欧州サッカー最新戦術事情 第3回:リバプール日々進化していく現代サッカーの戦術を、ヨーロッパの強豪チームの戦いを基に見て…
欧州サッカー最新戦術事情
第3回:リバプール
日々進化していく現代サッカーの戦術を、ヨーロッパの強豪チームの戦いを基に見ていく連載。第3回は、ユルゲン・クロップ監督率いるリバプールを取り上げる。ライバルであるジョゼップ・グアルディオラ監督のマンチェスター・シティとは、サッカー観の違うスタイルで、いま世界のサッカーをリードしている。
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今季、その強さが際立っているリバプール
【動機が違うストーミングとポジショナルプレー】
ユルゲン・クロップ監督の率いるリバプールのプレーは「ストーミング」と呼ばれ、マンチェスター・シティなど「ポジショナルプレー」と対立するスタイルと思われているところがあるが、ストーミングとポジショナルプレーは対立概念ではない。
似たものに「ポゼッション」とストーミングの対比もあるが、こちらも対立するものではない。リバプールがショートパスをつないで攻め込むことはあるし、5レーンを意識した立ち位置も採り入れている。逆にシティにとってもハイプレスの守備は不可欠だ。
速攻と遅攻、攻撃と守備......正反対で相容れないものとして取り上げられがちなものはいろいろあるけれども、実際のところサッカーには「全部ある」。何かひとつだけでプレーするのは現実的に不可能なのだ。
リバプールはリバプールであり続けているが、変化もしている。もし、リバプールが水色のユニフォームを着てプレーしていたら、うっかりするとシティと間違えるかもしれないぐらいだ。
全部あるのがサッカーだから、リバプールとシティはその頂を目指しているのは同じで、登頂ルートが違うだけのようにも見える――が、筆者は両者が同じ場所に立つことはたぶんないだろうと思っている。動機が違うからだ。
【15秒のアクションを200回】
2000年のアジアカップで優勝したあと、当時の日本代表のフィリップ・トルシエ監督は記者たちを前にワールドカップへの抱負を語ったことがある。その席で、フランス人指揮官はこんな話をした。
「ミニゲームでも15秒以上キープしたら、私はそこでプレーを止める。そんな状況は試合では起こらないからだ」
トルシエ監督は「1回の攻撃でボールをキープできるのはせいぜい15秒程度」と言い、「敵味方が15秒以内のアクションを200回繰り返すのが国際試合だ」と締めくくった。「これはビーチサッカーの統計ではなく、サッカーの統計だ」とも。
先ごろ、マンチェスター・ユナイテッドの暫定監督に就任したラルフ・ラングニックの考え方と非常に似ている、というより同じだ。ラングニックのほうは、
「8秒でボールを奪い、10秒でフィニッシュする」
秒数の違いは誤差の範囲だろう。トルシエは1955年、ラングニックは1958年生まれで、ほぼ同世代。ミランのプレッシングが世界のサッカーをガラリと変えていく時期と、指導者としてのスタートが重なっていて、大きな影響を受けただろう世代だ。
トルシエが「キープできるのはせいぜい15秒程度」と言った8年後には、バルセロナが現れている。チャンピオンズリーグ(CL)決勝で対戦したマンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督が「シャビとイニエスタがいれば、彼らは一晩中でもパスを回し続けるだろう」と言ったチームだ。
ただ、ラングニックはそんなバルサには目もくれず、プレッシングとインテンシティのサッカーを追求し続けたという。そして、今ではラングニック派とも言われる一大派閥を成すに至っている。クロップはラングニックと直接の関係はないが、志向するスタイルはよく似ている。トルシエやラングニックの言葉から拝借すれば「秒のサッカー」だ。
【時間が大切な「秒のサッカー」】
ポジショナルプレーは、選手の頭の中に「地図」をインストールする。
