嵐の海に漂う船を想像してほしい。大きな波が押し寄せ、転覆の危険さえはらんでいる。翻弄される船の名前はユベントス。イタリ…

 嵐の海に漂う船を想像してほしい。大きな波が押し寄せ、転覆の危険さえはらんでいる。翻弄される船の名前はユベントス。イタリアで最も愛され、最も多くの優勝回数を誇るチームだ。船を飲み込もうとする波には2つの種類がある。ひとつはピッチ上。もうひとつは司法によるもので、どちらの波もあり得ないほど荒い。

 2011-12シーズンから2019-20シーズンまで、ユベントスは国内では向かうところ敵なし、つねにスクデットを勝ち取ってきた。連覇は9年に及び、これほど勝ち続けたチームはイタリアサッカー史になかった。

 最初の3連覇はアントニオ・コンテのもとで成された。コンテは前年7位と低迷していたチームを優勝できるまでに返り咲かせた。続く5連覇はマッシミリアーノ・アッレグリの指揮下で、最後の優勝はマウリツィオ・サッリのもとでだった。

 それにしても、なぜ勝ち続けていたアッレグリをわざわざ変えたのか。ユベントスのトップは5連覇という成績には満足していたが、そのプレースタイルには不満があった。彼らはもっと見ごたえのあるサッカーを望んでいた。サッリであれば、プレーと結果の両方の希望を満たしてくれると思ったのだ。

 しかし、その目論見ははずれた。サッリのチームは勝利こそしたが(2位のインテルとはたった1ポイント差だった)、クラブが求めていた活気あるプレーは見ることができなかった。そこでサッリも解任され、今度はサポーターを高揚させるような人事をたくらむ。マエストロことアンドレア・ピルロが監督として帰ってきたのだ。

 だが、監督経験のない彼に、この突然の大役は重すぎた。チームは「ベル・ジョーコ(美しいプレー)」がないばかりか、10連覇も実現できず、4位に終わった。そこでピルロは更迭され、少なくとも結果は保証済みだったアッレグリが戻ってくることになった。



渋い表情のマッシミリアーノ・アッレグリ監督とキャプテンのレオナルド・ボヌッチ photo by Reuters/AFLO

 ところが、このアッレグリ第二幕は、これ以上はないほどの最悪のスタートを切ってしまった。第15節終了時点で、ユベントスはトップのナポリと12ポイント差の7位。チャンピオンズリーグ(CL)出場圏(4位)までも7ポイントの差がある。CLに出るか出ないかはプライドの問題だけでなく、経済的にも大きな問題だ。絶対に手に入れなければいけない。

 それにしてもなぜユベントスはこんなことになってしまったのか。

1 現在のユベントスには、同じようなタイプの選手が何人もいるかと思えば、全然足りないポジションもある。例えばフアン・クアドラード、フェデリコ・ベルナルデスキ、デヤン・クルセフスキー、フェデリコ・キエーザ、モイーズ・キーンは、全員がオフェンシブなウィンガーで、右サイドを得意とする。ところが左サイドを本来のポジションとするのは疲弊したアレックス・サンドロしかいない。

2 有能でスタークラスのセンターフォワードがいない。そのため攻撃の核となり、ボールをキープし、チームメイトからのパスを有効に使える存在がいない。アルバロ・モラタがそれを目指してよく走ってはいるが、ゴールまでこぎつけることはほとんどない。

3 未来のキャプテン、パウロ・ディバラは、次から次へとケガをするため、ここまでほとんどプレーをしていない。やっとプレーできたとしても、チームのレベルを上げられるようなプレーができていない。高いテクニックを持つ選手であることは疑いようもないが、パーソナリティに関しては"怪物"ではない。

4 昨シーズンに比べると、中盤の補強はマヌエル・ロカテッリのみ。それでは十分ではなかった。ロドリゴ・ベンタンクールは明らかに力が落ちているし、ウェストン・マッケニーも波がある。アドリアン・ラビオにはがっかりだし、アルトゥールは動きが鈍い。

5 CBの2人に明らかな限界が見られる。レオナルド・ボヌッチは34歳、ジョルジョ・キエッリーニは37歳。何年もハードなプレーを続けてきた彼らのフィジカルは消耗されている。そのため、1試合出場したら次は欠場という感じだ。彼らと交代可能なマタイス・デ・リフトは優秀だが、ダニエレ・ルガーニはほとんどプレーしていない。

