国内サイクルロードレースのプロリーグ「三菱地所 JCL プロロードレースツアー」の最終戦「那須塩原クリテリウム」が11月7日、那須塩原駅西口駅前通り特設コースで開催された。東北新幹線も停まるJR那須塩原駅前の大通りを大胆に交通封鎖して行われ…

国内サイクルロードレースのプロリーグ「三菱地所 JCL プロロードレースツアー」の最終戦「那須塩原クリテリウム」が11月7日、那須塩原駅西口駅前通り特設コースで開催された。東北新幹線も停まるJR那須塩原駅前の大通りを大胆に交通封鎖して行われるレースだ。このコースを使用するレースとしては、2年ぶりの開催。新型コロナウイルスの感染が落ち着き、観戦が許可された高揚感もあり、この時を待ちわびてきた多くのサポーターたちが会場に駆けつけた。



減速と加速を強いられる三箇所のUターンカーブが、選手たちの体力を削っていく

コースは、カタカナの「ト」の字形に作られた1.8kmの周回路を使用する。スタートゴールも設定された駅に向かうストレートは、スピードに乗せて走る区間となり、駅前でUターンした後は、短いストレートから、再び長いストレートに入るまで、コーナー、Uターン、コーナー、Uターンとコーナリングを繰り返すテクニカル区間となる。このテクニカル区間通過時には避けられないスピードのアップダウンの影響が集団の後方では、特に大きくなり、疲弊しやすい。ペースが上がってくるほどに、この影響は大きくなり、消耗されていく。脱落する選手が続き、人数が絞り込まれて、厳しい展開のレースになることが通例なのだという。



リーダージャージの選手たちを先頭にスタートラインに並ぶ選手たち

スタートラインには、前戦で今年度の個人総合優勝を確定させた山本大喜(キナンサイクリングチーム)が、その証であるイエロージャージを着て先頭に立った。隣には同じく山岳賞を確定させた実兄の山本元喜がレッドジャージ(キナンサイクリングチーム)姿で立つ。このレースで決定するスプリント賞のブルージャージは、地元宇都宮の小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)が、U23首位のホワイトジャージを宇賀 隆貴(チーム右京 相模原)が着用し、同じくスタートの最前列に並んだ。
那須塩原市の渡辺美知太郎市長がスターターを務め、最終戦がスタートした。この日は、特設コースを25周する45kmの設定だ。

序盤から、さまざまな選手がアタックを仕掛け、集団からの抜け出しを狙ってきた。だが、次々と選手が飛び出しては、すぐにハイペースの集団に捕らえられる、というめまぐるしい展開が続いた。集団内の動きは非常に活発ながら、そこから抜け出しを決められる選手が現れず、大集団のままでの展開が続く。



声を出さずに応援する観客たちに見守られ、大集団が走りすぎる



応援の代わりに、フラッグや横断幕を掲げるサポーターたち

地元である那須ブラーゼンにとっては、負けられない戦いだ。集団前方に位置し、積極的な動きを見せ、チームのフラッグを掲げるサポーターたちを沸かせていた。



前方で積極的に仕掛ける那須ブラーゼンの選手たち

このレースには、スプリントポイントが設定されており、最初のスプリント賞は黒枝咲哉(スパークルおおいたレーシングチーム)が獲得した。これを機に集団に変化が起きるかと思われたが、集団は崩れず、大集団のままレースが進んでいく。
近隣から足を運んだ地元住民の方々も多く、大きな集団が高速で大通りを走り抜ける迫力ある光景に、みな笑顔で拍手をし、観戦を楽しんでいた。



地域のまさに老若男女がコース沿道に並び観戦した。自宅前でレースが展開されるとは、貴重な経験だったろう



前半は集団のまま推移した

折り返しを越え、後半に差し掛かった頃、集団の中で変化が生まれた。二人のリーダージャージを抱えるキナンサイクリングチームのメンバーが全員前方に上がってきたのだ。前方に隊列を組み、チームは集団のコントロールを始めた。



前方に集結し、集団を牽引、レースのコントロールを始めたキナンサイクリングチーム。後ろにはチームごとにまとまって走る選手たちが続く

実力者が前を固め、ハイペースで集団を牽引すると、集団から飛び出す選手は皆無となったが、逆に堪えられなくなった後方の選手たちが、ボロボロと脱落していった。
キナンサイクリングチームは、スプリント力のある中島康晴(キナンサイクリングチーム)で勝負する作戦。中島以外の5名はアシストに回り、リーダージャージを着る2名もこの動きに加わり、全力で集団を牽引した。この牽引の中で、2回目のスプリント賞は山本大喜が先頭で通過して獲得している。



