フィギュアスケート・宮原知子インタビュー後編「五輪への思い」前編「フィギュアスケート人生」から読む>>北京五輪出場を目指す宮原知子 来年2月の北京五輪、日本フィギュアスケート女子シングルは3人の出場枠をかけ、し烈な争いになっている。全日本選…

フィギュアスケート・宮原知子
インタビュー後編「五輪への思い」

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北京五輪出場を目指す宮原知子

 来年2月の北京五輪、日本フィギュアスケート女子シングルは3人の出場枠をかけ、し烈な争いになっている。全日本選手権王者である紀平梨花、グランプリ(GP)ファイナル出場を決めた坂本花織、そして三原舞依、樋口新葉、松生理乃、河辺愛菜も台頭。全日本優勝者だけはストレートで出場が決まるが、火花散る群雄割拠だ。

 そのなかで、宮原知子(23歳、木下グループ)は有力候補と言えるだろう。昨年の全日本では紀平、坂本に次ぐ3位に入った。今年開催された世界選手権にも出場し、前回の平昌五輪も4位と実績で優位に立つ。

 しかし、五輪出場が確定したわけではない。GPシリーズはスケートアメリカが7位、イタリア大会は5位で健闘も、GPファイナル出場は逃した。全日本が天王山になるだろう。

 五輪は4年に一度の特別な大会である。

 平昌に続いて、北京での出場を狙う宮原の勝算とはーー。

ーー単刀直入に聞きますが、全日本選手権での勝算は? 

宮原知子(以下、宮原) それは......誰にも(結果がどう出るか)わからないと思っています。ただ、私は全日本に向けてできる限りの準備をして試合に臨んで、精一杯やりきり、自分の演技に納得できたら一番かなって。全日本でショート・プログラムもフリーも自分の納得いく演技ができるように、毎日頑張りたいという気持ちでいます。

ーー自分に厳しいというか、自分を見つめる強さを持っている印象です。 

宮原 逆に自分を見つめすぎて、対処しきれていない気がします(笑)。どうしても緊張するところがあって。緊張にもいろいろな種類があると思うんですが、うまく自分のパフォーマンスができる緊張と、慎重になりすぎて不安に襲われてしまう緊張と......。ここ2シーズンは自分を信じられず、(後者のほうの)やっぱり失敗しちゃうんじゃないかっていう緊張が強かったんで。

ーー色にたとえると、どんな緊張なのでしょう? 

宮原 ここ2シーズン、調子は悪くなかったんですけど、本番でできなくなるという気持ちの面で調子が悪くて。自分のイメージは青黒い緊張で、暗い色でしたね。今シーズンは、気持ちの面で切り替えができてきたというか、前向きに楽しくやればいいんじゃないかなって緊張とうまくつき合えるようになってきました。なので、黄緑くらいにはなっています(笑)。

ーー昨年の全日本選手権では、フリーの『トスカ』で逆転での表彰台に上がりました。今季も昨季からの継続で仕上がりもよく、GPシリーズでも世界で喝采を浴び、「スケート人生の集大成」とも言えるプログラムに出会ったように見えます。

宮原 このプログラムを作り始めた時、すごく気に入った感触があったし、"オリンピックで滑りたいな"っていう気持ちが出てきて。それに加えて、昨年は2試合しかなかったので、滑り込む大切さも感じて。今まではフリーは1シーズンでずっと変えてきたんですが、あらためて試合数をこなす大事さも経験しています。ただ「集大成」って言われると、少し大げさっていうか、いつスケートをやめるかまだわかっていないので、言いきれないところはあるんですけど(苦笑)。オリンピックという区切りを考えた時に、平昌からの4年間をひとまとめというか、自分を表したプログラムになればいいなって思っています。

ーー冒頭、3回転ルッツ+3回転トーループの連続ジャンプで成功すると、勢いに乗りそうな気配があります。

宮原 自分の場合は、1本目跳んで、「よっしゃぁ」ってならないタイプで、「油断したらあかん」ってつい考えすぎちゃうんで、そこがよくないところかなって思います。ただ、一つひとつって考えてやったほうがいいのかなとも。

ーー五輪の重みは、実際に出場した選手としてどう感じますか? 

宮原 4年に1回の特別な大舞台で。やることは他の試合と変わらないので、試合に挑むうえでは同じ気持ちでやりたいって思うんですけど、やっぱりオリンピックって言われると、自分でもよくわからないですが、"そこに出たいな"って強く思う。何が違うかって難しいですけど......。

ーー五輪には魔物はいるものですか? 

宮原 うーん、自分の場合は、"オリンピックっていう本当に出たかった夢の場所に来られたんだ!"っていうことを、オリンピック会場で滑るたびに感じていました。大会前に入っての練習から、公式練習、練習、団体戦、個人戦って。長い期間中も、私は飽きずに。"オリンピック、楽しい!"っていう印象しかないですね。

ーー平昌五輪で思い出す景色があるとすれば? 

宮原 どれかひとつって言われると......ショートもフリーもですが、他の選手と並んでリンクに入ると、観客席の上に五輪マークが見えるんです。そこで、"本当に自分はオリンピックに来たんだな"って実感しました。だから、思いつくとしたら、その風景ですね。

ーースケーターとして"終わりの風景"は見えていますか? ずっと滑り続けたい気持ちもあると思いますが......。

宮原 ずっと滑っていたい、というのはないです。でも、まだ終わりは見えていないし、今は考えられないですね。

ーー最後に、宮原選手にとってフィギュアスケートとは? 

宮原 フィギュアスケートは、宮原知子です。今ぱっと思いついたんですが、本当に今はそれしかないなって。学校とかそういうのも、すべてスケートのために頑張ってきた感じなので、スケートありきの生活をずっと続けてきて。イコール自分という感じです。

 最後の質問、宮原は奥ゆかしく、品のある笑みを浮かべながら、自然な様子で答えた。彼女はそれだけ一途にスケートに向き合っていたのだろう。「氷上の住人」のような人生だ。

 その人生に対し、どんなタイトルをつけるべきなのか?

ーー自伝を出版するとしてタイトルを二文字でつけるなら? 品格、風雅、愚直......。

 好奇心で訊いた質問の答えが、いかにも彼女らしかった。

宮原 えー......。「鍛錬」とかですかね。でも、鍛錬だと苦しい、辛い意味が入ってきちゃうのですが、本当に厳しいしんどい練習も自分は苦ではなくて。そういう時、"スケートが好きなんだな"って思います。

 どれだけし烈な戦いにも、彼女は真っ直ぐ挑むはずだ。

【Profile】 
宮原知子 みやはら・さとこ 
1998年、京都府生まれ。4歳からフィギュアスケートを始める。2014〜2017年の全日本選手権で4連覇。2015年世界選手権2位。2018年には平昌五輪に出場し、日本選手最高位の4位。今季は、GPシリーズのスケートアメリカで7位、イタリア杯で5位。