大阪桐蔭の初優勝で幕を下ろした第52回明治神宮大会・高校の部。今大会は大会を通じて2本の本塁打を放った佐々木麟太郎(花巻東)や、優勝投手になった前田悠伍(大阪桐蔭)ら大物1年生のパフォーマンスが目立った。あらためて"スーパー1年生"の活躍…

 大阪桐蔭の初優勝で幕を下ろした第52回明治神宮大会・高校の部。今大会は大会を通じて2本の本塁打を放った佐々木麟太郎(花巻東)や、優勝投手になった前田悠伍(大阪桐蔭)ら大物1年生のパフォーマンスが目立った。あらためて"スーパー1年生"の活躍ぶりを振り返ってみたい。



神宮大会で2本塁打を含む打率.600と驚異的な数字を残した花巻東・佐々木麟太郎

 佐々木のプレーぶりは衝撃を超え、もはや事件だった。登録上のサイズは身長183センチ、体重117キロ。前代未聞のスケールを誇る怪童が初の全国舞台で残した成績は、3試合で打率.600、2本塁打、9打点という恐るべき数字だった。

 初戦の第1打席、スタンドに集まった観衆、スカウト、メディアのあらゆる人間が「お手並み拝見」とばかりに見守るなか、いきなりライトスタンドに放り込む先制ホームラン。さらに広陵との準決勝では、最大7点差あったビハインドを追いつく同点3ランホームラン。球場中の視線を集めながら結果を残してしまうところに、早くも佐々木のスター性が表れていた。

 しかも、東北大会期間中に左脛の疲労骨折を負い、体調は万全ではなかった。佐々木が打席に入ると、花巻東ベンチで見守る監督であり父でもある佐々木洋から「センターに!」「力抜いて!」と何度も声が飛んだ。「気持ちが入りすぎると、力が入ってしまうので」と佐々木の特性を考慮した上でのアドバイスだった。

 すでに高校通算49本塁打と、信じられないペースで本塁打を積み上げている。だが、佐々木は大会中、何度も本塁打への意識を否定して「チームのために貢献したい」というフレーズを繰り返した。この謙虚さ、如才なさは父や偉大な先輩である菊池雄星(マリナーズFA)、大谷翔平(エンゼルス)からの影響を感じずにはいられない。

 以前から「バリー・ボンズ(元ジャイアンツほか)のタイミングの取り方を参考にしています」と公言している佐々木だが、今大会では意外な人物から打撃のアドバイスを受けたことを明かしている。

「中学3年の時にたまたま抽選が当たりまして、高橋由伸さん(元巨人)からリモートで指導をいただく機会があったんです。スイング軌道やタイミングの取り方についてアドバイスをいただきました。バットの出し方について、しっかり上からさばくように出すようにと言われていました」



大阪桐蔭の神宮大会初優勝の立役者となった前田悠伍

 一方、今後の課題について佐々木はこう語っている。

「まだまだ足りないことばかりなので。スイングの力をつけること、変化球への対応。レベルアップできることはたくさんあるので、チームのためにもレベルを上げていきたいです」

 大阪桐蔭の1年生左腕・前田の投球もセンセーショナルだった。背番号は14番ながら、実質的な大阪桐蔭のエースは全3試合に登板した前田だった。

 身長179センチ、体重75キロのスリムな体型に、ストレートの最高球速は145キロとスケールを感じさせるタイプではない。それでも、強いスピンの効いた好球質のストレート、両サイドに投げ分ける制球力、スライダー、カーブ、チェンジアップなど変化球の精度、相手打者を見下ろして投げるマウンド度胸。16歳にして「勝てる投手」に必要な要素をすべて兼ね備えている。

 今秋は大阪桐蔭の西谷浩一監督に前田について尋ねるたびに、「まだ1年生なので、細かいことは言わずにのびのびやらせています」という言葉が返ってきた。つまり、ほぼ手つかずの状態でこの秋は無双したわけだ。

