【浦和レッズ対大分トリニータ 12月19日】 こんな出来過ぎた物語を書く人はいないだろう。 83分にピッチに入って来た槙…
こんな出来過ぎた物語を書く人はいないだろう。
83分にピッチに入って来た槙野智章に、惜別の何かを期待しても、運よくば浦和での最後のゴールを期待しても、それは追加点というのものはずだった。
国立競技場には57785人。こんな観衆の数を見るのはいつ以来だろうか。
その国立競技場を誰も追いつかないくらい疾風にように走り回って、ユニフォームを脱ぎ、ファンの前でもみくちゃという光景はさすがに想像できなかった。槙野は長い興奮と歓喜の後でレフェリーからイエローカードを受ける快感を味わっていた。
大分は粘るだろうな、とは思ったが、6分というあまりにも早い時間の失点があった。大分のディフェンダーに囲まれた関根貴大から戻されたボールを江坂任はゴールに蹴り入れた。
これで試合は、別の形になる。
0-0で試合を進めて勝機をうかがう、という片野坂知宏監督が描いていたプランは違うものになった。どこかで追いつかなければならないからだ。
その結果、大分が試合を支配しているように見える展開になった。FKの数は15で3つ、CKの数は5で浦和を1つ上回った。
■ムードは一気に「もしかしたら」に変わった
先週の川崎との試合で負傷退場したペレイラが出場できたのは大分に幸いした。ペレイラは献身的にプレーを続けて、キャスパー・ユンカーも押さえこんだ。
そして、90分、自らのヘッドを浦和のゴールに突き刺した。
ムードは一気に「もしかしたら」に変わった。
5分のロスタイム。
また、延長かな、とも思った。
だが、私の位置からゴールのシーンは見えなかったが、両手を大きく広げて走り出した5番が見え た。
槙野だった。
槙野は浦和ベンチから飛び出してきた選手たちを振り切った。
試合終了の笛。私は槙野を見ていた。
槙野は拳を握りしめて両手を広げた。何か叫んでいた。
槙野の顔に笑みが浮かぶのはそれから数秒経ってからだった。
試合とは不思議なものだ。
もし、この試合が1-0のまま終わっていたら、普通に浦和が優勝しただけだった。
だが、最後の最後に槙野という大きなオマケがついたことで、これは忘れられない天皇杯決勝になった。リカルド・ロドリゲス監督が用意したプレゼントに槙野が答えたからだ。
浦和のお祝いは続いていた。
「片さんありがとう」というバナーが反対側の大分サポーター席の前にあった。
大分のファンは整然と選手たちと記念写真に収まった。