なでしこジャパンにとって東京オリンピックは、悔しい結果に終わった。だが、時間は進んでいる。チームもまた、前進しなければ…
なでしこジャパンにとって東京オリンピックは、悔しい結果に終わった。だが、時間は進んでいる。チームもまた、前進しなければならない。
新生女子日本代表は、新監督とともに歩み始めた。その第一歩をサッカージャーナリスト、大住良之が読み解く。
■高いボール保持率と「縦」への意識
パススピードも速く、リズムも悪くなかった。ボランチの猶本と長野を中心にテンポよくパスをつなぎ、逆サイドへと展開するサッカーに対し、アイスランドは自陣にしっかりと引いて守備組織をつくるという形が多くなった。
0-2で敗れたものの、1試合を通じて、ボール支配はなでしこジャパンが大きく上回ったはずだ。アイスランドの大きな展開に「奪いどころ」を見いだせず、振り回される時間帯もあったが、常に「縦」への意識をもったパス回しは、これからのなでしこジャパンのサッカーのベースとなるもののように感じられた。
■試合を重ねれば改善可能な欠陥
失点は、いずれも相手の個のスピードを殺すことができなかったことで生まれた。前半14分には、ハーフライン付近でのパスミスで相手に奪われ、時間をかけずに右に展開されると、相手の最大のストロングポイントであるS・ヨンスドッティル(背番号23)に独走されてそのまま決められた。後半26分の2点目は、相手陣深くからのロングパスでまたもS・ヨンスドッティルに走られ、中央に入れられたボールをフリーのソルバルズドッティルに決められた。
池田太監督は、このS・ヨンスドッティルを抑えるために左サイドバックにスピードと高さのある宝田沙織を起用、宝田は積極的な攻撃参加でS・ヨンスドッティルを守備に奔走させ、うまく機能していたのだが、この2回の場面だけ、宝田が前に出たところにパスを出され、最後にS・ヨンスドッティルに追いすがったのが、1点目が猶本光、2点目のときには長谷川唯だったところに、サッカーの面白さと難しさがある。
もちろん、ミスもあった。テンポが上がりすぎて不正確になったり、ボールの受け手とのタイミングが合わないこともあった。しかしこうした欠陥は、ゲームを重ねることで改善されるポイントのように思われた。
■「個」の勝負に持ち込むな
最大の問題は、攻撃の最終段階だった。相手ペナルティーエリアにかかるところで、多くの攻撃がストップさせられた。最前線でプレーした小林里歌子と植木理子のところにパスが送られても、アイスランドの大柄なディフェンダーが激しく体を寄せており、WEリーグで見せるこの2人のペナルティーエリア内でのコンビネーションはまったく発揮させてもらえなかった。
後半32分には小林に代えてオリンピックで2得点を挙げた田中美南(INAC神戸)が投入されたが、大きく状況が変わったわけではなかった。
「縦に速い攻撃」では、相手ペナルティーエリアにはいっていこうという選手は最前線のFWが中心になる。後ろから組み立て、相手守備をそのままの勢いで切り崩そうとすると、どうしてもFW対DFの「個」の勝負となる。
サッカーという競技では、幅7.32メートル、高さ2.44メートルという「小さな」目標に向かわなければならないFWより、ゴールを除けば360度どこへけり出しても勝ちとなるDFのほうが圧倒的に有利な立場にある。
しかもこの試合のアイスランドのようにペナルティーエリア近辺に選手を密集させる守備組織のなかで孤立するFWにボールを出して「さあ、シュートを打って点を取って」と望んでも、かなえられることはない。