今、自分がフィールドのどこにいて、ボールがどこにあり、従って周囲の味方はどこにいるか。ポジショナルプレーを一言で説明するのは難しいが、サッカーにおけるナビゲーションシステムと考えればそう遠くないはずだ。
カーナビみたいなものだから、図面とは相性がいい。作戦盤のようなもので説明するのに向いている。ボールがここ、味方はここ、敵はここ、だから選択肢は......という説明を理路整然とできる。ただ、作戦盤には重要な要素が欠落している。「時間」だ。
トルシエやラングニックが重視した「秒」は、作戦盤には表れない。
クロップ監督がドルトムントを率いていた時のキャッチフレーズで、リバプールの代名詞とも言える「ゲーゲンプレッシング」は時間勝負である。攻撃と守備の切り替えという時間の最小化によって、攻守がシームレスになる。ボールは保持するより敵陣に蹴り込むもので、ボールが敵陣にある限り、どちらが保持しているかはあまり関係がない。いずれにしても相手ゴールへ迫るための攻撃か守備があるだけだからだ。
フィルジル・ファン・ダイクからモハメド・サラーへのお馴染みのロングパスも、毎度ピタリと通るわけではない。その精度はすばらしいけれども、やはり何回かは通らずカットされる。決して確率の高いパスではないが、敵陣で相手を背走させていれば、カットされてもゲーゲンプレッシングで奪ってしまえばそれでいいわけだ。
むしろ、いったん攻撃に出ようとする相手の出鼻を挫くので、与える打撃はより大きい。攻撃のためのポジショニングは守備の役には立たないからだ。パスワークで緻密な守備ブロックを解体する手間も省ける。得点するために、バルサと同じことをやる必要はないわけだ。
秒のアクションを繰り返し、そのインテンシティの嵐に相手を巻き込んで粉砕する。ストーミングと呼ばれる所以である。
【インテンシティは正義】
リバプールの「攻撃」は、言ってしまえば「数撃てば当たる」方式だ。
90分間にできるだけ多く敵陣にボールを入れる。そこではボールがどちらにあるかに関係なく、得点のためのアタックが行なわれる。フィニッシュの形は問わない。なるべく早く、なるべく多くチャンスを作り、そのうちいくつかが当たればいい。ただ、リバプールは当たりを引く確率が異常に高い。
今回のCLで、リバプールのグループは、いわゆる「死の組」のはずだった。アトレティコ・マドリード、ポルト、ミランと難敵ぞろい。息を抜ける試合はひとつもない、はずだった。しかし結果は6戦全勝。他のグループのバイエルン、アヤックスとともに全勝でグループステージを勝ち抜けたが、対戦相手を考えればリバプールの強さが際立つ。
全勝の3チームが、いずれも高強度のプレーぶりだったのは偶然ではないだろう。現代サッカーにおいて強度は正義で、生半可に小賢しいポジショナルプレーなどひと呑みにしてしまう。
ポジショナルプレーの元祖とも言われるヨハン・クライフは、「1人が15メートルの幅でプレーするのが理想的」と言っていた。これはそのほうが試合に勝てるというほかにもうひとつの理由があって、それはより多くの選手がボールをプレーする機会があるスタイルだということ。子どもからプロまで、選手はボールをプレーするのが「楽しい」はずなので、そういうサッカーをすべきだという強い動機がある。
クライフ推奨のサッカーが最高潮に達したジョゼップ・グアルディオラ監督時代のバルセロナは、ボールポゼッションが70%を軽く超えてしまう試合も多く、その時はほとんど1チームしかボールをプレーしていない状態だった。淡々とパスを回し、パターン練習のように着々とゴールを重ねる。その頃、クロップはバルサの静的なサッカーを「退屈」だと言っていた。
クロップにとってサッカーはもっと激しく、活気に溢れているべきなのだ。遠くから狙撃するのではなく、むしろ素手で殴り合いたい。もちろんリバプールもポゼッションはするし、試合の鎮静化もやるが、シティやバルサとは動機が違いすぎる。だから、行く先も同じではないとしか思えないのだ。