【取材・構成:大恵陽子=コラム『今週のface』】 “小さな馬”で話題のメロディーレーンと、菊花賞を逃げ切り勝ちしたタイトルホルダー。無尽蔵のスタミナを武器に中長距離で活躍するこの2頭は姉弟で、北海道新ひだか町にある岡田スタッドで生まれま…

【取材・構成:大恵陽子=コラム『今週のface』】

“小さな馬”で話題のメロディーレーンと、菊花賞を逃げ切り勝ちしたタイトルホルダー。無尽蔵のスタミナを武器に中長距離で活躍するこの2頭は姉弟で、北海道新ひだか町にある岡田スタッドで生まれました。

前編ではメロディーレーンや、2頭が過ごした広大なえりも分場のお話をお届けしましたが、後編では岡田スタッドグループ代表・岡田牧雄氏が早くから期待を寄せていたタイトルホルダーについてお話を伺いました。

※このインタビューは電話取材で行いました

◆ビッグレッドファームで2歳選抜馬たちが対決

――前編では中期育成を担うえりも分場の役割について詳しくお話しいただきましたが、タイトルホルダーもえりも分場の過酷な環境を耐え抜いた1頭なのでしょうか?

岡田 タイトルホルダーも1度も挫折することなくクリアしています。

――2歳春にはビッグレッドファーム、コスモヴューファーム、岡田スタッドがそれぞれ選抜した馬同士で行う練習試合のようなものに、タイトルホルダーを連れて行ったそうですね?

岡田 そうです、2歳の3月に連れて行きました。以前から兄(故・岡田繁幸氏)に「強い馬がいたら連れて来いよ」と言われていて、最初に連れて行ったのはマツリダゴッホでした。

――2007年の有馬記念を勝った馬を!

岡田 でも、マツリダゴッホは全然敵わなかったんです。タイトルホルダーで4〜5頭目ですかね。6頭立ての6着でしたから対等とまでは言わないですけど、これまで連れて行ったうちの馬の中ではとても走った方です。

 岡田スタッドの方針として、成長を妨げないということがあります。すごく丈夫に育てますけど、デビューは遅いですね。

――早期デビューを目指すのではなく、じっくり成長を待つということですか?

岡田 そうです。化骨は5歳にならないと終わりません。日本ダービーを本気で獲ろうと思ったら、2歳夏にデビューさせないとなかなか難しい一面もありますが、三大クラシックは捨ててもいい、4〜5歳になってから花が咲けばいい、と思ってやっています。

 日本は賞金体系が非常にいいので、古馬になってから稼いだ方がいいという考えが前提にあります。クラシックの夢をお持ちの馬主さんからは反感を買いますけどね(苦笑)。

◆何千頭と見てきた中で、抜けて高い心肺機能

――そうした方針にある意味反して、タイトルホルダーは弥生賞を勝って、皐月賞(2着)、日本ダービー(6着)と駒を進めました。

岡田 2歳春にビッグレッドファームでの対決に連れて行った時から「この馬で菊花賞を獲るぞ!」と、スタッフみんなと言っていました。馬格や血統背景から見ても、超のつく長距離馬だと思っていました。

 うちの中ではズバ抜けて動きが良くて、菊花賞のためには無理して皐月賞や日本ダービーは使わないという話をしていたんですけど、弥生賞を勝ってしまったので。

――勝って“しまった”と表現されるあたり、岡田氏の想像を超える活躍を早くから見せたことが窺えます。そうすると、菊花賞を勝った時のお気持ちというのは?

岡田 もう気持ちよかったです。セントライト記念では包まれて終わり、という競馬でしたが、「あれは横山家の血だから、あれでいいんだ。次のレースでは、とんでもなくきちんとやるだろう」と思いました。

 そのセントライト記念の時も「1000mを1分で行って、4コーナーで5馬身離してほしい。そしたら負けないだろうし、最下位になったら私が責任を取る」と考えていました。菊花賞でも同じように伝えていたら、ゲートを出た瞬間にすごく追っていて、1000m通過は57秒くらいじゃないかなと思いましたが、実際には60秒0。その通過タイムをアナウンサーが言った時点で「勝ったな」と思いました。

 タイトルホルダーの心肺機能は、私が今まで何千頭と見てきた中で抜けて高いですね。

――それだけ高い期待を寄せるタイトルホルダーが菊花賞馬という立場で有馬記念に向かいます。

岡田 4歳になったらさらに強くなるから、年内の出走はやめようという話をしていたんですけど、菊花賞後に馬体重も10kg〜20kg増えてすごく良くなっているということですし、菊花賞馬でファン投票3位に選んでいただきましたから、「じゃあ、有馬記念に行こう」と。

 ファンが意思表示をして出走馬を選べるのは宝塚記念と有馬記念の2つだけですから、それは尊重すべきだと思っています。タイトルホルダーはファン投票の結果が出る前から出走が決まっていましたが、万が一在厩のまま次走が未定だったとしても、ファン投票3位という結果を見たら「これは使おう」と言うと思います。

――レースぶりとしては、菊花賞のイメージでしょうか?

岡田 4コーナーを回る時に5馬身離していれば、逃げ込むことも可能じゃないかと思っています。(有馬記念で騎乗する)横山和生騎手のお祖父さんで元騎手の故・横山富雄さんはアーティスト的なセンスをもっていた方で、レースで自分の世界に入れるジョッキーだと思っています。その血が(横山)武史くんや和生くんにも流れているはずで、横山家の血を私はある程度、信頼しています。

 (文中敬称略)