「アマチュア横綱」を決める第70回全日本相撲選手権が12月5日に行なわれた。ここで結果を残し、のちに大相撲界で羽ばたいていく力士は数多くいるが、今年も将来の角界の横綱候補と目される逸材たちが土俵上を賑わした。 そして今回、その奮闘をじっと見…

「アマチュア横綱」を決める第70回全日本相撲選手権が12月5日に行なわれた。ここで結果を残し、のちに大相撲界で羽ばたいていく力士は数多くいるが、今年も将来の角界の横綱候補と目される逸材たちが土俵上を賑わした。

 そして今回、その奮闘をじっと見つめていた現役力士がいた。先の九州場所(11月場所)で11勝を挙げた関脇・御嶽海である。彼もまた、東洋大4年生の時(2014年)にこの大会を制してアマチュア横綱に輝いている。そんな彼に、今大会で目についた力士について、独自の視点で語ってもらった――。



今年の全日本相撲選手権について解説してくれた関脇・御嶽海

 アマチュア相撲のOBとしてこの大会を観戦するというのは、感慨深いというか、何か特別な思いが沸いてきますね。

 全日本相撲選手権は、アマチュア相撲の選手たちにとって憧れの舞台。誰もがこの大会に優勝して、天皇杯を抱きたいという夢を持っています。また、優勝すれば、角界入りして幕下15枚目格付け出しでデビューできるという特典もついてきます。将来、大相撲界に進もうと思っている選手にとっては、是が非でもほしいタイトルと言えます。

 大学4年生の時に臨んだ全日本選手権では、僕も震えました。自らへの期待や重圧など、いろいろなものを背負っていたからだと思います。今日はその時の緊張感が蘇ってきていて、土俵上の選手たちの気持ちがひしひしと伝わってきました。

 コロナ禍にあって、大会方式がこれまでとは変わっていましたね。以前は、予選で1選手が3回相撲をとって、だいたい2勝すると(16名による)決勝トーナメントに進めるシステムでした。それが今回は、予選から一発勝負のトーナメント戦。そこを勝ち上がると、16名による決勝トーナメントへ駒を進めることに。

 その熾烈な戦いにおいて注目を集めていたのは、昨年のアマチュア横綱・花田秀虎(日体大2年)、一昨年の学生横綱・中村泰輝(日体大3年)、そして今年の高校横綱に輝いた落合哲也(鳥取城北高3年)といったところでしょうか。他、今年の学生横綱・川副圭太(日大4年)なども期待されていましたが、負傷欠場となって残念でした。

 まず、際立った奮闘を見せたのが、高校生ながら決勝トーナメントまで勝ち上がってきた落合。身長180cm、体重153kgと恵まれた体格の持ち主です。「超高校級」の評判どおり、そのパワーは相当なもの。右足を引く独特の仕切りで、ふてぶてしいほどの落ち着きを見せていました。

 ただ、個人的な見解を言わせてもらえば、彼からはフレッシュさを感じないんですよね。それと、決勝トーナメント1回戦の谷岡倖志郎(近大職員)戦、2回戦の中村戦と、いずれも立ち合いで先輩選手を相手に「待った」をしたり、合わせられなかったり......。

 自分の間合いで立ちたい気持ちはわかりますが、相撲は単に"勝てばいい"というものではないんです。まだ若いので仕方がないのかもしれませんが、その辺りはこれから学んでいってほしいですね。

 将来性がある分、あえて苦言を呈しましたが、高校生でベスト8という結果はお見事。本人は「すぐにでも大相撲に行きたい」と言っているようですが、それには僕も賛成です。即、大相撲界で鍛えれば、大物になる可能性は十分にあると思います。

 一方、残念な結果に終わったのは、花田です。予選では安定した相撲を見せて連覇が期待されましたが、決勝トーナメントの2回戦で準優勝の神崎大河(近大4年)に寄り倒しで敗れてしまいました。

 それでも、身長185cm、体重135kgと均整のとれた体型に、引き締まった顔立ち。将来、スター力士になる要素が存分に備わっています。

 取り口を見ると、攻めていく分にはいいのですが、相手に出てこられた時の残り腰があまりないように感じました。来年以降、そういった点が課題になっていくのはでないしょうか。



写真左から準優勝の神崎大河、優勝した中村泰輝、3位のオドフー(東洋大)、松園大成(日体大職)

 決勝は、3年生の中村と4年生の神崎が対戦。2人とも190cmを超える長身で、とても見応えのある一戦となりました。

 白熱の戦いの末、見事に頂点に立ったのは中村。長い手足を生かして、腕を下から下から繰り出すいい相撲を見せました。最後は圧力で相手をねじ伏せる感じで、実力どおりの結果を残したと思います。一昨年に学生横綱となって以降、やや低迷していた中村ですが、この優勝で吹っ切れた部分もあるのではないでしょうか。

 彼もまた、大学卒業後はプロ入りを希望していて、今後が楽しみなひとり。あと1年、大学相撲で鍛えて、精神的にも逞しくなって角界入りを果たしてほしいです。緊張感のある大会で優勝した経験は間違いなく大きいですし、大相撲界でも大関、横綱を狙える器だと思います。

 準優勝の神崎も、まもなく大相撲入りを表明すると聞いています。彼に関しては、今の相撲を取り続けていけばいいと思っています。

 何はともあれ、いずれも将来性ある選手ばかり。彼らがどう成長していくのか、とても楽しみです。