39歳になった"フィリピーノ・フラッシュ"のリング登場が間近に迫っている。 5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)は12月11日(日本時間12月12日)、現在保持するWBC世界バンタム級王座の指名戦として、カリフォルニア州カーソンで同…

 39歳になった"フィリピーノ・フラッシュ"のリング登場が間近に迫っている。

 5階級制覇王者ノニト・ドネア(フィリピン)は12月11日(日本時間12月12日)、現在保持するWBC世界バンタム級王座の指名戦として、カリフォルニア州カーソンで同級暫定王者レイマート・ガバリョ(フィリピン)の挑戦を受ける。ガバリョは実績では大きくドネアに劣るものの、21戦全勝(18KO)という優れた戦績の持ち主。エキサイティングな戦いが期待できそうだ。

 2019年11月7日、ドネアはさいたまスーパーアリーナで井上尚弥(大橋ジム)と対戦し、後に"ドラマ・イン・サイタマ"と称される歴史的激闘の主役のひとりになった。以降、井上との再戦の機会を追い求め続けるフィリピンの英雄は、どんな思いで今戦に臨むのか。井上や、今夏に対戦寸前までいったWBO同級王者ジョンリエル・カシメロ(フィリピン)という対立王者たちにどのような想いを抱いているのか。

 11月下旬、独占インタビューでその胸中をじっくりと語ってもらった。



ベルトを奪おうとした井上に対し、それを渡さない仕草を見せたドネア(右)

――4回TKO勝ちでWBCの世界王座に返り咲いた、5月のノルディーヌ・ウバーリ(フランス)戦以来となるリング登場に向けて、調整はいかがですか?

ノニト・ドネア(以下、ND)すべて順調に進んできました。10ラウンド、12ラウンドのスパーリングも何度もこなしてきています。コンディションは良好ですし、リングで十分に力が出せる状態です。

――対戦相手のガバリョの印象は?

ND タフでハングリーな若手選手という印象ですね。大変なハードワーカーであることも聞いています。もちろん侮ることはできない相手ですし、彼との戦いを「簡単だ」と考えるべきではありません。

――すでに多くを成し遂げてきたあなたは、最近は強敵との対戦や新たなチャレンジを追い求めることでモチベーションを保ってきた印象があります。戦績こそ立派でも、まだ実績不足のガバリョとの試合では、その部分が難しかったのではないですか?

ND 確かに、モチベーションを最大限に高めるためにふだん以上の努力が必要だったことは事実です。井上やこの階級の他のチャンピオンとの対戦であれば、違った心持ちになっていたでしょうね。先を見すぎることがないように、気持ちを引き締めなければいけませんでした。とにかく大切なのは集中すること。目標である井上との再戦に向け、絶対に負けられない試合であることは間違いないですから。

――今戦はバンタム級の王座統一、井上選手への雪辱という目標に向けた大事なプロセスといった位置づけになるのでしょうか。

ND そのとおりです。WBCの指名戦として義務づけられた一戦。必ずこなさなければいけない試合ですし、日程的にも統一戦が難しい今が最善のタイミングなのでしょう。5月のウバーリ戦に勝った勢いを保つために、「年内にもう一戦やっておきたい」という気持ちもありました。

――井上選手も12月14日に次の防衛戦を消化し、来年4月にビッグイベントを計画していると伝えられています。来春にリマッチを実現させたいという気持ちは強いですか?

ND 実現する可能性があるかもしれない、としか言えません。私たちは具体的なことを知らされているわけではないのですからね。今、大事なのは、どんな方向に進もうと、準備を整えておくということ。そのために、まずはガバリョに勝たなければいけない。先ほども話したとおり、気を抜くつもりはありません。

――再戦は日本開催の可能性が高いと思われます。あなたは日本でも大人気ですが、それでもアウェーであることに変わりはありません。日本以外で、という希望はありますか?

