2016年プロ野球ドラフト会議。田中正義投手を外した北海道日本ハム、千葉ロッテ、巨人、広島、柳裕也投手を外した横浜DeNAを含む計5球団から外れ1位指名を受けた佐々木千隼投手。抽選の結果、千葉ロッテが交渉権を獲得。外れ1位の5球団重複は史上…

2016年プロ野球ドラフト会議。田中正義投手を外した北海道日本ハム、千葉ロッテ、巨人、広島、柳裕也投手を外した横浜DeNAを含む計5球団から外れ1位指名を受けた佐々木千隼投手。抽選の結果、千葉ロッテが交渉権を獲得。外れ1位の5球団重複は史上初のことだった。

■史上初の外れ1位5球団競合右腕、キャンプから越えてきたいくつもの壁

 2016年プロ野球ドラフト会議。田中正義投手を外した北海道日本ハム、千葉ロッテ、巨人、広島、柳裕也投手を外した横浜DeNAを含む計5球団から外れ1位指名を受けた佐々木千隼投手。抽選の結果、千葉ロッテが交渉権を獲得。外れ1位の5球団重複は史上初のことだった。

 サイドスローに近いスリークォーターから繰り出される最速は153キロ。スライダーやシンカーなど多彩な変化球を操る。大学時代、連続イニング無失点記録を53回とし、巨人・菅野智之投手(東海大)のリーグ記録と並んだ。そして2016年、首都大学リーグ1部初優勝の立役者となった。大学通算では24勝を挙げ、そのうち13勝は完封という好成績を残し、十分すぎるほどの実績でプロの世界に飛び込んだ。しかし、佐々木がプロ初勝利を挙げるまでにいくつもの壁が立ちはだかった。

◯2017年2月、石垣島での1軍キャンプ

 序盤はフォームが固まらず、制球にも悩まされ、思い通りの球を投げることができない。苦しい胸の内を投手コーチやチームの先輩に吐露することもあった。ブルペンでは多数のテレビカメラに追われ、練習後にはコメントを求められた。環境に慣れず、ブルペンに入る度に緊張した。自信を失いかけていた第2クール、右手中指の爪が割れるアクシデント。悩みの絶えない日々が続き、口数も少なくなった。それでもキャンプ終盤、フリー打撃に登板すると、「ブルペンよりいい投球ができた。」と、少しずつ前向きなコメントが出るようになる。

◯2月26日(那覇)、巨人とのオープン戦

 紅白戦とは違う緊張感が漂う中、対外試合初登板。予定通り1回を投げ、失策で出塁した走者の生還を許したものの打者4人に無安打。まずまずの出だしとなる。

■オープン戦4試合で防御率0.59、伊東監督が開幕ローテ入りを決断

◯3月4日(ナゴヤドーム)、中日とのオープン戦

 先発としてのデビュー戦となったこの試合。「緊張はしたが、ゼロで抑えられて良かった」と語ったように3回51球、被安打3、奪三振2、無失点と上々の投球。首脳陣へのアピールに成功する。

◯3月12日(横浜スタジアム)、横浜DeNAとのオープン戦

 先発投手として5回を投げ8安打を浴びる。しかし、相手のミスや味方の守備に助けられ、なんとか1失点に抑えた。この日は桜美林大学の関係者が複数球場に応援に駆け付け、翌々日には大学の卒業式を控えていた。この勝利で大学の仲間たちに良い報告ができる。卒業前に、白星をもぎ取ったあたりに、佐々木投手の勝負強さが垣間見える。

◯3月22日(ZOZOマリンスタジアム)、中日とのオープン戦

 開幕前最後の登板となったこの日は、6回1/3、88球を投げて、被安打4、1失点(自責点0)。悪い結果ではなかったが、内容が良くなかった。球にばらつきが出て、与四球4。不満、不安が残った。結果オーライでは済まされないのがプロの世界。「ストレートがあまり良くない」と佐々木は自身のこの日の投球を振り返った。文句なしの結果で先発ローテーション入り確定とはならなかった。

 オープン戦4試合で防御率0.59、1勝0敗。結果だけ見れば好成績といえる。制球、フォームに苦しむなど、課題はまだ山積みだったが、伊東監督が決断を下す。オープン戦最後の登板から4日後の3月26日、開幕ローテーション入りが決定。4月6日、北海道日本ハム戦での先発を言い渡された。「投げながら覚えていくでしょう」伊東監督は期待をこめてそう語った。

■プロ初登板で初勝利、ピンチにも動じないピッチングを披露

◯4月6日(ZOZOマリンスタジアム)、北海道日本ハム戦

 いよいよプロ初登板。初勝利をお膳立てするかのような青空のもと、試合は始まった。好調だったオープン戦での成績が嘘のように、開幕後は4連敗と不調なスタートとなった千葉ロッテ。前日の試合で辛うじて今季初白星を挙げていた。しかしバッテリー、守備の連係不足による失点が相次ぎ、不安要素は拭えない不完全な試合内容だった。この不穏な流れを断ち切るためには若手エースの君臨が必要だ。

 本拠地での大歓声が送られるなか、プロ初登板のマウンドに上がった。初球で西川からストライクを奪い、初回、3者凡退と好調な滑り出し。毎回四球を出したものの、5回3安打1失点。粘りのピッチングで投げ切った。5回、ランナーを背負いつつもわずか3球で侍ジャパンの主砲・中田から三振を奪う。そのピンチにも動じない攻めのピッチングは圧巻だった。

 6四球と課題の残る内容ではあったものの、昨シーズン日本一に輝いた打線から5奪三振。佐々木投手にとって大きな自信につながったことは間違いないだろう。

 入団から初勝利まで、苦悶し続けた日々は、確実にゴールデンルーキーの糧になっていた。20日のソフトバンク戦ではプロ2戦目の先発マウンドに上がる。ルーキーイヤーとなる今年、持ち前の負けず嫌いな性格と勝負強さで、公言通り新人王の座を勝ち取ってくれることを期待したい。

(記事提供:パ・リーグ インサイト)

「パ・リーグ インサイト」編集部 山本理絵●文