4月上旬、東京・辰巳の森海浜公園ラグビー練習場。国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦するサンウルブズが、全体練習後の特別メニューを始める。「クラウチ、バインド、セット!」 長谷川慎スクラムコーチの掛け声のもと、FW第1列の選手がスク…

 4月上旬、東京・辰巳の森海浜公園ラグビー練習場。国際リーグのスーパーラグビーへ日本から参戦するサンウルブズが、全体練習後の特別メニューを始める。

「クラウチ、バインド、セット!」

 長谷川慎スクラムコーチの掛け声のもと、FW第1列の選手がスクラムの組み方を確認する。ここで目を引いたのは最前列中央、HOの日野剛志だった。左隣に入ったPRの稲垣啓太へ「肩、意識。肩、意識」とアドバイスを送っていたのだ。

 スーパーラグビーに3季連続挑戦中の稲垣だが、長谷川コーチの指導を受けるのはその時が初めて。合流して間もないなか、チーム内の正しい姿勢を実践的に学んでいた。

 かたや今季からスーパーラグビーに挑む日野は、国内所属先のヤマハで5年間、長谷川のメソッドに触れている。相手と組み合って視野が狭まりがちなところで、対面に向かって肩をせり出すべしというチェックポイントを連呼する…。そのあたりに、積み重ねの妙がにじむ。

 後日、当の本人はこう振り返った。

「わかっている人が、ほかの人を引き上げるというか…。全員が同じスクラムを組めるのが一番なので。(長谷川コーチの理論を)わかっている方の人間だと思っているんで、その部分に関しては引っ張っていけたら。自分も(発言を通して)確認をしながら、成長していくイメージです」

 ラグビー日本代表は4月22日、今年度最初のテストマッチに挑む。敵地・仁川の南洞アジアードスタジアムで、韓国代表とのアジアラグビーチャンピオンシップ(ARC)初戦をおこなう。ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが若手中心のメンバー編成をおこなって臨むこの一戦で、日野も先発する。

 出場メンバーは4月10日からの約1週間、辰巳でナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)の第4回キャンプに参加していた。日本代表とサンウルブズは協調関係にあり、戦術やプレースタイルを共有。ARCの選手群にもサンウルブズのプレーヤーが並んでおり、日野もその1人だった。

 元日本代表PRでパナソニックの相馬朋和ヘッドコーチが、サンウルブズの長谷川コーチの手法に沿ってスクラムをチェック。そんななかでも、長谷川コーチの薫陶を受けた日野の存在は大きいようだ。初めてナショナルチームに加わる若手選手らに、他のサンウルブズ勢らと知識を落とし込む。

「リンクさせないといけない。知っている人間がいろいろと言い合って、サンウルブズと代表のやっているスクラムを近づけよう、ということです。時間もないので、早く高いレベルのスクラムを組めるように、形にしないと…。(選手によっては)それまでとやっていることが違ってやりづらさもあると思うのですが、皆、早く覚えようとしてくれています。フロントロー同士でいいコミュニケーションも取れている」

 福岡・筑紫高、同大を経てヤマハ入りした27歳。身長172センチ、体重100キロと決して大柄ではないが、スーパーラグビーデビューを果たすや鋭いコンタクトを披露。手ごたえをつかんだ。いまは第2節で負った右足首の故障が癒え、徐々にコンディションを上げている。

 サンウルブズの本隊は、目下、海外遠征中。かたや日野は、置かれた立場でベストを尽くす。NDSで汗を流していた頃、自らの態度をこう明かしていた。

「ここにいた方が試合までの時間がある分、厳しいこと(練習)やいいチャレンジができる。ここでしっかりトレーニングをして、100パーセントの状態に戻る。まずはアジアの戦いで(成果を)出したいな、と」

 実戦に戻る前に、身体に試合以上の負荷をかけられる。そのことを前向きに捉えていた。若きジャパンにおけるスクラムの頭脳は、自身3つめとなるテストマッチで復調ぶりを示すか。(文:向 風見也)