東京五輪開会式の冒頭に登場、話題を集めた看護師ボクサーが明かす出演の意義とは アマチュアボクシングの全日本選手権第4日が27日、東京・墨田区総合体育館で行われている中、東京五輪の開会式冒頭に登場して話題となった看護師ボクサーの28歳津端あり…

東京五輪開会式の冒頭に登場、話題を集めた看護師ボクサーが明かす出演の意義とは

 アマチュアボクシングの全日本選手権第4日が27日、東京・墨田区総合体育館で行われている中、東京五輪の開会式冒頭に登場して話題となった看護師ボクサーの28歳津端ありさ(コサカジム・ライフサポートクリニック)が取材に応じた。今大会は女子ウェルター級にエントリーしていたが、出場者は1人のため試合はなく「認定証」を獲得。五輪開会式で感じた心境や出演を通じて表現したかったことなどを語った。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

 東京五輪は一人の走りから始まった。7月23日、午後8時からの開会式。冒頭は女性がランニングマシンを走り、トレーニングに励むという演出だった。シューズやウェアを白に統一した現役看護師のボクサー。それが津端だった。新型コロナウイルスの困難にめげず、孤独でも根気強く努力する姿を表現。次々に他の選手が加わり、葛藤を抱えているのは一人ではないというような内容だった。

「たまたま看護師をやっていて、たまたま五輪を目指す機会があった。自分はそんなに凄いことをやっているつもりではなかったです。『私でいいのかな』と。関係者の方々からも熱いオファーをいただきました。その気持ちに私が少しでも応えられるなら協力したいと思って出させていただきました」

 心療内科のため、看護師として直接的にコロナ禍の影響を受けたわけではない。だが、医療従事者の大変さは否が応でもわかる。看護師であり、アスリート。しかも、コロナの影響を大きく受けた一人だった。

 もともと、ボクシングを始めたのはダイエット目的。2018年から打ち込み、スパーリングをするうちに選手に転向。競技人口は多いとは言えないが、デビュー戦の19年全日本選手権はミドル級で優勝した。代表選手となり、東京五輪を目指すことに。1年延期された期間は、代表合宿に参加し「アスリートの意識が高まったし、技術も凄い伸びた1年だった」と拳を振り続けた。

 五輪に向けて練習時間を確保するため、1月に夜勤のない現在の医院に移った。しかし、ラストチャンスだった21年6月の最終予選はコロナ禍で冬のうちに中止が決定。不運にも五輪への道は途絶えてしまった。

 そんな中、4月に届いたのが開会式の出演オファー。重要機密で「誓約書を書いた人以外には言っていないです」と笑う。共生社会や五輪・パラリンピックの開催意義などが込められた演出。世界中が注目する開会式の冒頭という大抜擢だった。

出演後は大反響、同じ看護師から「凄く勇気づけられました」の声

 演出側の表現したいことを聞き「ありのままの自分と重なることが多かった。それをそのまま表現しただけで、どう感じるかどうかは見ている方々次第」と説明。大会の延期や中止にも挫けることなく汗を流した日々を思い出しながら走った。

「感動しました」。出演後にもらった多くの声に意義を感じた。中には同じ看護師から「凄く勇気づけられました」という言葉も。真剣な眼差しの演技に対し、医院の患者たちに「女優を目指してるの?」と可愛がってもらえる。コロナ禍で自分に何ができるのか。微力でもいいという想いが大きな力を生み出した。

「そんなに凄いと思ってやっていなかったけど、そういう気持ちにさせられることができていたなら、自分がやってきたことがよかったのかなと思いました。延期の1年は、大会があるのか、ないのか考えていた。最終予選がなくなったけど『もう一回頑張ろう』と考えられた。その時、その時の自分を思い出しながらやっていたので、それが表情に出たのだと思います」

 現在は月曜から土曜まで、午前10時から午後4時の非常勤。以前は入院患者のために夜勤にも入っていたが、外来患者とデイケアのみとなった。朝と勤務後の2部練習でレベルアップに励んでいる。ボクシング中心の生活。目指すは24年パリ五輪だ。

「正直、前はパリ五輪まで目指す気持ちはなかったけど、開会式に出て身近に五輪を感じられた。日本人選手が活躍している場面に五輪の凄さ、反響の大きさを感じた。根気強く練習し続けられるのは私の強み。気持ちでは誰にも負けないと思います」

 夏に視線を集めたボクサーは、今も根気強く走り続けている。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)