6 アッレグリは、自分がどういうチームを目指しているのかを明確に示せていない。ここまでの15試合で1度も同じスタメンで戦ったことがない。そのため選手たちは、とくに中盤では、チームプレーに必要なハーモニーが生まれていない。

7 最後に一番無視できない要因。それはクリスティアーノ・ロナウドが去ったことだ。ほぼ寝耳に水のような形で彼はマンチェスター・ユナイテッドに移籍してしまった。ここ3年間、彼は1試合につき平均1ゴール近くを決めていた。彼の存在が、ユベントスが抱える様々な問題をこれまでどうにかカモフラージュしていたのだ。しかし、ロナウドがいなくなった今、問題はあますことなく明るみにさらされることとなった。

 そのほか、小さな理由を挙げたらきりがない。ではこれらは誰のせいなのか。

 イタリアには「魚は頭から腐ってくる」という諺がある。つまり主な責任は、アンドレア・アニエリ会長、パべル・ネドベド副会長をはじめとしたチーム幹部にある。彼らはここ数年、明らかにチーム作りに失敗していた。
 
 そしてチーム幹部たちの責任は、もうひとつの大きな波にも関係する。

 ユベントスは現在、ここ数年の決算報告に偽装の疑いがあるとして、検察の調査を受けている。これはサッカーチームというより、上場企業に対する調査だ。通話の盗聴や家宅捜査なども行なわれ、その結果、キャピタルゲインを利用して決算を操作しているとされている(いまだ調査中なので断定はできない)。キャピタルゲインとは、一般的には資産価値の上昇による利益のことを指すが、ここで問題になっているのは選手の売買における利益だ。

 たとえば、もし私がXという選手を2000万ユーロで獲得し、1年後に5000万ユーロで売却したとしよう。この場合のキャピタルゲインは3000万ユーロで、私はこの収益を決算報告書に載せる必要がある。また私の下部組織に優秀なYという若手選手がいたとしよう。彼をトップチームにデビューさせたところ活躍し、私は彼を6000万ユーロで売却した。この場合のキャピタルゲインは6000万すべてとなる。なぜなら私はこの選手の獲得に一銭も支払っていないからだ。

 では、どこに詐欺の要素があるのか(もしくはその可能性があるのか)。サッカーの世界では、選手に簡単に偽の価値を与えることができる。たとえば、私が気に入っている選手が他のチームにいて、その価格(移籍金)が2000万ユーロだったとする。だが、私は相手のチームに金では払わず、自分のチームにいる2人の若手選手との交換を申し出る。彼らの額はひとりが1500万、もうひとりが500万ユーロだ。これで両者は等価となる。

 しかし、いったい誰が私の持っている選手が1500万と500万だったと決めるのか。この場合、私は好きな値を彼らにつけることができ、帳簿も簡単に操作できるのだ。

 こうした取引は2つのチーム間で行なわれるものなので、検察はユベントスのほかにも多くのチームがこの危険なゲームに参加しているとみている。実際、現時点で調査されている取引は42にものぼり、有名選手のものも含まれている。もしそれが証明されれば、サッカー界を揺るがす大きな問題となるだろう。

 このほか、不透明な選手代理人への謝礼についても調査が行なわれている。

 こうしたシステムの発案者はファビオ・パラティチだと言われている。かつてのユベントスのチームディレクターで、現在は(コンテが監督の)トッテナムでマネージングディレクターを務めている。パラティチは、3年間でユベントスに2億8300万ユーロのキャピタルゲインを作り出している。日本円に換算すると約360億円にものぼる。これほどの額を、会長のアニエリが知ることもなく、ひとりで操作したとは信じがたい。すでに多くのユベントス幹部が検察から厳しい追及を受けており、ある幹部は9時間にも及ぶ尋問を受けたそうだ。

 この司法の嵐は、イタリアサッカー界に大きな波を起こそうとしている。検察の調査が終わっても、その次にスポーツ裁判所の捜査が行なわれ、その先に多くの処分が待っているはずだ。こうしたクラブの不安定な状況は、ただでさえ不調のチームに追い打ちをかけかねない。