12.26国立代々木競技場第2体育館で佐々木大輔の持つDDT UNIVERSAL王座に挑戦する高梨将弘。2003年にデビュー、その後国内だけではなく海外にも活動の場を拡げた高梨。今回は酒呑童子や3年ぶりに佐々木大輔とタイトル戦を行う心境を聞…

12.26国立代々木競技場第2体育館で佐々木大輔の持つDDT UNIVERSAL王座に挑戦する高梨将弘。2003年にデビュー、その後国内だけではなく海外にも活動の場を拡げた高梨。今回は酒呑童子や3年ぶりに佐々木大輔とタイトル戦を行う心境を聞いた。

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――2014年に高梨選手は酒呑童子を結成しました。それ以前は誰かと集団で行動する印象が薄かったように感じます。

高梨将弘(以下 高梨):ベルトハンター×ハンターに所属していたけど自分主導ではなかった。2012年4月、KO-D無差別級ベルトを戴冠。短い期間でしたがベルトを獲得したことで一つの目標を達成しました。再びKO-D無差別級王座を戴冠したい気持ちもありましたがタイでの活動に重きを置いていました。

それが2014年に酒呑童子を組むことにより、自分の中で「DDTとタイ」の二国で戦うバランスが取れた気がします。

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――その酒呑童子が始まった経緯を教えていただけますか?

高梨:僕がKUDOさんを誘いました。当時KUDOさんはHARASHIMA選手とヤス・ウラノ選手とウラシマクドウを組んでいました。KUDOさんに何度かアプローチして加入が決まりましたね。そして坂口征夫さん、彼はそれまでガッチリとユニットで活動することがなかった。だから一緒に組んだら面白いんじゃないかと誘い、坂口・高梨・KUDOで酒呑童子が結成しました。基本的にお酒が好きな3人。見ている人にも分かりやすいユニットだったと思います。

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――高梨選手は2018年DDTドラマティック総選挙で個人部門1位、酒呑童子としてユニット部門1位を獲得し二冠達成しました。

高梨:この頃、僕の中でDDTは過渡期で変革の時期だと思っていました。ファンの皆さんから支持を得たので「僕の思うDDTをもう一回作って行けたら…」とKO-D無差別級王者の佐々木大輔に挑戦しました。でも勝てなかった。佐々木に敗れたことでDDTが変わるキッカケに自分はなれなかったですね。

――高梨選手を見てプロレスを好きになった友達がいます。いつも彼女は「高梨選手には自分のためにベルトを奪って欲しい。時には自分のためにプロレスをして欲しい」と話しています。

高梨:僕は誰かのためにプロレスをしているつもりはないですね。「ファンのためにプロレスをしている」と言うレスラーもいますけど、僕は1度も言ったことはない。他の人から見るとそのように感じるのかもしれないけど本当に自分のためにプロレスをしています。「こうした方が面白いじゃん」と思って動いていることが、結果として他の人のためにプロレスをしているように映るのかも知れませんね。

例えばタイに行ったのもさくらさんのためではなく「面白いな!」と感じたからですし、タイに何度も行って生徒に指導したのも「タイでプロレス文化を作っていくのが面白い」と感じたからです。自分の中では面白いと思った感覚が、他の人には「誰かのために無理をしている」と見えるのかも知れない。でも自分では面白いしプラスになると思うから取り組んでいます。

ミクスドマッチに関しても周りの方から「仕事を選んだ方がいいよ」と言われたこともあります。でもこんなに面白い試合をする選手達がいても伝わらないのかな?ミクスドマッチをすることによって学ぶことが沢山ある。学びがあるしプラスになると思っているから全部やっているんです。逆に周りから「これいいよ」と勧められても、自分が良いと思わなければ僕は動かないと思います。

――高梨選手が自分のためにプロレスをしていることを友達に伝えておきます(笑)。ところで高梨選手はデビューして18年。これまで戦ってきて印象に残っている試合はありますか?

高梨:印象に残っている試合よりも、シーンとして印象に残っている場面はあります。例えば、DDTが新木場でビアガーデンを開催していた時、最終戦でファンも交えてお酒を飲んでいました。自分が一番後ろの席に座り周りを見渡したらお客さんと選手が本当に楽しそうにしていた。選手もファンも笑顔で楽しそうに同じ時間を共有している。そういうシーンが印象に残っているんですよね。あとは初めてDDTが両国国技館を開催した時、DDTの手作りの電飾がありました。大会前日の夜、今林さんらが作成したのを僕は知っている。本当に手作りで、選手・スタッフが一丸となって両国大会を作り上げた。その空間が僕は好きなんです。DDTという団体で生まれ育ち、自分が思う「いいな」と思える瞬間がDDTにはたくさんあります。活字では伝えにくいですよね(笑)。

――レスラーの方に印象に残った試合は?と聞くと「初めてメインのリングに立った後楽園」「目標としていた選手に勝つことができた〇〇体育館」という回答を得ることが多いので高梨選手のように「シーン」で回答をしてくれた方は初めてです。

高梨:そうですか。それ以外にもたくさん印象に残っているシーンはありますよ。DDTで初めて両国国技館大会を行った時、最初のダークマッチに出場する選手を全選手で送り出し、試合後の選手を全選手が拍手で迎える。他の競技では考えられない。プロレスならではの…僕はDDTで育ったので「DDTならではの空気」がすごく好きですね。でもその空気をタイやシンガポールで感じることもあります。フィリピンでも感じました。フィリピンは途上国で小さい団体、選手もつたない。でもそんな環境でも興行のために選手を必死で集める。自国だけで足りないから海外の選手に声をかける。シンガポールやタイの選手、東南アジアの選手が集まり、ようやく興行が開催できる。現地でのプロレス興行は大切なお祭りです。他人から見るとつたない大会かもしれない。でもそこにエネルギーがある。それはどんなに整備された国で行われる大会よりも僕にとって好きな空気なんです。それを感じた時、「DDTならではの空気」を思い出しますね。

