今年の沢村賞は満場一致で山本由伸(オリックス)に決定した。名実ともにNPB最高の投手になったと言っても過言ではない。それほど圧倒的なパフォーマンスを見せている。 そんな山本は、プロ入り時はドラフト4位指名の選手だった。ドラフト4位は中位、…

 今年の沢村賞は満場一致で山本由伸(オリックス)に決定した。名実ともにNPB最高の投手になったと言っても過言ではない。それほど圧倒的なパフォーマンスを見せている。

 そんな山本は、プロ入り時はドラフト4位指名の選手だった。ドラフト4位は中位、または下位ともとれる順位だが、山本に限らず大物選手を数多く輩出してきた。

 いまだに語り草になっているのは、「伝説の1991年ドラ4組」だ。

鈴木一朗(イチロー/愛工大名電高→オリックス)
中村紀洋(渋谷高→近鉄)
金本知憲(東北福祉大→広島)
桧山進次郎(東洋大→阪神)

 このように、のちに球界の大スターとなる選手が4人も生まれている。

 ほかにも前田智徳(1989年・熊本工高→広島)、鈴木尚典(1990年・横浜高→大洋)、和田一浩(1996年・神戸製鋼→西武)、川﨑宗則(1999年・鹿児島工高→ダイエー)、赤星憲広(2000年・JR東日本→阪神)といった名選手がドラフト4位出身である。なぜ、ドラフト4位からスターが誕生するのかわからないが、不思議なジンクスだ。


西武4位指名の

「和製ランディ・ジョンソン」の異名をとる八王子高の羽田慎之介

 今年のドラフト4位指名選手にも、そんな大物が出現するのだろうか。ここで今年の"ドラ4"の顔ぶれを見てみよう。

三浦銀二(法政大→DeNA)
阪口樂(岐阜第一高→日本ハム)
味谷大誠(花咲徳栄高→中日)
羽田慎之介(八王子高→西武)
田村俊介(愛工大名電高→広島)
野村勇(NTT西日本→ソフトバンク)
石田隼都(東海大相模高→巨人)
泰勝利(神村学園高→楽天)
前川右京(智辯学園高→阪神)
秋山正雲(二松学舎大付高→ロッテ)
小森航大郎(宇部工高→ヤクルト)
渡部遼人(慶應義塾大→オリックス)

 魅力的なポテンシャルを秘めているのは、西武4位の羽田慎之介だ。身長191センチの大型左腕で、「和製ランディ・ジョンソン」の異名で呼ばれた大器。今春の東京大会で見せたパフォーマンスは印象的だった。

 左サイドハンドに近いスリークオーターの角度から放たれる快速球は、打者に向かってぐんぐん加速していく迫力満点のボール。潜在能力にかけては、おそらく今年の高校生でナンバーワン。高校時代の菊池雄星(マリナーズFA)と匹敵する才能の持ち主だ。

 そんな投手がドラフト4位まで残っていた理由は、スカウトの視察機会が限られていたから。今夏は左ヒジ骨髄浮腫の影響で公式戦登板なしに終わり、春を含めても今年は公式戦でわずか2イニングしか投げていない。むしろ、西武はよく4位で指名したと見るべきだろう。

 故障箇所が治療に時間がかかる靭帯ではなく、骨という点は不幸中の幸いだった。現在はノースローで自宅やジムでトレーニングをしている。八王子高の安藤徳明監督は「その日の感覚やボールの様子を見て、ピッチングを変えられる選手」と器用さがある点も評価する。まずは心置きなく投げられる状態を取り戻せれば、プロで大輪の花を咲かせる可能性は十分にある。

 阪口樂(日本ハム4位)、田村俊介(広島4位)、前川右京(阪神4位)という高校生も将来楽しみな左の強打者だ。近年はプロ側の「右打ち野手」の需要が高まっており、能力は高くとも左打者の彼らは4位まで残ったとみられる。

 とくに阪口は2021年ドラフトの目玉格になっても不思議ではなかった存在だ。打席で構えた姿は大谷翔平(エンゼルス)と重なり、昨夏の岐阜独自大会では帝京大可児高・加藤翼(現中日)の149キロをライトスタンドに運ぶセンセーショナルなホームランを放った。今年に入って公式戦で結果を残せない試合が続き、視察に訪れたスカウト陣の評価が上がらなかった。とはいえ、スラッガーとしての素材は一級品だけに、プロの環境で大化けするかもしれない。

 田村は愛工大名電では投手としても活躍し、今夏の甲子園の試合後には「両方やりたい」とプロでの二刀流希望を明かした。だが、広島のスカウト陣が評価したのは、田村の類まれな打撃力。甲子園でも本塁打を放ったように、柔らかいリストで弾き返す打撃は高い将来性を感じさせた。左投げながら一時期はサードをこなしたように、器用さもある。高校の偉大な先輩・イチローに続く、"ドラ4"からの出世はなるか。

 前川は1年夏から智辯学園高の4番に座り、甲子園(交流試合を含む)に4回出場した甲子園のスター。やや打撃に悩んだ時期もあったが、体重を絞ってキレが出た今夏は打率.455、2本塁打の活躍で準優勝に大きく貢献。近年、甲子園大会で活躍した高校生を数多く獲得している阪神に4位指名された。同じ左打者の大物・佐藤輝明や、2学年違いの右のスラッガー・井上広太らホープがひしめく環境で台頭できるか。

 泰勝利(楽天4位)、秋山正雲(ロッテ4位)はともに小柄ながら、力強いストレートを投げ込む左腕という共通点がある。泰は奄美大島の瀬戸内町出身で中学時代は野球部員が1人しかおらず、両親とキャッチボールをするなど高校野球に備えていた。高校では入学当時110キロ程度だった球速が、3年夏には150キロまで到達。そんな奇跡的な歩みも、ドラフト4位から大成すればさらにクローズアップされることだろう。

 最後に紹介したいのは、渡部遼人(オリックス4位)。広い守備範囲と盗塁可能な俊足を武器にする外野手だ。ドラフト時には「4位縛り」という制限があり、5位以降の指名なら社会人に進む意向を示していた。ドラフト4位のウェーバー順位最下位だったオリックスが指名しなければ、大卒時点でプロに進むことはなかったのだ。

 オリックスの外野陣は吉田正尚、福田周平、杉本裕太郎とチームに不可欠な人材が並ぶが、渡部の守備力は間違いなく即戦力になるだろう。チームの選手層に厚みを持たせる人材になりそうだ。

 ドラフト上位指名ではなかった悔しさ、なんとかプロに滑り込めた喜び、まだまだ潜在能力を発揮できていないもどかしさ。ドラフト4位指名を受けた選手の胸中には、さまざまな思いがあるだろう。いずれ「2021年花のドラ4組」と呼ばれる日はくるのか。彼らの挑戦が始まろうとしている。