新生なでしこジャパン(FIFAランク13位)は、池田太監督の初陣となるオランダ遠征で初白星とはならず、1分1敗で幕を閉…

 新生なでしこジャパン(FIFAランク13位)は、池田太監督の初陣となるオランダ遠征で初白星とはならず、1分1敗で幕を閉じた。アイスランド(同16位/●0-2)、オランダ(同4位/0-0)との2連戦では、その戦い方と同時に他国の対応の傾向も見えてきた。



ボランチである程度成果を残した林穂之香(左)と長野風花(右)

 今回の池田ジャパンでもキャプテンを託された熊谷紗希(FCバイエルン・ミュンヘン)、アーセナルで着々とその存在感を不動のものにしつつある岩渕真奈、オリンピックでの悔しさを跳ね返そうとウェストハム・ユナイテッドで奮闘中の長谷川唯、そのほか宝田沙織(ワシントン・スピリット)、林穂之香(AIKフットボール)ら海外組が初めて合流した。   

 オランダでは9日間という短い期間ながら、10月、11月と強化合宿を重ねてきた国内組と、今後のなでしこジャパンの骨組みとなる戦い方を徹底してチームに落とし込んでいた。

 2試合を通して一貫していたのは"奪う"守備だった。前線の2人がファーストディフェンダーとなって、追い込む方向を決定づけるプレスをかける。菅澤優衣香(三菱重工浦和レッズレディース)は「FWとしても高い位置で奪いたいけど、中盤はもう少し待ってほしい部分もある。そのライン設定が難しい」と語る。

 彼女たちの最初の動きで全員のポジショニングが決まるため、責任重大だ。少しでも以前の感覚で位置を取るとすかさず池田監督から「守備手伝え!」と指示が飛ぶ。

 この2試合でその難しいとされるライン設定を掴みたいFW陣だったが、オランダ戦で見せた田中美南(INAC神戸レオネッサ)と菅澤の2トップはそのコツを掴みかけていたように見えた。田中に関しては、もともと献身的な守備力を兼ね備えている。そこに意識の変わった菅澤が加わり、時にはFW2人がボールホルダーを挟み込む場面もあった。ところが39分、田中が負傷退場。この2人がその感覚を掴むのを何としても見たかっただけに残念だった。

 2戦目の相手となったオランダは、W杯予選が悪天候で1日ズレたため、チェコからの移動を含んで中1日で日本戦を迎えていた。急遽U-23のメンバーを招集し、スタメンはごっそり入れ替えられ、ベストメンバーではなかった。この状態のオランダに勝てなかったことはひとまず置いておこう。

 プレーでは、日本の守備がうまくハマっている時間もあった。相手の余裕を削ぐプレスではなく、ボール奪うことを前提としたプレスが見て取れた。高い位置からのこの迫力のあるプレスは、池田ジャパンの代名詞になっていくだろう。

 このスタイルをブラッシュアップするには、スタミナが必須条件になる。今回の遠征は4~6℃と寒いのなかでの試合だった。ワールドカップ予選を兼ねた1月のアジアカップ(インド)は、比較的過ごしやすい時期とされているが、初戦から決勝までは6連戦だ。世界大会となればそれ以上になる。このプレーを続けるならば、大会の最後まで走りきれる選手が生き残っていくだろう。

 落とし穴としては、プレスに没頭しすぎると攻撃の手数が減ってしまうことだ。今回のアイスランド、オランダからは共通した効果的な"日本対策"を感じた。日本がペナルティエリア付近までリズムよく運べたのも相手の狙いであり、アタッキングサードでの勝負ではほとんど相手に軍配が上がっている。日本のノーゴールというのはその結果だ。「コンセプトにこだわりすぎた」という選手の声もあるが、"最後の一刺し"が効かないのは相手の戦術の一環でもある。

 日本としては、相手のフィジカルに合わせて徐々にパススピードを上げようとするものの、それに動き出しが伴わない。最後のパススピードの強化と、動き出しは必ず必要になってくる。

 池田監督が狙いとしていた、斜めのボールで好機を作る"Xボール"を生かすには他の形も織り交ぜることが必須。どこで勝負の形を使うかも共通認識を高めていかなくてはならない。とはいえ、そればかりでは攻撃が単調になり、狙われる可能性も含んでいる。

 相手にとっては、狙いどころを定めてカウンターに絞れば勝機があるのだからやらない手はない。おそらく今後、日本に対しての戦い方はこの形か、最初から力でねじ伏せるかの2パターンになってきそうだ。これを覆すために池田監督はどんなピースを選択するのか。

 今回の招集メンバーには、池田監督が率いてFIFA U-20女子W杯制覇(2018年)した面々も名を連ねている。国内合宿ではやや同窓会的な雰囲気も漂ったが、現実はアンダーカテゴリーの実績が成績に影響されるほど簡単ではない。遠くない将来、このU-20優勝世代が中心になってなでしこジャパンを支える時代は必ずやってくる。

 ただ、それを待っているだけでは現状の打開はできないだろう。ただでさえ池田ジャパンは東京オリンピックが延期されたことで、通常よりも強化期間を1年削られているのだ。この最初のオランダ遠征を最後に、すぐさまディフェンディングチャンピオンとして女子アジアカップに臨む。

 今回は改めて個の力が絶対的に足りていないということが突きつけられた。熊谷は「日本の攻撃には怖さがないとアイスランドの選手に言われた」と明かした。

 また、岩渕は「今日のゲーム(オランダ戦)は勝つべきだった。何もなかったな、と」とその表情は冴えなかった。さらに「今の段階でこのチームで世界一を目指していますって言うのは早い」と現実の立ち位置を示した。経験豊富な2人が感じ取った危機感は決して小さくない。

 若い世代も十分にそれは感じているはずだ。熊谷とセンターバックを組んだ南萌華(三菱重工浦和レッズレディース)は、「いつまでも紗希さんに頼ってばかりいられない」と積極的にキーマンを潰す場面を何度も見せた。

 ボランチで絶妙なバランスを見せたのは林と長野風花(マイナビ仙台レディース)だ。なでしこジャパンの心臓部とまではいかないが、本来チームを牽引する象徴的なポジションで見せた2人のプレーはポテンシャルの高さを感じさせてくれた。若い世代にもベテランに劣らない可能性がある。それをどこまで世界基準に持って行くことができるかが、なでしこジャパンの今後を左右する。

 確かに海外に出ることは強くなるための近道かもしれない。しかし、国内でできることも必ずある。世界に出ていく者、留まって日本特有の技術を培う者ーーどちらの道もあって、その融合こそが唯一無二のジャパンウェイを生むのではないだろうか。2つの道を極めるために必要な条件は本気度。日々鍛錬の場となる所属チームも巻き込むくらいの覚悟で挑まなければ、変化など微々たるものだ。

 逆にその覚悟を所属チームで広げることができれば、WEリーグの発展にもつながり、海外の有望選手がWEリーグに参戦し、さらに豊かな土壌を生む可能性も大いにある。今回の遠征での結果を未来の自分にどうつなげていくのか、若い世代に投げられた大きな問いかけに彼女たちはどう応えるのだろうか。