リーダージャージを着る山本兄弟もアシスト役に回り、集団の牽引を担った



ストレート区間を牽くことが多かった山本大喜(キナンサイクリングチーム)。スプリントポイントを先頭通過し、2回のスプリント賞を獲得した

集団内はキナンの白いジャージを先頭に、主力チームがチームごとに固まり、チーム内で協議しながら最終局面に備え始めていた。キナンの6名のすぐ後ろには、スプリンターたちで構成されているスパークルおおいたサイクリングチームのメンバーが、がっちりと固める。脚力を使わずして好位置に構え、最後のゴール勝負に備えられる。おおいたにとっては非常に好ましい展開だ。その後ろには、黒いジャージのチーム右京相模原のメンバーが位置した。実力のあるチームながら、今季、勝利を上げられておらず、悲願の一勝に向けて走る。後ろには声援を受けて走る地元宇都宮ブリッツェンの赤いジャージが並んだ。

位置取りは、最前列は大きく消耗されるものの、当然前方に位置した方がゴール勝負には有利である。それも、もちろん実力があってのもの。チーム力が及ばないチームは、スピードの上げ下げで消耗され、ゴールも狙いにくい不利な後方に追いやられ、苦しい展開を強いられることになる。

3回目のスプリント賞がかかる15周回目を前に、メイン集団後方で集団が千切れてしまい、なんと地元の那須ブラーゼンがこの影響で集団前方から分断されてしまった。この展開の中で、後方集団に落ちることは、レース終了を意味する。前週に開催されたしおやクリテリウムの覇者、金子大介(那須ブラーゼン)は大きな期待を受けていたが、遅れてリタイヤとなってしまった。

集団前方に残ることができたのは、主力4チームと、U23首位のホワイトジャージ奪取を狙うランキング2位の本多晴飛(VC 福岡)のみ。残りのレースを走るのは20名ほどとなった。



キナンの白いジャージを先頭に、ネイビーのおおいた、黒い右京、赤い宇都宮ブリッツェンと、最後尾に本多晴飛(VC 福岡)が並ぶ。すでに集団の人数は大きく絞り込まれていた

3回目のスプリント賞は、またもや牽引を行う中で山本大喜が先頭通過して獲得。ハイペースの集団からは、さらに数名が脱落し、16名にまで絞り込まれていた。



最終周回に入り、スパークルおおいたのメンバーが前方に迫り出してきた。本格的なゴール勝負の始まりだ

最終周回に入ると、キナンの後ろにぴったりとつけていたスパークルおおいたが、一気に前方に上がってきた。その後方に位置していた宇都宮ブリッツェンも、タイムトライアルの全日本を連覇した増田成幸(宇都宮ブリッツェン)が引き上げ、前方に上がってくる。宇都宮ブリッツェンは小野寺で勝負する算段だ。小野寺はクリテリウムに強みを持ち、過去に多くの勝利を上げている。



前方に上がり、全力で集団を牽引するスパークルおおいた。ひときわ長身の沢田桂太郎(スパークルおおいたレーシングチーム)はベストポジションを確保し、ゴール勝負に備える

主力チーム間のゴールスプリントに向けての駆け引きが始まった。

最終コーナーは小石祐馬(チーム右京相模原)が先頭で回った。だが、ラスト300mのメインストレートは孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)が先頭に立って、集団をトップスピードまで加速する。孫崎の後ろには、キナンの中島が付き、その後ろに孫崎が引き上げる沢田桂太郎(スパークルおおいたレーシングチーム)、さらには、地元栃木の小野寺が続く。

最初に仕掛けたのは小野寺だった。ラスト200mでスプリントを開始した小野寺に合わせ、沢田もスプリントに入った。中島も応じ、3名のゴールスプリントが展開された。沢田が長身から繰り出すパワフルなスプリントに及べるものはおらず、沢田が競り勝ち、トップでフィニッシュラインを越えた。沢田にとって、JCLでは第4戦以来、2回目の勝利となった。



スプリントに競り勝った沢田。勝利をお膳立てしたチームメイトたちもガッツポーズで喜ぶ



優勝した沢田、2位の小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)、3位の中島康晴(キナンサイクリングチーム)の表彰。これほど大きな拍手を受ける表彰式は久しぶりだ