――以前、彰人選手がDDTを選んだ理由は「控室の雰囲気が良かったから」と話してくれました。試合後の選手を全選手が拍手で迎える団体はDDT以外ないと思います。

高梨:僕もそのDDTならではの雰囲気が好きでレスラーを続けている気がします。

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――ところで高梨選手は2020年3月に怪我をして長期欠場。2021年1月に復帰戦を予定していましたがコロナ禍で延期になり、7月チョコプロで復帰。10月に新宿FACEで自主興行を行い、そのメインでバラモン兄弟と戦いましたね。

高梨:彼らは闘龍門の9期生で同期です。それだけにすごく思い入れのある相手。クリス・ブルックスにCDKとして日本で戦いたい相手を聞いたらバラモン兄弟の名前が上がった。僕も彼らと戦いたかった。それでクリスの一つの夢であるバラモン兄弟との戦いが実現しました。

そしてもう一つの夢としてCDK vs酒呑童子(KUDO、坂口征夫)。それはリング上で夢として残しておこうと。言えば叶うかもしれないですから。

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――「言霊」と言いますから言葉にすることは大切ですよね。ところで12.26代々木で佐々木大輔選手が持つDDT UNIVERSAL王座に挑戦します。タイトルを賭けて戦うのは、いつ以来でしょうか?

高梨:タイトルマッチは2018年11月以来ですね。DDTドラマティック総選挙で個人部門1位になり佐々木の持つKO-D無差別級王座に挑戦しました。DDTの節目の時で自分がタイトルを獲得しDDTの舵を取ろうとしたけど佐々木に跳ね返られて、自分の思う形に持っていけなかった。

――3年越しの雪辱を果たす戦いになりますね。

高梨:形的にはそうなります。怪我で欠場している時も佐々木は「タイトル戦は高梨だ」と自分の名前を呼び、リング上で松葉杖を蹴飛ばされこともある。僕の壁であり、いろいろと縁のある相手だと思っています。でもここで区切りをつけて、その壁を越えないと自分が思う世界を作れない。自主興行をして自分の場所を作った。でもDDTという枠の中で何かしたい場合、勝負に勝たなければできない。

佐々木は勝負所で強い選手です。負けることはあっても相対的に勝っている。DDTの中に佐々木の色がある。その色を塗り替えるつもりはないけど、別の色を作っていきたいですね。欠場中、DDTを外から見てDDTの舵を切って新しい何かを作っていく意識はなかったけど、12.5後楽園でクリスに「次の挑戦者はマサ・タカナシ。マサ頑張ってください」と言われて、もう1度やらなければいけないと思った。もしやらなければ3年前のタイトルマッチと同じになってしまう。3年前、佐々木とのKO-D無差別級タイトルマッチで負けた後、DDTの中で自分の思ったものが作れなくなった。だから同じことは繰り返さないようにしようと思っています。

――DDT UNIVERSALのベルトを獲得した先は想像していますか?

高梨:考えますね。DDTにはKO-D無差別級王座やDDT EXTREME王座、O-40王座等、シングルのベルトがあります。その中でDDT UNIVERSAL王座は世界に向けた意味合いを持っているベルト。ただコロナ禍になり海外に行くことも難しいし、海外からレスラーを招聘することも難しい。ただ別の視点で見るとDDT UNIVERSAL王座は国内でDDT以外に持ち出すべきベルトだと思っています。国内なら自分が一番外に持ち出せる選手だと思うし様々な選手と戦えるはず。それにDDTにかつて所属していた選手がフリーや様々な団体で活動しています。そういった選手たちと外でタイトルマッチをするのも面白いと思います。

またWRESTLE UNIVERSEは海外に配信しています。僕が携わっている我闘雲舞が運営している配信専用のチョコプロも海外の視聴者が多いんです。YouTubeなので世界中で見てもらっている。その人たちにも「DDT UNIVERSALというベルトがあり、DDTという団体がある」と知ってもらう良いプロモーションになると思います。ですからDDT UNIVERSALのベルトは是が非でも欲しいですね。

――高梨選手は、様々な国で試合をしています。DDT UNIVERSALのベルトを持ち、改めて過去試合をした国でタイトル戦を行うことも可能ですよね。それでは最後にファンの方にメッセージをお願いします。

高梨:これから先自分が作っていくプロレスは、僕以外のDDTの選手では作れないものだと思っています。DDTの選手を揶揄するものではなく、一年半休んだからこそできることもある。この欠場した期間をプラスに変えられるのは自分だと思っています。そのためにはDDT UNIVERSALのベルトが必要です。だからベルトを獲得しその先を作っていく姿を見て欲しいと思います。

<おわり>

<インフォメーション>
12.26東京・国立代々木競技場 第二体育館「NEVER MIND 2021 in Yoyogi」にて高梨将弘選手が佐々木大輔選手の持つDDT UNIVERSAL王座に挑戦します。
タイトルを賭けた2人の戦いが行われるのは2018年11月に後楽園ホールで行われたKO-D無差別級王座戦以来、3年ぶり。その時敗れている高梨選手は雪辱を果たせるか!詳細はDDTプロレスリング公式サイトをご覧ください
また試合は動画配信サービスWRESTLE UNIVERSEで生配信されます

高梨将弘Twitter
DDTプロレスリング Twitter

取材・文/大楽 聡詞
写真提供/DDTプロレスリング