一人の記者が届ける「THE ANSWER」の新連載、第2回は卓球・早田ひな 2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」をスタート…

一人の記者が届ける「THE ANSWER」の新連載、第2回は卓球・早田ひな

 2021年も多くのスポーツが行われ、「THE ANSWER」では今年13競技を取材した一人の記者が1年間を振り返る連載「Catch The Moment」をスタートする。現場で見たこと、感じたこと、当時は記事にならなかった裏話まで、12月1日から毎日コラム形式でお届け。第2回は、卓球・早田ひな(日本生命)が登場する。9月のTリーグ開幕戦はエースとして奮闘。同い年の伊藤美誠(スターツ)らの活躍を補欠の立場で見守った東京五輪の経験を明かしていた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 華やかに活躍した選手がいる一方、確かに成長した21歳がいる。

 感動の連続だった東京五輪。伊藤は、水谷隼と組んだ混合ダブルスで日本卓球界初の金メダルを獲得した。水谷にハグをされてのけぞったシーンは微笑ましかった。シングルスは準決勝敗退。金メダルの夢が破れたわずか7時間後、3位決定戦を勝ち切った。しかし、銅メダルで流したのは悔し涙。平野美宇、石川佳純との女子団体は決勝で中国に敗れ、またも瞳を潤ませた。

「伊藤選手は3種目全て金メダルを目指していた。シングルス、団体と金メダルを獲れず、本当に悔しそうな表情を間近で見て、オリンピックの厳しさを感じた」。極限状態を目撃していたのが、早田だった。女子唯一のリザーブとして事前合宿から日本代表に同行。練習パートナー、球拾い、無観客のスタンドから声が枯れるほど応援した。

 同い年の伊藤とは「ライバルであり親友でもある」と堂々と言える間柄。毎日、ストイックに強さを追求し、努力をやめない姿を知っている。「なんとか勝たせてあげたい」。選手の表情を見て、心を想像して、何をすべきか考えてサポートした。

 選手と同じくらい本気になって流した汗。補欠として過ごした日の丸の経験を17年間の卓球人生に重ね合わせると、支えてくれた人たちの姿が目に浮かんだ。

「選手の気持ち、裏方、サポートする側の大変さを学んだ。いろんな視点で試合を見たけど、今までサポート側の気持ちをここまで感じることはなかった。そのありがたみを東京五輪で感じることができた」

 卓球が行われた13日間、喜びも、苦しみも、全てを肌で感じた。「平野選手も試合前まで緊張したと思うけど、試合に入ったらいつも通りの平野選手らしく思い切ってできていた。選手自身が本当に自分のことをわかっているんだなと思いました」。同じ立場でコートにいたらわかりづらい。外にいたからこそ、代表権を勝ち取った選手、世界の猛者たちの凄みが見えてきた。

「同世代の活躍に悔しさは?」の問いに「特にない」、即答できた理由とは

 これらの成長を語っていたのは、9月10日のTリーグ開幕戦。「期待に応えるのがエース」と、試合前の練習から気合が入っていた。五輪をきっかけに新しいサーブにも挑戦。「今日も日本生命の練習相手、スタッフ、いろんな方の支えがあるとわかった上でコートに立つことができた」。感謝と気遣いを忘れずにラケットを握り、想いをボールに乗せた。

 開幕白星に導いた試合後、「同世代が東京五輪で活躍して悔しさは?」と問われても「特になかったです」と即答。本気でチームを思って行動したからこそ、断言できるのだろう。伊藤が金メダルに輝き、夢を叶えた瞬間は嬉しくて涙が止まらなかったのだから。

 20年1月、東京五輪代表争いに決着がついた直後の全日本選手権は、シングルスで伊藤、石川を破って初優勝した。先月29日に幕を閉じた世界選手権は、伊藤と組んだ女子ダブルスで2大会連続準優勝。張本智和との混合ダブルスでも銀メダルだった。

「一つひとつの大会をクリアしていく中で、24年のパリ五輪があると思っています。あまり今はパリのことを考えていない。目の前の試合で結果を出すことを今は考えています」

 16年リオ五輪は平野が補欠を経験し、東京五輪までの成長に繋げた。日本の女子卓球選手でたった一人しかできない経験をした21歳の夏。早田は財産を胸に、目の前の一球に本気をぶつけていく。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)