多くのサポーターが集まった表彰式。フィジカルディスタンスを確保して、拍手で健闘を讃えた

表彰式は、フィジカルディスタンスを確保するよう要請されながらも、多くの観客を集めての華やかなものとなった。

沢田は笑顔で喜びを語り、「最初から最後までチームがしっかりと機能してくれた」と勝因を振り返る。集団をコントロールするキナンサイクリングチームのおかげで、その後ろでチームがまとまり、それぞれの役割を果たし、勝利への道筋をつけることができたという。「チームメイトがいるのは心強い」と語る沢田。本年設立されたチームだが、初年度からコロナ禍に巻き込まれ、厳しい一年であっただろう。その中でも、チームの中の絆を強め、この新リーグでも2勝を挙げたことは、賞賛に値すると言えよう。
2位となった小野寺は、「チームメイトがレースの中で消耗されてしまい、最後は隙を狙い、自力で勝負するしかなかった」と、この日の展開を振り返った。このレースまで互いの落車などのトラブルが多く、意外なことにも、沢田選手とのスプリンター対決に臨んだのは、このレースが初めてだったという。「沢田選手は脚を残して(=戦える脚力を残して)いて、僕は脚を残していなかったので負けてしまった」と悔しさをにじませた。ブルージャージに関しても「チームで戦った結果、得たもの」とした上で「リーグ初めての年に、リーダージャージを獲得でき、嬉しい」と語った。



イエロージャージの山本大喜、レッドジャージの山本元喜、ブルージャージの小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)、ホワイトジャージの宇賀隆貴(チーム右京 相模原)

リーダージャージは、山本大喜(キナンサイクリングチーム)に確定していた個人総合首位のイエロージャージ、山本元喜(キナンサイクリングチーム)の山岳賞のレッドジャージに加え、スプリント賞のブルージャージは、自ら2位で表彰台に立った小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)が確定させた。最も接戦になっていたU23首位のホワイトジャージは、本多も単騎で善戦し、5位に入ったものの、ポイント合計で宇賀隆貴(チーム右京 相模原)が手中に収めることになった。

チームランキングでは、リーグ4勝を挙げた宇都宮ブリッツェンが首位となった。



年間の優勝チームとなった宇都宮ブリッツェン

このレースを最後に、今年度初めて誕生したJCLプロロードレースツアー2021は閉幕した。今年は1月から国全体が新型コロナウイルスの感染拡大に悩まされ、レース等の開催も見えず、リーグやチームのフロントだけでなく、参戦できるレースが見えなかった選手たちにとっても、非常に厳しい年であった。最後の3戦は、レース開催数がコロナ禍で激減したことを受け、栃木エリアと協議し、地元が開催に向けて奔走し、急遽開催が叶ったものだという。この最終戦には、およそ2000人もの観客が集まった。厳しい中でも、可能な開催や広報を模索し、質の高い映像の生配信を行い、リーグに多くのファンを獲得してきた証明とも言えるだろう。



応援するサポーターたちと那須地域の組織の係員(NASAポロシャツ)。地域の方々が集結し、立哨や誘導などの役割を担い、急遽設定されたレースの開催を支えた



シャンパンファイトならぬ、那須特産の牛乳カンパイで健闘を称えあう。地域特性を活かした演出もおもしろい

レースを通じ、地域の美しい景観が配信されるとともに、地域の企業、店舗などが冠スポンサーとなった地元特別表彰などを通じ、その土地の様子が垣間見られて、観戦と同時に、その土地を楽しむことができた。
JCLは、来シーズンも「地方創生」をキーワードに、開催地と手を取り合い、サイクルロードレースを使った地域活性化を進めることを目標とし、同時に世界基準となるチームや選手の輩出を進めていきたいと語る。
2年目となる来季はリアルのレース開催が叶うことだろう。サイクルロードレースの開催から、どのような展開が望めるのだろうか。プロリーグJCLの挑戦に期待がかかる。

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【結果】那須塩原クリテリウム 45km 平均速度41.79km/h
1位/沢田桂太郎(スパークルおおいたレーシングチーム)1:04’35”
2位/小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)
3位/中島康晴(キナンサイクリングチーム)+0’01”
4位/石原 悠希(チーム右京相模原)+0’01”
5位/本多晴飛 (VC福岡)+0’01”
6位/孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム) +0’01”

◆各賞リーダージャージ(確定)
【イエロージャージ(個人ランキングトップ)】
山本大喜 (キナンサイクリングチーム)

【ブルージャージ(スプリント賞)】
小野寺玲 (宇都宮ブリッツェン)

【レッドジャージ(山岳賞)】
山本元喜 (キナンサイクリングチーム)

【ホワイトジャージ(新人賞)】
宇賀隆貴 (チーム右京 相模原)

【チーム総合優勝】
宇都宮ブリッツェン

【地元特別表彰】
敢闘賞 本多晴飛(VC福岡)

【スプリント賞】
黒枝咲哉(スパークルおおいたレーシングチーム)
山本大喜(キナンサイクリングチーム)

画像:JCLロードレースツアー(株式会社ジャパンサイクルリーグ)、編集部

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