ダービージョッキー大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」 ここ2週は関西で開催された秋のGIシリーズ。今週は関東、東京競馬場へ…

ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」

 ここ2週は関西で開催された秋のGIシリーズ。今週は関東、東京競馬場へと舞台を移してGIジャパンC(11月28日/東京・芝2400m)が行なわれます。

 優勝賞金は「年末のグランプリ」GI有馬記念と並んで国内最高の3億円。そして先日、来年にはともに1億円増えて4億円となるというニュースが話題になっていました。第1回(1981年)の優勝賞金は6500万円でしたから、それと比べるとすさまじい増額ぶりです。

 記念すべき第1回には、当時デビュー2年目の減量騎手だった僕も騎乗のチャンスをいただき、とても貴重な経験をさせていただきました(※ゴールドスペンサーに騎乗し、日本馬最先着の5着)。

 その頃は外国馬が強さを見せつけて、外国馬と日本馬との間に大きな実力差があることを感じましたが、近年のジャパンCでは逆に、日本馬が上位を独占する状況が続いています。日本馬のレベルアップと同時に、本当に強い外国馬の参戦が減ってきたことがその要因でしょう。そうした流れは、今年も大きく変わることはなさそうです。

 昨年は史上初となる三冠馬3頭(アーモンドアイ、コントレイル、デアリングタクト)による対決が話題となりました。実際にレースでも、その3頭が叩き合いを演じて、競馬史に残る名勝負を繰り広げました。

 結果はラストランとなるアーモンドアイが快勝。牡馬、牝馬の若き三冠馬を退けて有終の美を飾りましたが、今年もそれと似たような構図になりそうな気がしています。

 ここがラストランとなるコントレイル(牡4歳)に対して、今年のダービー馬シャフリヤール(牡3歳)がどこまで迫るのか――。

 昨年と違うのは「3強」ではなく、「2強」対決になること。昨年4着だったカレンブーケドールが出走を回避したことによって、「2強」+「その他」といった構図がより色濃くなったように思います。

 先週のGIマイルCSではグランアレグリアが連覇を果たして見事に引退の花道を飾りましたが、今回が現役最後のレースとなるコントレイルも同じく、お釣りを残さずにメイチの仕上げで臨んでくるでしょう。

 無敗の三冠馬となって以降は、まさかの3連敗。大種牡馬ディープインパクトの「最高傑作」との呼び声も高いだけに、ここは"絶対に落とせない一戦"となりますしね。

 一方のシャフリヤールは、今年の日本ダービー(5月30日/東京・芝2400m)を2分22秒5というダービーレコードをマークして優勝。皐月賞馬のエフフォーリアをハナ差で制して世代の頂点に立ちました。

 今回は、前走後からたっぷりと間隔を空けての秋2戦目。余力もあるうえ、大幅な上積みが見込めます。

 そうなると、やはりこの2頭が中心。どちらも切れ味に特化したディープインパクト産駒ゆえ、道悪競馬ではパフォーマンが落ちてしまいますが、今回はよほどの極悪馬場にでもならない限り、僕は2頭の一騎打ちになるのではないかと踏んでいます。

 そうは言っても、競馬ファンとしては「"もう一議席"にどの馬を狙うか?」といった点の興味は尽きないところでしょう。複勝やワイド、3連複や3連単などは、たとえ「2強」決着になったとしても、もう1頭の枠に伏兵が突っ込んでくれば、オイシイ配当が期待できるかもしれませんからね。

 久しぶりに魅力的な存在が来日する外国馬に目を向ける人がいれば、今年のオークス馬に食指が動いたり、過去のGI馬の復活を期待したりする人もいるでしょう。あるいは、この秋のGIで好調な騎手に注目する人もいるかもしれません。

 そんななか、僕が気になっているのは、3年前のダービー馬であるワグネリアン(牡6歳)です。



東京・芝2400mという舞台が合うワグネリアン

 古馬になってからはノド鳴りの症状が悪化して勝ち星を挙げていませんが、年明けにノドの手術を行なってから、一時期よりも走りがよくなってきている気がします。特に前走のGII富士S(6着。10月23日/東京・芝1600m)の走りを見て、少し前に比べて明らかに動きがよくなっている、と確信しました。

 復活へ向けて、陣営も何かしらの策を講じたのかもしれません。前走のGII京都大賞典(10月10日/阪神・芝2400m)で5年ぶりの勝利を決めたマカヒキ(牡8歳)と同様、近いうちにどこかでもうひと花咲かせる場面があると睨んでいます。

 前走のこの秋初戦も、同馬にとってキャリア初となるマイル戦から始動しましたが、それも「スピード競馬に馴らせよう」といった陣営の意図があったのではないでしょうか。だとすれば、忙しい競馬をさせたことが、本番となる今回の舞台に生かされるのではないかと見ています。

 また、古馬になってから成績が上がらなかった理由として、出走するコース、条件が不向きだったとも考えられます。特に阪神の内回りは、この馬の走りからして合わないように思え、昨春から今春にかけて結果が出なかったことも仕方がないのかな、と思っています。

 しかし東京・芝2400mにおいては、ダービー勝ちに、2019年のジャパンC3着と、2戦とも馬券に絡んで適性の高さは実証済み。今回、戸崎圭太騎手が初めて手綱を取りますが、これまでの先入観がない分、かえっていいほうに出るかもしれません。大幅な変わり身があっても驚けませんよ。

 3歳と4歳の新旧ダービー馬による対決が脚光を浴びていますが、この馬もダービー馬としての意地があるはず。ということで、ノドの手術によって立て直しが図られたワグネリアンを、今回の「ヒモ穴馬」に指名したいと思います。