「THE ANSWER the Best Stories of 2021」、稲見萌寧が日の丸の重圧を知った日 東京五輪の開催で盛り上がった2021年のスポーツ界。「THE ANSWER」は多くのアスリートや関係者らを取材し、記事を配信したが…

「THE ANSWER the Best Stories of 2021」、稲見萌寧が日の丸の重圧を知った日

 東京五輪の開催で盛り上がった2021年のスポーツ界。「THE ANSWER」は多くのアスリートや関係者らを取材し、記事を配信したが、その中から特に反響を集めた人気コンテンツを厳選。「THE ANSWER the Best Stories of 2021」と題し、改めて掲載する。今回は8月の東京五輪女子ゴルフで銀メダルを獲得した稲見萌寧(都築電気)。ゴルフでは男女通じて日本人初メダルの快挙を果たした22歳。負けん気の強いプレーで今季国内ツアー9勝を挙げ、賞金女王に輝いたが、ジュニア時代の16歳で出場した国際大会から日の丸への責任感を滲ませていた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 16歳で日の丸の重みを感じた日があった。2016年6月、18歳以下のジュニアゴルファーが争う国別対抗世界選手権「トヨタジュニアゴルフワールドカップ」。当時高校2年の稲見は、日本代表のウェアを着て戦っていた。連覇を狙った日本女子は2位発進。しかし、第2日に稲見が3オーバーでスコアを崩した。

 最終ホールからクラブハウスに向かう道中。涙を堪えきれない。「自己管理ができず、体調を崩して集中力が切れた」。軽い熱中症と腰痛が影響。チームメイトだった1学年上の新垣比菜に肩を抱かれ「大丈夫だよ」と慰められると、余計に涙が溢れ出す。「連覇のプレッシャーがありました」。取材対応もままならないほど号泣。自分のゴルフに納得がいかず、チームに迷惑をかけた自分を責めた。

 だが、ここからが強かった。一日でしっかりと切り替え、残り2日で巻き返して個人戦2位。団体では連覇を逃したが、9か国中2位の健闘に貢献した。「今よりも体力、技術もレベルアップして、日本でも世界でも活躍できるようにしたい」。2年後にプロ転向。負けん気の強さはプロツアーでも存分に発揮された。

コーチとの喧嘩は日常茶飯事「妥協はしたくない」

 昨年10月、ツアー通算2勝目のかかった最終日。ピンまで100ヤード以上残されていても「朝から全部入れる気満々だった」と強気に攻めた。プレーオフの末に優勝。オフは猛烈なキックボクシングで体を鍛えた。今年は開幕から3か月で5勝。優勝翌日だとしても「勝とうが負けようがやっている。勝てるだけ勝ちたい」と、当たり前のように朝から筋トレに励む。

 意見が合わず、19歳上の奥嶋誠昭コーチと喧嘩するのも「日常茶飯事」と笑う。「我慢をしないといけないところもあるけど、妥協はしたくない。私は思ったことを直接全て言葉にするので、喧嘩になることもあります」。練習が長時間に及び、コーチですら「帰りたい」と悲鳴を上げたこともあるほどだ。

 涙を流した16歳の夏から5年。左肩には日の丸が光る。「JAPAN」のロゴが入ったウェアを堂々と着こなした。リディア・コ(ニュージーランド)と銀メダルを懸けたプレーオフ。海外メジャー2勝の元世界ランク1位に物怖じすることなく勝ち切った。

「日の丸を背負ってメダルを獲れるのは本当に嬉しいこと。人生の中で一番の名誉です。(日本初のメダル獲得で)重大な任務を果たせた。私はプレーオフの勝率が100%なので、やると決まった時は『勝ちに行こう』と話をして行きました。楽しかったです」

 表彰式で堂々とメダルを提げた姿は、5年間の努力の重さを感じさせた。(THE ANSWER編集部)