 だが、前田本人はというと、「まだ『のびのび』という段階じゃダメだと思っています」と強気に語り、さらなる高みを見据えている。

 また、花巻東・佐々木への対抗意識を聞かれると、前田はこう答えた。

「実際に生で見たことがないのでどういう選手かはっきりしてないですけど、同じ1年生なので対戦したら負けていられないです」

 今大会は残念ながら直接対決は実現しなかったが、来春以降の2年間で両雄が相まみえる瞬間が訪れることを楽しみに待ちたい。

 明治神宮大会で準優勝に輝いた広陵には、真鍋慧という大型1年生スラッガーがいる。身長189センチ、体重89キロの長身で、準決勝の花巻東戦ではライトポール際へ飛び込む3ラン本塁打を放った。これが高校通算10号だという。

 広陵には10年前に丸子達也(現JR東日本)という左のスラッガーがいた。丸子があまりに打球を遠くまで飛ばすため、広陵のグラウンドが増設され「丸子ネット」と名づけられたという伝説を残している。



神宮大会準決勝の花巻東戦で本塁打を放った広陵の真鍋慧

 真鍋は丸子とタイプが重なるのではないか。監督の中井哲之に尋ねると、「丸子はすばらしい選手ですが」と前置きした上でこんな答えが返ってきた。

「真鍋のほうが飛距離はありますし、引っ張り中心だった丸子に比べて真鍋は広範囲にホームランが打てます。それと、真鍋のほうが足は速いですね」

 中井は真鍋のことを「ボンズ」のニックネームで呼んでいる。もちろん、バリー・ボンズが由来だ。そんな真鍋はボンズのタイミングの取り方を参考にする佐々木をどう見ているのか。報道陣から佐々木への意識を質問されると、真鍋は「同学年なので、少しは意識するんですけど......」と言葉少なに語った。まだ対抗意識を燃やすような段階にはないようだ。

 ベスト4に進出した九州国際大付には、佐倉侠史朗という巨漢の左スラッガーもいる。身長182センチ、体重104キロという存在感は佐々木に匹敵。九州大会では長崎日大戦での満塁弾を含む、2試合連続本塁打を放つなど活躍した。

 明治神宮大会では、その個性的な打撃フォームにスタンドからどよめきが起こった。打席で構える際に右足を白線から飛び出すのではないかと思うほど大きく踏み出し、重心を低くしてから右足を引いて構える。バットのグリップは頭上に高々と掲げ、右足を高く上げて豪快に振り抜く。一度見たら忘れない、アクションの大きな打撃フォームだ。

 佐倉本人も「独特なフォームとよく言われます」と、変わった打撃スタイルという自覚はあるようだ。それにしても、どうしてこのフォームにたどり着いたのか。そう聞くと、佐倉はこう答えた。

「夏の大会で2〜3打席立たせてもらったんですけど、結果が出ずに終わって。大会のあとに監督やコーチと話し合って、低く構えて目線がブレず、重心が前に行かないようなフォームにしたらあの形になりました」

 構える前に右足を大きく踏み出してスクワットのように沈み込む動きは、「重心を低くする」という狙いがあるという。今後も「このスタイルでやっていきたい」とも語っており、来春のセンバツでは間違いなく話題になるだろう。



大阪桐蔭の前田悠伍からホームランを放った九州国際大付の佐倉侠史朗

 大阪桐蔭との準決勝では、同じ1年生の前田からライトスタンドへの豪快なホームランを放っている。これが高校通算8本塁打。佐々木への対抗心を聞かれると、「自分よりすごいバッターなので」と真鍋と同じく対抗心は薄いようだ。

 今回紹介した4人の1年生は、いずれも大会前から将来を有望視された存在だった。そんな逸材がそろって結果を残したところに、運命めいたものを感じてしまう。今大会が彼らの「伝説」の序章にすぎないのか。私たち野球ファンには、彼らの高校野球をあと2年間も享受できる時間がある。