Bリーグの市民クラブが目指す独自のスタイル Bリーグは世界のバスケットボール界でも、“選手の平均年齢が最も高いリーグ”と…
Bリーグの市民クラブが目指す独自のスタイル
Bリーグは世界のバスケットボール界でも、“選手の平均年齢が最も高いリーグ”と聞いたことがある。
ヨーロッパなら傘下のユースチームから選手をどんどん引き上げる仕組みがある。だからリッキー・ルビオ(キャバリアーズ)は14歳11か月、ルカ・ドンチッチ(マーベリックス)は16歳2か月でトップデビューを果たした。アメリカは日本と同様に大学バスケが育成のメインルートだが、エリート選手は中退して19歳や20歳でNBAのコートに立つ。対する日本は「22歳のプロ入り」が一般的で、どうしてもプロ選手の平均年齢も高くなる。
ただ、レバンガ北海道は若手を積極的に起用し、“育てながら勝つ”戦いを見せている。B1はまもなく中盤戦だが、ここまでの戦績は9勝10敗とまずまず。102-93の逆転勝利を挙げた12月15日の茨城ロボッツ戦は23歳の山口颯斗、25歳の葛原大智と中野司がそれぞれ20分以上のプレータイムを得ていた。
佐古賢一ヘッドコーチ(HC)は「ミスターバスケットボール」の二つ名で知られる往年の名選手。今年3月には日本人として2人目となる、FIBA(国際バスケットボール連盟)殿堂入りを果たしたレジェンドだ。学生時代からの友人である折茂武彦社長との縁もあり、今季からレバンガの指揮を執っている。
レバンガは典型的な市民クラブで、人件費もB1の22チームの中では下から数える方が早いだろう。佐古HCは述べる。
「ビッグクラブは、お金でいろんなことが解決できるかもしれませんけど、より多くのチームは選手を育てながらチームを形成していくスタイルを求めています。我々も例外ではなく、若い選手をしっかりゲームに起用して、経験値を上げて、チームに貢献できる存在となるように日々頑張っています」
目指すスタイルは“ディフェンスファースト”だ。
「オフェンスは水ものです。我々はタレントが数多くいるチームではないので、ディフェンスのチームとして、一人ひとりができる範囲の全力をコートで出そうということでチームを形成しています」
100点以上を奪って勝利した試合後でも、こう釘を刺していた。
「103点を取れたことに、選手たちが勘違いしないようにしたい。我々は80点を取って、70点台に抑えていくゲームをしっかり心がけて今後も戦う」
中野が取り組むディフェンス面の改善
若手の成長について、指揮官はこう見る。
「数字になかなか出ないところですけれど、まず山口(颯斗)選手のディフェンスに対する気持ちとリバウンドは、シーズンを始める前よりかなり上がっています。あと葛原(大智)選手、中野(司)選手も積極的に3ポイントを打ちながら、ディフェンスの意識をかなり上げてきています」
ただ中野はディフェンス面の課題を指摘され、改善に取り組んでいた。彼は185センチ・84キロのシューティングガードで、山口とともにチームを背負う人気選手でもある。
中野は開幕から10試合連続で先発を任されていたものの、その後8試合はベンチスタート。しかも直近の3試合はプレータイムが4~5分と大きく減少していた。ただ茨城戦は先発に戻り、24分23秒のプレータイムで17点を記録。課題の守備面についても、一定の成果を出していた。
中野はこう説明する。
「ピック&ロールのところで、オフボールのスクリーンの抜け方を指摘されていました。プレータイムの少ない時期に、アシスタントコーチに手伝ってもらって改善しようとやりました。まだまだ課題は残っているんですけれど、いい部分も出せたと思います」
ピック&ロールはハンドラーとビッグマンの連携から、数的優位やズレを作るオフェンスの基本プレー。守備側はスクリーンに引っかかる、相手のマークを離す時間をなるべく短くする必要がある。そこが中野の取り組んでいる課題だ。そうやって課題の発見、克服のサイクルを上げることはそのままより良い結果につながる。
一方でオフェンスについては、少しおおらかなアプローチが見て取れる。佐古HCが若手選手たちに求めているのは積極性だ。
そもそもバスケという競技では、“期待値”を計算しながらシュートを打つことが求められる。ショットクロックの残り時間が極端に少ないなら話は別だが、「成功確率が20%の2ポイントシュート」はバッドショットで、そもそも打つべきでない。
一方で打ち気がなければ相手の守備は脅かせないし、挑戦がなければ本人の成長もない。特に若い選手は“失敗しても続ける”姿勢が必要だ。
若手指導の極意は「結果を怖がらせないでチャレンジさせる」
山口は15日の茨城戦を終えた時点で、3ポイントシュートの成功率が24.2%にとどまっている。それでも1試合平均3.5本の試投数が示すように、打つことを止めずに試合を重ねてきた。直近の3試合は「1/2」「1/3」「3/7」とシューターらしい数字を残している。
中野も3ポイントシュート成功率は30.9%で、数字的には平凡だ。ただ、それは指揮官の意識付けがもたらしている“途中経過”に過ぎない。
中野はこう説明する。
「バンバン打てばいいものではないと思っていますが、佐古さんからは積極的に打っていけと指示されています。『今のはちょっと厳しいかな?』と自分が思うタフショットでも、佐古さんからは『打てるシュート』だと言われます。意識をもっと佐古さんの求めているところに寄せて、それを体現するだけの技術を身につけなければいけないと思います」
佐古HCは若手の指導についてこう述べる。
「とにかく結果を怖がらせないで、チャレンジさせるスタイルです。ベンチから鼓舞するところは『しっかりシュートを打ちなさい』とか、そういうところが多いはずです」
1シーズンの結果、そして若手の長い現役生活を考えれば目先の「結果」「数字」に囚われないチャレンジも大切だ。守備は緻密に、攻撃は思い切りよく――。佐古HCはそんな指導で若手を活用し、“育てながら勝つ”チーム作りを見せている。(大島 和人 / Kazuto Oshima)