあんえいてい)』を発動するシーンは鼻血ものでした。未完成なのに出しちゃう、みたいなところがたまらないです。伏黒は"不器用カッコいい"感じが好きなんですけど、『呪胎戴天(じゅたいたいてん)編』で宿儺に呪術師としてのポテンシャルの高さを見抜かれたじゃないですか。僕はそういう、実は潜在能力を秘めてますっていうキャラクターが大好きなんですよ。少し"中二病"みたいなところがあるので、なんかこう......疼いてくるというか(笑)」

【ボクシングでもあるマイフレンド感】

──確かに伏黒は秘めた才能を持ちながらも、それを解放するための本気を出すことができていませんでした。

「そこは共感する部分があります。僕も高校生の頃から、ボクシングの『センスがある』『ポテンシャルが高い』と周りに言われてたんですけど、それをどう引き出せばいいのかわからなかったんです。なので当時は、『おちょくられている』と感じて本気では捉えていませんでした。でも、それから10年経っても評価は変わらず、尚弥も『気づいてないだけだ』と言い続けてくれていたので、『あながち間違いじゃないのかも』と思い始めたんです。ただ、そう気づいた時には現役をやめていたんですけどね(笑)」

──そこまで認めていた井上選手から、漫画家の道に進むという選択に対して何か言われなかったんですか?

「いまだに『もったいない』って言われますよ(笑)。それまでも時々、『漫画は(現役を)やめてからでも描けるじゃん』『(ボクシングを)やりながら描けないの?』と言ってくれていて。気持ちが揺らぐこともあったんですけど、ボクシングだけを集中してやってきたので、漫画でも中途半端な考えでは上には行けないことはわかっていましたから、漫画を描くならその世界だけに身を置こうと。そう決めたんです」

──ボクシングひと筋でやられてきたからこその決断だったんですね。昨年まで現役だった浩樹さんの視点から、面白かったバトルシーンを挙げるとしたら?

「打撃系でいうと、(呪術高専の)東京校と京都校の交流会での虎杖&東堂 葵(とうどう・あおい)vs花御(はなみ)の一戦もよかったですし、禪院真希(ぜんいん・まき)のバトルもすごかったです。呪力がないのにあの体術! あれはヤバいですね」

──前者だと、殴り合ったり共闘するなかで、東堂が虎杖の悪癖を見つけて指摘するなど友情が芽生えていました。ボクシングでも、試合で拳を交えることで、東堂が言う「マイフレンド」になることはあるのでしょうか。

「ありますね。もちろん相手の人生までわかるわけではないですが、『ボクシングという競技に真っ直ぐで、真剣に取り組んできたんだな』というのは伝わってくるんです。そういう部分に共感して称え合うことはあります。試合後も、お客さんの拍手や歓声を聞くと、『ふたりで盛り上げたんだな』という気持ちになりますし、お互い腫れた顔で医務室に行って、途中で鉢合わせた時にちょっとニヤけ合ったりとか。そこは"マイフレンド感"があるかもしれません」

【井上尚弥が呪力を持ったら?】

──ちなみに、井上選手が呪力を身につけたとしたらどうなると思います?

「チートですよね(笑)。彼だとジャブが"黒閃(こくせん)"になっちゃいそうなので、できれば呪力は持たないでほしい。でも、もし本当に呪力があるとしたら、彼はあそこまで強くなっていないとも思うんです。先ほど挙げた禪院真希も、呪力がないから体術を極めたわけじゃないですか。だから尚弥も、他に特殊な能力がないからボクシングを突き詰め、絶対的な強さを手に入れたんじゃないかと」

──確かに、呪力があるとその力に頼ってしまいそうですもんね。

「はい。それに呪力があっても、彼は難しいことが苦手なので、面倒くさがって使わないかもしれません。何かのサービスを使うためにアカウント登録が必要な時も、『どうやるの?』となってしまう感じですから(笑)」

──では、あえて今の井上選手に呪力をつけ加えると考えたら、どんな能力が合いそうですか?

「恐ろしくてあまり考えたくないですけど......(笑)。東堂の"不義遊戯(ブギウギ)"があったら最強かもしれませんね。打たれそうな時にレフェリーと入れ替わって、横から攻撃する、みたいな(笑)。でも、映像でバレちゃいますかね。誰にもギリギリわからないぐらいの能力のほうがいいかもしれません」

──狗巻 棘(いぬまき・とげ)の"呪言師(じゅごんし)"としての能力はどうでしょう。

「あ、それですね! 軽くジャブを打った時に小声で『ふっとべ』って。日常会話はおにぎりの具しか話せないので、インタビューを受けられなくなりますが」

──それに加えて、井上選手が"領域展開"まで使えるようになってしまったら......。

「12月14日に行なったタイトル防衛戦でも、強烈なジャブで相手にペースを渡さず"自分の空間"を作り上げていたのですが......今思えばあれが、尚弥の"領域展開"だったかもしれませんね(笑)。相手に反撃できなくさせて、なおかつこちらの攻撃は絶対当たるという能力で」

──となると、井上選手はすでに呪術師だったのかもしれませんね(笑)。最後に、今後の『呪術廻戦』への期待を教えてください。

「まずは『劇場版 呪術廻戦 0』がめちゃくちゃ楽しみです! 僕はこの作品のなかで0巻が一番好きなんです。物語の起承転結、こんなに完璧な一冊はないと思っています。だから劇場版が決まる前から『0巻、映画でやらないかな』とずっと思っていたので、公開次第すぐに見に行きたいです。

 それに僕にとって、本来なら憂鬱になりがちな週初めを乗りきれるのは、『呪術廻戦』のおかげなんです。毎週月曜日に発売される『週刊少年ジャンプ』が楽しみで仕方がないんですよ。だから今後も、漫画でもアニメでもすばらしいシーンが見られることを楽しみにしています!」