GPシリーズ・ロシア杯を世界歴代最高得点で優勝したカミラ・ワリエワ 2014年に冬季五輪が行なわれたソチ。グランプリ(GP)シリーズの最終戦となったロシア杯で、「ロシア旋風」が吹き荒れた。 15歳で頭角を現わすカミラ・ワリエワがショートプロ…



GPシリーズ・ロシア杯を世界歴代最高得点で優勝したカミラ・ワリエワ

 2014年に冬季五輪が行なわれたソチ。グランプリ(GP)シリーズの最終戦となったロシア杯で、「ロシア旋風」が吹き荒れた。

 15歳で頭角を現わすカミラ・ワリエワがショートプログラム(SP)、フリースケーティングと世界歴代最高得点をたたき出し、圧巻の優勝。24歳で元世界女王のエリザベータ・トゥクタミシェワも余韻まで色気のある演技で、堂々の2位に入った。そして、15歳の新鋭マイア・フロミフはSPでは出遅れたものの、フリーでは4回転ジャンプを2本入れ、逆転で3位に滑り込んだ。

 3人のロシア選手が表彰台を独占し、12月のGPファイナル出場も決定。昨季の世界選手権で優勝したアンナ・シェルバコワ、2019−2020シーズンのGPファイナル優勝のアリョーナ・コストルナヤも含め、今季のGPファイナルは6人中5人がロシア勢になった(ロシア以外では唯一、坂本花織が出場予定)。

 しかも、昨季の世界選手権3位で「4回転の使い手」のアレクサンドラ・トゥルソワ、一昨季の世界ジュニア選手権でワリエワに次いで2位だった伏兵ダリア・ウサチョワは、GPシリーズのスケートアメリカはそれぞれ1、2位も、NHK杯をケガで欠場しているのだ。

「国際大会を戦うほうが難しさは少ない。ロシア国内には本当にライバルが多いし、そこでメダルを勝ち取るのは簡単ではないですから」

 トゥクタミシェワはいみじくも語っているが、圧倒的な選手層の分厚さと言える。

 その中心におどり出たのが、ワールドレコード更新の天才ワリエワかーー。

 11月26日、ソチ。ワリエワはロシア杯SPで、完全無欠の演技を見せている。

 例えば、すべてのジャンプが「タノ」と言われる両手上げだった。本人は得意にしているようだが、冒頭の大技トリプルアクセルまできれいな空中姿勢のタノジャンプ。跳ね上げたフリーレッグの高さも目立ち、凛とした姿勢は美しさが際立った。3回転ルッツ+3回転トーループの連続ジャンプも軸がぶれず、出来ばえ点(GOE)も含めて13.05点も獲得していた。

 ジャンプだけでなく、スピン、ステップもレベル4。リンクに上がると15歳とは思えない勝負魂で、腰が据わっていた。表現力の点でも、流れが軽やかでよどみがなかった。

「今日は自分のスケートに満足しています。いつもは"もっとできる"というのがあるのですが、滑ることを楽しめて、ほぼ最大限を出せました。もちろん、まだ成長の余地はあって、コンビネーションジャンプのところはそれほどよくなかったですし」

 演技後、ワリエワは振り返っているが、その目標値の高さに"女王感"も漂い始めている。

 そして翌27日のフリーも、壮大な『ボレロ』のリズムに乗って、男子顔負けの高難度のプログラムを一つひとつ遂行した。冒頭から3つの高難度のジャンプは、4回転サルコウ、トリプルアクセル、4回転トーループ+3回転トーループと完璧に降り、それぞれ3〜4点台のGOEを記録。得点が1.1倍になる演技後半のジャンプもすべて難なく着氷した。4回転トーループ+オイラー+2回転サルコウは、最後を3回転にするはずだったが......。

「今日はいい滑りができてうれしいです。一つだけ小さなミスがあって、3回転にするところが、2回転になってしまいました。なので、まだ私のベストではないということです」

 そう語るワリエワは、どこまで進化するのか。当然、GPファイナル、北京五輪の頂点を視野に入れているはずだ。

 もっとも、まずはロシア国内の争いがし烈を極める。たとえGPシリーズを2度優勝し、世界記録を出しても五輪出場は確約されない。日本と同じ3つの枠をかけて、火花を散らすことになる。

 言い方を変えれば、五輪を分岐点にした切磋琢磨がロシアにとてつもない力を生んでいるのだ。

 シニア11年目のトゥクタミシェワは貫録さえ見えるが、五輪だけは縁がない。それだけ、限られた者だけの舞台と言えるだろう。

「(五輪出場がないことを問われて)これだけ長いキャリアを重ねていれば、波があるのは避けられません。ですが、私はまだすべてを見せたと思っていませんし、まだまだ改善できると思っています。今回はどうにか五輪出場となるように、夢を叶えるためにできる限りのことをするつもりです」

 トゥクタミシェワは本拠地にしているサンクトペテルブルクで地元ラジオに出演し、北京五輪に向けた心境をそう語っている。4回転は跳ばないが、短い助走でロケットのように跳ぶトリプルアクセルは強力な武器だろう。何より、異国に誘われるような妖艶な演技は、フィギュア界の華だ。ワリエワも、その境地には及ばない。

 12月9日、大阪で開幕するGPファイナル。ロシア旋風が再び吹き荒れる。