12月10日から行なわれたスピードスケートW杯カルガリー大会。小平奈緒(相澤病院)は、500mで2戦連続の36秒台を出し、ともに2位になると2日目の1000mではここまでW杯で2勝している世界記録保持者のブリタニー・ボウ(アメリカ)を抑え…

 12月10日から行なわれたスピードスケートW杯カルガリー大会。小平奈緒(相澤病院)は、500mで2戦連続の36秒台を出し、ともに2位になると2日目の1000mではここまでW杯で2勝している世界記録保持者のブリタニー・ボウ(アメリカ)を抑えて優勝。確かな手応えを得てW杯前半戦を終えた。



本来の滑りを取り戻しながらレベルアップを図っている小平奈緒

 2018年平昌五輪の500mで金メダル、1000mでは銀メダルを獲得した翌シーズン、記録を出すことに小平は注力。W杯ファイナルで500mの記録を36秒47まで伸ばすと、翌週のカルガリーでは男子と同走のレースで、非公認ながら世界記録(36秒36)に迫る36秒39で滑り、シーズンを終えた。

 しかし、これだけ世界トップレベルの成績を残しながらも、自分の体が芯の部分まで使えていないという感覚が生まれていた。氷の反発を体でしっかりと受け止め、それを推進力に換えていく持ち味が機能しない滑りになっているのではないかと考えた。

 そこで2020シーズンは、12月に入ってから体のピース一つひとつを一度リセットし、試合のなかで動かしながら見直すことにした。シーズン中に見直しを行なうのは異例だが、コロナの影響で国際大会に出られないシーズンだったことを踏まえると、北京五輪までにできるラストチャンスの時期と考えたのだ。

 そこからさらにブラッシュアップしながら臨んでいる今季。夏場の自転車トレーニングでは大幅に自己ベストを更新するなど、身体的にも充実していた。

 10月の全日本距離別選手権では、タイムトライアルで以前の同時期のタイムと比べると自己新で滑れていたという1500mで1分55秒90と納得のレースをした。だが500mと1000mは、まだ瞬発的な動きが出しきれず、「瞬間瞬間のタイミングがうまくつかめていない」という状態。それでも焦りは見せず、「しっかり段階を踏んで上げていきたい」と冷静に捉えていた。

 そんな状況で出場した今季のW杯は、500mで昨季まで未勝利だったエリン・ジャクソン(アメリカ)が3連勝したのに対し、2位2回と3位1回。それでも第2戦の2レース目には力感のある滑りで初勝利をあげた。
 
 そこから高速リンクのソルトレークシティーに場所を移した第3戦は、「1週間空いたのでトレーニングをハードにして臨み、少し体が動かなかった」と、37秒台のタイムで6位と8位。1000mも「この体の状態でどう滑るかを考えましたが、1分12秒台を出せたので最低限のことはできました」と言うが、結果は7位。

 だが、カルガリーで500mの第1レースは「後半300mはいつもの自分の滑りの感覚だった」と全選手中最速の26秒31のラップタイムで滑り、36秒81で2位になった。

「3年間くらい自分のなかで膠着していた部分を解消し、それがアジャストする段階を粛々と進めているが、今日の後半の300mの滑りは修正できました。本来のところ(滑り)に戻ってくるキーポイントになるかなと思います」

 そんな手応えを得た小平は、翌日の第2レースでは36秒76とタイムを伸ばした。結果はアンジェリーナ・ゴリコワ(ロシア)に0秒10差をつけられる2位だったが、ひとつ殻を破る滑りになった。

「今日のウォーミングアップの時に、結城匡啓コーチから『100mもそんなに遅くなる滑りはしてないのではないか』と言われ、今日はスタートの音に感覚を集中させて滑ったらタイムも出たので、意外と小さなことで修正できるなと思いました。

 思考するのは私の長所だと思いますが、今季は久しぶりの国際大会なので少し考えすぎる部分もありました。やはり500mも1000mも思いきりいけないというより、心のなかで確認事項をひとつずつ消化しながら滑っていたなという感じ。

 その感覚は最初の100mのなかでもあって、音を聞いてから考えて滑り出し、残り400mはだんだん身体が乗っていく感じでした。今回は500mと1000mで自分の感覚に身をゆだねる滑りができ、W杯前半戦を終えられたのはよかったと思います」

 こう話す小平は、前日より後半のラップタイムがわずかに遅くなった理由をこう振り返る。

「100mがいけちゃった分、考える頭が途中から出てきてしまったと思います。感覚だけでいくという100mの滑りができたのは、あまり記憶にはないけれど、平昌五輪の本番の時以来だと思います。

 でも今はあの時のように極限まで自分の感覚が研ぎ澄まされている状態ではないので。これから自然と感覚に身を任せられる状態に持っていけたらいいと思います」

 2019年にソルトレークシティーで36秒47の日本記録を出した時は、100mの通過が10秒27だった。そこまでにはもう一歩だが、「平昌シーズンの時のような本来の状態に戻ったら、そのあとに積み上げてきたスケーティングがあるので、もしかしたらまた新しいものが見えてくるんじゃないかなと思います」と期待を膨らませる。

「昨シーズンは国際大会もなかったので技術的なことを言葉にする機会は少なかったですが、今年はけっこうレースが終わってから考えるという繰り返しでした。だから年明けくらいからは、そろそろ考えるのをやめてみようかなと思っているんです」

 北京五輪へ向けた、"小平奈緒の本能の滑り"にシフトする準備はできてきた。

 ゴリコワやオルガ・ファトクリナ(ロシア)がレベルを上げてきて、ジャクソンのような新生も登場して厳しい戦いになりそうな今季。小平の五輪連覇へ向けた準備は徐々に整い始めている。