日本ボクシング史上最大の一戦――。12月29日、さいたまスーパーアリーナで行なわれるWBA 世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(帝拳ジム)とIBF同級王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)の統一戦がついに正式発表された。 ゴロフキン戦…

 日本ボクシング史上最大の一戦――。12月29日、さいたまスーパーアリーナで行なわれるWBA 世界ミドル級スーパー王者の村田諒太(帝拳ジム)とIBF同級王者ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)の統一戦がついに正式発表された。 



ゴロフキン戦の記者会見を行なった村田

 41勝(36KO)1敗1分と立派な戦績を誇り、過去にWBA王座を合計19度も防衛したゴロフキンは、現代ボクシングを代表するスーパースターのひとり。それほどの選手の来日戦は歴史的な戦いになるだろう。

 残り1カ月となった盛り上がり必至のこの一戦を、アメリカのメディアの人たちはどう見ているのか。今回、アメリカの4人のベテラン記者に4つの質問をぶつけ、師走の日本で開催されるメガファイトの行方を占ってみた。

【パネリスト】
●ダン・レイフィール(元『ESPN.com』の著名なボクシング記者で、現在はフリーランスライター。日本では"ラファエル"と表記されることが多いが、実際の発音は英語読みのレイフィール)

●スティーブ・キム(元『ESPN.com』のメインライター。韓国系アメリカ人。業界内に幅広い人脈を持つ)

●キース・アイデック(『BoxingScene.com』のシニアライター、コラムニスト)

●ノーム・フラーエンハイム(アリゾナ州在住のスポーツライター。『アリゾナ・レパブリック』、『LAタイムズ』などで記事、コラムを執筆)

Q1.村田対ゴロフキン戦の注目ポイントは?

レイフィール 私はゴロフキンがまだドイツで戦うプロスペクト(若手の有望選手)時代から試合を見始めて、リングに立つたびに楽しみにしてきた。日本での村田との試合には大観衆が集まるはずで、エキサイティングな雰囲気になるだろう。ミドル級の王者2人が統一戦を行なうのは、ボクシング界にとっていいこと。ゴロフキンのファンのひとりとして、彼がどんな戦いを見せてくれるのかを楽しみにしている。

キム まずは、ゴロフキンがどんな状態かに注目したい。3年前にこのカードが実現していたら、断然ゴロフキンが有利でほとんど勝負にならなかった可能性もある。ただ、39歳になったゴロフキンは、依然として全盛期に近い強さを保っているのか。そもそも、本当にリングに立ちたがっているのか。偉大な選手は歳を重ねても強さを維持するものだが、今のゴロフキンがDAZNとの巨額契約のため、お金のために戦っているのだとすれば、この試合は厳しいビジネスになり得る。

アイデック パワフルなベテラン選手同士の対戦なので、激しい打ち合いになるだろう。"War(戦争)"と呼んでいい激闘になるかもしれない。村田は過去2敗を喫しているが、どちらもアウトボクサー相手のものであり、怪物的なパンチャーのゴロフキンはタイプが違う選手だ。村田がゴロフキンのパワーに耐えられるアゴの強さを持っているかが、ひとつの見どころになると思う。

フラーエンハイム ゴロフキンのほうが村田より一枚上のボクサーだとは思うが、最近は衰えの兆候が見える。どれだけ衰えたのか、その答えがこの試合で示されるだろう。サウル・"カネロ"・アルバレス(メキシコ)はクルーザー級進出を計画しているが、一方で海外進出も望んでおり、この試合にも注目しているはずだ。村田がゴロフキンに勝つ大番狂わせを起こし、評価と知名度を上げれば、将来的なカネロ戦のチャンスも出てくるのではないか。そういう視点からも興味深い一戦だ。

Q2.村田はどこに勝機を見出すべきか?

レイフィール 正直に言うが、私は村田にチャンスがあるとは思えない。村田にはゴロフキンに勝つための武器が欠けている。現役最高の打たれ強さを誇る選手をKOすることは難しいし、強敵相手の経験値も段違いだ。ゴロフキンも全盛期を過ぎているとは思うが、それでも村田よりかなり上の選手だと見ている。しかし村田が、私が間違っていることを証明できたら、その時には彼を素直に称賛するつもりだ。

キム 村田はタフで、パワーがあり、決意を固めてこの試合に臨んでくるはず。アウトボクシングではなく、ゴロフキンにプレッシャーをかけていくべきだ。セルゲイ・デレビャンチェンコ(ロシア)戦で示したとおり、ゴロフキンは手数が多い選手に苦しむことがある。村田もハイペースでパンチを出してゴロフキンに挑んでいくべきだろう。

アイデック ゴロフキンが39歳と高齢化したとはいえ、真っ向から打ち合って村田が勝てるとは思えない。村田は判定勝利を目指すべきではないか。日本での試合なら村田に地の利があり、会場のファンは村田がパンチを当てるたびに大歓声を挙げるだろう。クリーンヒットしなくても、ガードの上を叩くだけで観客は反応し、ジャッジの見方に影響を与えるかもしれない。そういった背景から、村田の判定勝ちは不可能ではないと考える。

フラーエンハイム 村田はゴロフキンのパワーに耐えきるだけのタフネスを示さなければいけない。最近のゴロフキンの反射神経はかつてと同じではなく、動きが少なくなっただけに、村田にもパンチを打ち込んでダメージを与える機会はあるかもしれない。ただ、それをするためには打たれ強くなければならず、村田がそれを備えているか、現段階ではわからない。

Q3.試合展開の予想は?

レイフィール 6〜8ラウンドにゴロフキンがKO勝ちするだろう。

キム やはりゴロフキンが勝つとは思う。ただ、注目はどのような形での勝利かということ。先ほども話したとおり、3年前なら圧勝していただろうが、今回はわからない。そこに今戦の面白さがある。

アイデック 見ているものが楽しめる激しい試合になり、ゴロフキンが8〜10ラウンドにKO勝ちを飾ると見る。

フラーエンハイム ゴロフキンの11ラウンドTKO勝ちと予想する。

Q4.今戦が日本では『Amazon Prime Video』で中継されることが、ボクシングビジネスにどのような影響を及ぼすか(注・回答者は一部のみ)

キム 現時点ではAmazonがどんな形で関わっていくかという実態が見えないため、今後を推し量るのは難しい。新しいプラットフォームでの中継となるおかげで今戦をより多くの人が視聴し、トップランク社(村田のアメリカでのプロモーター)のビジネスにも何らかの形で影響していくのだろう。

 これを機に、個人的に世界でも最もエキサイティングなファイターだと思っている井上尚弥(大橋ジム)の試合をより頻繁に組んでほしいと願わずにはいられない。

アイデック 最近は、人々はこれまでと違った方法でスポーツを楽しむようになった。Amazonは非常に抜かりがなく、意味や勝機のない投資はしない。これまでに参入したさまざまな分野で成功を収め、アメリカでは多くのファンがAmazon Prime Videoを通じて大人気のNFLを視聴している。今回のボクシング参入は業界の流れを変える変化になり得るだけに、今後に注目しておく必要があるだろう。