サッカージャーナリスト・後藤健生は、フリーランスとして自由に生きる。ただし、礼節を忘れることはない。地球の裏側アルゼン…
サッカージャーナリスト・後藤健生は、フリーランスとして自由に生きる。ただし、礼節を忘れることはない。地球の裏側アルゼンチンにおいて、名門クラブのプレジデンテ(会長)を相手にも、自然体かつフォーマルに、インタビューをこなすのであった。
■ネクタイの由来
スペイン語ではネクタイのことを「コルバータ(CORBATA)」と言います。フランス語の「クラバット(CRAVATE)」から来た言葉なのではないでしょうか?
16世紀にフランス国王のルイ14世が、クロアチア人傭兵たちが妻や恋人からお守り代わりに贈られたスカーフを首に巻いているのを見て興味を持ち、自分も真似をしたという話が残っています。それで、ルイ14世がそのスカーフを指して「あれは何あるや?」と聞いたところ、家来が勘違いして「あれはクロアチア兵(CRAVATE)でごじゃりまする」と答えたというのです。それで、そのスカーフのことを「クラバット」と呼ぶようになったというのですが、どこまで本当の話かは分かりません。
いずれにしても、ルイ14世の気まぐれからネクタイというものが流行し(王様が好んだのですから、家来たちも真似をせざるをえません)、その結果として、7世紀後の日本のサラリーマンたちは気温35度の猛暑の中でネクタイに首を絞められて苦しむことになったというわけです。
幸い、僕はフリーランスですから、サラリーマンのように毎日ネクタイをする必要はありません。というか、最近ではネクタイを締めるのは年間で3、4日くらいしかないのではないでしょうか?
■ボカの会長にインタビュー
その僕が、ブエノスアイレスのフロリダ通りの洋品店に駆け込んでネクタイを買ったことがあります。2001年7月4日のことです。
ワールドユース選手権(現、U20ワールドカップ)がアルゼンチンで開かれていて、スカパー!の中継のために西岡明彦アナウンサーや解説の原博実さん(現、Jリーグ副理事長)と一緒に各会場を回っている最中でした。
ネクタイとワイシャツでそれぞれ9.9ペソ、合計で19.8ペソ(約2000円)でした。美しい紫系のグラデーションのネクタイで、20年経った今でも時々使っています。
なんで、急にネクタイなど買いに走ったのか。それは、翌日、ボカ・ジュニオルズの会長のインタビューができることになったからです(「会長」はスペイン語ではプレジデンテ、PRESIDENTE)。
ボカの会長はマウリシオ・マクリという実業家だそうです。イタリア移民の父が創業した建設会社から発展した財閥の御曹司。国営だった郵政事業が民営化される時に、その権利を獲得したことで話題になっていました(事業はうまくいかなかったようで、後に郵政事業は再び国有化されます)。また、政治的野心も持っているという話も聞いていました。
■身なりにうるさいラテン系上流階級
普段、取材旅行の時にはネクタイなど持っていきません。サッカーの選手やコーチはどこの国でもカジュアルな恰好をしている人が多いものです。カルロ・アンチェロッティなどは、ポイント付きのサッカーシューズのまま、ガチャガチャと足音を立ててインタビューの席にやって来たものです。
そんな相手に対して、わざわざネクタイなどしていくと、かえって場違いな印象になってしまいます。
しかし、今回はアルゼンチン財界の大物で、将来は政界を目指している人物だといいますし、インタビューの場所もクラブハウスではなく、都心にある彼のオフィスだということです。ラテン系の上流階級の人たちは身なりにもうるさいということもあって、「これは、ネクタイは必須だな」と判断したのです。