ND 日本開催でまったく問題ないですよ。井上との第1戦はすばらしい雰囲気のなかで行なわれ、私も多くの人から応援してもらいました。再戦も日本でやるのがもっとも盛り上がるし、さまざまな意味で最善のチョイスなのはわかっています。

 日本での再戦が実現したら、井上は母国の人たちのサポートを受け、プライドをかけて臨んでくるはず。そんな彼を敵地で倒すことができれば、私にとっても達成感は大きいに違いありません。だから日本で構わないですし、再戦の機会が得られるのであればそれ以上の喜びはありません。

――10月中旬、プロモーターのリチャード・シェイファーが中心となった新会社プロベラムと契約を結んだと発表されました。あなたはもともとシェイファー傘下でしたが、この契約の背景を教えてもらえますか?

ND  私とリチャードはいい友人であり、同時に彼は私のキャリアを大きく助けてくれました。リチャードはプロベラムを創設し、新しいビジョンを持って進んでいこうと考えています。すでに最大級のプロモーション会社になったように思いますし、私もその一員になれたことにエキサイトしています。

――あなたとシェイファーの間には固い絆があるように見えます。それはボクシングビジネスでは希有なことですが、いったい何によって深く結びつけられているのでしょうか。

ND リチャードは非常に率直な人間なんです。どんなことに関しても、何が起こっているのか、何をするつもりなのか、私が知りたがっていることをすべて正直に伝えてくれます。彼は自分の傘下のボクサーのために何でもやろうとしてくれる。たとえば、先ほどの井上との再戦に関しても、私の希望であることを熟知しており、実現のために全力を注いでくれています。彼は他のどんなプロモーターと仕事をすることも厭わないですが、それも重要なことですね。

――8月に一度は対戦が決定したカシメロのことも聞かせてください。ドーピング検査の方法を巡る行き違いとトラッシュトークの激化によって、統一戦はキャンセルとなりました。今、あの一件をどう振り返りますか?

ND 今では「新たなことを学ぶ機会だった」と捉えています。2人のフィリピン人が統一戦を行なうということにエキサイトしていましたが、その試合にはさまざまな別の要素がついてきましたね。対戦相手は、何でも頭に浮かんだことを口にすることがあると知りました。あの件でよかったことがあったとすれば、多くのファンが私を最後までサポートし続けてくれたこと。私も多くを学べた経験であったことは否定しません。

――カシメロがWBO王座を保持している限り、彼と戦わなければあなたの目標のひとつである4団体統一は達成できないということになります。カシメロと対戦する可能性はまだありますか?

ND それは間違いないですよ。100%です。4団体統一のためならどんなチャンピオンとでも戦うつもりですし、彼が王座であるなら対戦は問題ありません。ただ、これまでも常に厳格な薬物検査を重視してきましたし、今後もそれは変わりません。私は過去、PEDを使用していただろう選手とも対戦して勝ってきましたが、厳しい検査を求める考えは揺るぎません。ボクシングのクリーン化のためです。

――2022年はあなたにとって重要な1年になる可能性があります。どんなシナリオを思い描いていますか?

ND まずはガバリョに勝ち、迎える2022年、私はバンタム級の4団体統一王者になります。そのビジョンを頭に描くことができています。今の私はその目標を実現するために戦い続けているのです。

――来年11月で40歳を迎えます。2022年がボクシングキャリア最後の1年になることもあるのでしょうか。

ND それはわかりません。私はまだボクシングというスポーツが好きだし、エキサイトできています。バンタム級を制したあと、もしかしたら階級をスーパーフライ級に下げるかもしれないし、またスーパーバンタム級に上げて戦うかもしれません。エキサイトできるチャンスがある限り、私は戦い続けるのではないかと思います。

――あなたは最大でフェザー級まで上げましたが、現実的に今後、スーパーフライ級に落とすことは可能なのでしょうか?

ND 問題ないですよ。2年前、井上との試合の際、当日朝の時点で116パウンドだったんです(注・スーパーフライ級は115パウンド)。そこで水を飲み、計量は117.5パウンドでクリアしました。その経緯を考えれば、スーパーフライ級に落とすことは難しくないはずです。

まだまだ心身ともに調子はいいですし、おそらくあと数年は戦い続けられるんじゃないでしょうか。だから、バンタム級の4団体統一は現在の最大目標ではありますが、私のレガシーの一部にすぎないのです。