一挙手一投足が注目を集める、日本ハムの"ビッグボス"こと新庄剛志監督。日本ハムのみならず、日本のプロ野球界に新しい風を…
一挙手一投足が注目を集める、日本ハムの"ビッグボス"こと新庄剛志監督。日本ハムのみならず、日本のプロ野球界に新しい風を吹き込む存在として期待は高まるばかりだ。
かつて大洋(現DeNA)で活躍し、現役最終年は日本ハムに在籍。現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊に、新庄監督への期待を語ってもらった。

何かと派手さが目立つ
「ビッグボス」だが、高木豊は別の行動に注目する
【ビッグボスの現役時代の印象】
――最初に新庄監督の就任を知った時の率直な感想は?
高木豊(以下:高木) 最初に聞いた時は、「球団の狙いはどこにあるんだろう」と思いました。ただ、就任の会見などを見ていると、人気も成績も低迷している近年の状況を踏まえ、チームの雰囲気をガラッと変えたいという思いがあったのかなと。栗山(英樹)監督が10年という長い期間にわたって指揮を執ってきましたが、新しい球場(エスコンフィールドHOKKAIDO)ができる前に、チームカラーを変えたかったのではないでしょうか。
10年間も同じ体制が続くと、新陳代謝は起きにくくなります。それでもうまくいっていればいいのですが、成績が尻つぼみになってきてファン離れもあったはず。もう一度活性化するには相当に奇抜な発想が必要ですし、そこに新庄をもってきたのでしょう。野球に対してしっかりとした考えた方を持っているし、厳しさもある。それらを総合的に踏まえて判断したんだと思います。
――高木さんは現役時代、阪神に在籍していた新庄さんとグラウンドで相まみえる機会がありました。当時はどんな印象を持っていましたか?
高木 一軍の試合に出始めた頃だったので、自分の地位を確立するためにもがいていましたし、一生懸命さが目立っていました。凡打でも一塁に全力疾走する姿を見ていますし、「外野の守備が上手いな」という印象でした。新庄が日本ハムでプレーしていた頃は解説者としてよく北海道に行っていましたが、会えば挨拶をしてくれますし、破天荒さもありますが、人間性はしっかりしています。
奇想天外なパフォーマンスを披露するようになったのは、メジャーリーグを経験して日本に帰ってきてからですよね。それまでの野球界の常識にとらわれることなく、画期的なエンターテインメントを仕掛けていました。
【問われる「トップに立つセンス」】
――就任会見や秋季キャンプでの様子を見ていても、一挙手一投足が興味深いですし、果たしてどんな野球をするのかワクワクさせられます。野球ファン以外の方や野球観戦からしばらく離れていた方も新庄監督に注目しているように感じます。
高木 就任会見の時に着ていたシャツの襟の高さとか、沖縄に降り立った時の衣装とか、何かやってくるだろうとは思っていましたけど「そうきたか」と(笑)。ただ、今はまだ失敗がないから、みんなが遠くから見ている状況だと思います。実際にシーズンが始まり、いろいろと失敗した時にどういう風当たりになるか、ということですよね。
ただ、彼は野球界を変えていく可能性があります。監督にもさまざまなタイプがいていい。今までは「監督像といえばこんな人」といった固定観念がありましたが、新庄は毛色が違うので期待したいです。
新庄の話を聞いていると、プロ野球界や日本ハムの現状を追いかけていたこともわかりますよね。「選手の名前はまったくわからない」と言ったりもしていましたが、それは本当ではないでしょう。彼は陰の努力家ですからね。
――新庄監督はプロでコーチなどの経験はありませんが、指導経験がなかった監督が就任し、早い段階に結果を出すケースも過去には見られます。
高木 コーチというのは"選手とどう真剣に向き合うか"なんです。何を教えるかが大事と思われがちですが、すべてセンスなんですよ。指導者が違うことを言ったとしても、上手くなる選手はいるんです。そういうものなんですよね。監督でも、コーチ経験がないとかあるとかではなく、「チームのトップに立つセンスがあるかどうか」が大切です。
栗山英樹元監督もコーチの経験がなかったと思いますけど、1年目にリーグ優勝を果たしました。トップに立ってそれができるというセンスなんだと思います。経験があるからできるのか、経験が邪魔をするのか、「経験がないから絶対できない」という見方をするのか......いろいろな考え方はありますけど、僕は、指導者は"持って生まれたセンス"が左右すると思っています。
新庄と若い選手たちのやりとりを見ていると、みんなが新庄という人間に興味を持っているし、「ついていこう」と張り切っています。清宮(幸太郎)にも「もう少し痩せたらモテるよ、体のキレがよくなるよ」などと言っていましたよね。そういった言い回しこそ彼のセンス。そもそも監督が、スタイルも含めて一番かっこいいわけですから(笑)。それを選手たちがどう見て感じるかですよね。
【就任1年目でどこまでできたら「成功」か】
――新庄監督といえば、日米で名を轟かせた守備の名手。今季の日本ハムは失策数がリーグワーストでしたが、守備をどう改善していくかは大きな見どころのひとつですし、広い札幌ドームでは走攻守で緻密な野球も求められるかと思います。どんな野球を期待しますか?
高木 僕が一番期待しているのは、"全力疾走"なんです。新庄が現役の頃は、守備位置につく時でも全力疾走していました。新庄も稲葉(篤紀GM)も(森本)稀哲も、全員がそれをやっていた。だからスキがなく見えますし、見ているファンも期待感を抱きます。
それに、すごく爽やかな感じがするんですよ。「スポーツを見に来た」っていう感じになるんですよね。日本ハムの開幕戦で一番見たいのはそこです。アレをやられたら、僕の心は「あ~、やられた」と持っていかれると思います。
――少年野球チームの減少が叫ばれて久しいですが、新庄監督には野球人気を高めていく存在としても大きな期待が寄せられています。就任会見では「僕が来たからにはコロナはなくなって球場は満員になります。僕はそういう運命なんで」という発言もありましたね。
高木 プロ野球は興行ですから、優勝することだけが成功ではありません。何をもって「成功」と考えるかというのはありますけど、プロ野球は人に見てもらわないといけないスポーツなので、常に札幌ドームが満員になっているという状態は理想です。ただ、それにはチームが勝たないといけないということ。勝つ野球を見せられなければ、お客さんの足は球場に向きません。
成績がガタガタになってしまって、パフォーマンスだけが目立つようになってしまう状況はよくない。ですが、球場が満員である程度の成績がついてきたら、「成功」と言ってもいいのではないでしょうか。
――2004年に球界再編をめぐってストライキがあった頃、当時日本ハムに在籍していた新庄さんがプロ野球界に明るい話題を提供していました。新庄さんが現役を引退される際には、野村克也さんも「野球界にとって大損失」と話していましたね。そして今回、コロナ禍が続く苦しい中で新庄さんが監督として戻ってきました。
高木 長嶋(茂雄)さんが巨人に誕生したように、世の中を明るく照らしてくれる人っていますよね。野村さんは、ぼやきで人を引きつける。新庄はポジティブで世の中を明るくしていく。だからこそ2人は相通じるものがあったと思うんです。そんな新庄がプロ野球界に戻ってきたわけですし、どんな野球を見せてくれるのかすごく楽しみです。