男子のシーズン最終戦となる「Nitto ATP ファイナルズ」(イタリア・トリノ/11 月14日~11月21日/室内ハードコート)に急遽出場することになったヤニク・シナー(イタリア)。その舞台裏が明かされた。ATP(男子プロテニス協会)公式ウェブサイトが報じている。【マッチハイライト動画】シナー vs フルカチュ/ATPファイナルズ 3日目

第6シードのマッテオ・ベレッティーニ(イタリア)が大会初日に行われたグループステージ1試合目で脇腹を負傷。翌日に精密検査を受けた後で大会を辞退した結果、交代要員として控えていたシナーが2試合目から参戦することとなった。

出場するか否かでベレッティーニの最終判断を待っていた16日の午後、シナーは今季現役を引退した同国の先輩、パオロ・ロレンツィと会場の敷地内で昼食をとっていた。ロレンツォによればその時のシナーは「来年はもっとうまくやらなきゃいけない。最初からトップ8に入れていれば、こうやってほかの人の決断を待つ必要はないんだから」と話していたという。

コーチのリカルド・ピアッティ(イタリア)は、シナーの様子について「彼は緊張していたよ。おそらく自分がプレーできるとわかっていたからだろうね。マッテオの決断を待っていたんだ」と話している。

昼食後、シナーとピアッティはホテルに戻って連絡を待っていたところ、夜9時からの試合の約4時間前となる午後5時頃にベレッティーニからメッセージが届いた。同国の先輩であるベレッティーニは、20歳のシナーに対して自分が大会を辞退することを伝えるとともに、エールを送った。

「マッテオはヤニクに、ウォーミングアップをして楽しんで来い、とメッセージを送ったそうなんだ」とピアッティは話す。「それを聞いた時、私は彼にこう言った。“マッテオは最も大切なことを君に伝えた。とにかくコートに立ったら楽しむんだ”。選手はこういう大会に出るために、一年を通して練習に励み、試合に勝つために努力する。だから、晴れて出場できることになったら思い切って楽しめばいいんだ。ヤニクは本当に良いメッセージをもらったと思うよ」

その後、シナーのチームは急いで午後6時半からの練習をセッティングし、会場へと向かった。2019年の「ネクストジェネレーション・ATPファイナルズ」で優勝しているシナーは、すでに気持ちの上では準備ができていたようだ。

その晩に行われた試合で、笑顔の絶えないシナーは、観客の応援を後押しに第7シードのフベルト・フルカチュ(ポーランド)に6-2、6-2でストレート勝利。シナーが試合後のオンコートインタビューを受けようとした際にはスタンディングオベーションが起き、興奮した観客が落ち着くまでしばらくかかったという。

「会場の雰囲気は本当に凄いよ。みんなが僕のことを応援してくれていた。勝利に向けて会場と一体になった感覚だった」とシナー。「会場全体がどちらか一方の選手の味方についていると、相手にとってはすごくやりづらい。だから、今日の勝利は観客のおかげだよ」

ピアッティは「私もイタリア人で、コーチとして6回ファイナルズに参加したことがある。今回は13歳くらいの時から指導してきたイタリア人選手とともに、ここイタリアのトリノで開催される大会に参加することができて感無量だ。会場の雰囲気は最高だったよ」と語り、その日は興奮のあまりほとんど眠れなかったという。

シナーは次の試合で第1シードのダニール・メドベージェフ(ロシア)に0-6、7-6(5)、6-7(8)で敗れたが、悔しさを滲ませながらも冷静に今シーズンを振り返っている。

「今年はすごく良い一年だった。たくさんの成功を収めることができたし、特にここでプレーできて最高の気分だよ。選手としても人としても成長できたと思う。それは僕にとってすごく大切なことなんだ。周りが僕にどれだけ期待していたかはわからないけど、シーズン初めは37位くらいだったところからトップ10で終えることができて僕は満足している。素晴らしい選手たちの仲間入りができて嬉しいよ」

「その一方で、改善が必要な部分は僕もチームもよくわかっている。だから、来年も楽しみだよ。でも一番大事なのは焦らないこと。僕はまだ20歳で来年は21歳。まだまだ何年もツアーに参加できるからね」

理想的とは言えない形でのファイナルズ出場ではあったが、母国の観客の前でシナーは大役を見事に果たした。来年の彼からも目が離せない。

(テニスデイリー編集部)

※写真は「Nitto ATPファイナルズ」でのシナー

(Photo by Giampiero Sposito/Getty Images)