「心理カウンセラー×アスリート」の対談で「心のマネジメント」についてひもとく連載の第3回目。今回も臨床心理士・公認心理師としてこれまでも様々な悩みを抱える人をカウンセリングしてきた心理カウンセラーの塚越友子氏と埼玉パナソニック…

 「心理カウンセラー×アスリート」の対談で「心のマネジメント」についてひもとく連載の第3回目。今回も臨床心理士・公認心理師としてこれまでも様々な悩みを抱える人をカウンセリングしてきた心理カウンセラーの塚越友子氏と埼玉パナソニックワイルドナイツに所属する藤田慶和選手でお届けする。今回は「自分のためから人のために」とマインドセットが変わったという藤田選手の分岐点、そして日々試合に挑む上での「準備の大切さ」について紹介する。

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自分だけのためにやっていたこれまでは、無意識のうちに妥協があった。今は人のために、プレーに責任を


塚越 前回はメンタルの整え方は人それぞれでいいというお話を聞かせていただきました。また藤田選手が「分岐点になった」というマインドセットの瞬間があれば、教えていただけますか?

藤田 プロ2年目くらいの時にそれまでは『なんのためにラグビーをやっているの?』と聞かれると『もちろん自分のためにやっています』という風に言っていました。自分のために頑張って自分のために努力していた。ただ、とある人にその話をした時に、『だから力が出ないんだ』と言われたんです。確かにプロ2年目の時はリオ五輪に落選した次の年でなかなか思うような結果を出せなかったり、自分の思うようにいかなくてすごく悩んでいたんです。その時にその人から『応援してくれている人が沢山いるんだから、人のために何かできるようにしなさい』という風に言われ、そこからプレー面だけでなく、人間的にもかなり成長できたと思っています。結果として、その話を聞いてすぐ、15人制日本代表に選ばれたりとか、世界選抜で活躍できたりということはありましたね。

塚越 その時ご自身の中で、具体的にはどのように行動が変わっていたと思いますか?

藤田 まず、僕のアスリートとしての目標として、子供たちに夢や目標を与えたいというのがあります。それまでは口にしていただけで、実際に何か行動していたかというと何もしていませんでした。ただその言葉があってから何か子供たちのために動きたいなと思い、チーム関係者の方が子供たちへの活動をしていたこともあり、近くの子供たちと触れ合ったり、運動教室のお手伝いを行いました。

塚越 実際に動かれて試合のパフォーマンスに結びついたと感じられたことはあったんでしょうか?

藤田 当時僕が触れ合っていた子供たちって、正直ラグビーのことをほとんど知らない子たちばかりだったんです。しかし、プロ選手の僕がそこへいくことで、まずラグビーを知ってもらえる。『このお兄ちゃんラグビーしているんだ』と興味を持って、練習試合とか見にきてくれるんですよ。そこから、今度は試合を見にいきたいと言ってくれて、僕がチケットを取り、子供たちの家族含めて招待をしました。その試合で、子供たちの声援があったおかげでパワーをもらえましたし、プレーもよくなっていって、そこから一段階上へ行けたなという感じはありました。それは一つ自分の中ではマインドリセットのきっかけだったのかなと思いますね。

塚越 以前は結果を出せずモヤモヤしていたところを『人のために』とマインドリセットしたことで吹っ切れたとのこと、ちなみにこのモヤモヤの正体とはどのようなものだったとお考えですか?

藤田 今までは自分だけのためにやっていたので、無意識のうちに妥協があったのかなと思います。ただ、子供たちが見ているから下手なプレーができないとか、僕が活躍すれば子供たちは、「あの人知ってるんだよ」って周りに言えるんだよなという気持ちにもなれました。なので、プレーに責任を持ったというか、意識の面で変わったのかなと思います。

塚越 なるほどマインドリセットには『責任』というのも一つキーワードになったんですね。

藤田 ラグビーも3年前に7人制に移行して東京五輪を目指したんですが、責任という部分では、今までは18歳の時から日本代表に選んでいただいていたものの、正直、上の人についていくだけといった本当に典型的な若手といった感じでした。グラウンドでパフォーマンスを出して、リーダー格の人が引っ張っていってくれるみたいな。ただここ3年で、初めて日本代表内で「中堅」という立場になって、ポジション柄、司令塔という形でチームをゲーム中にマネジメントしないといけないなどの役割も加わり、ゲーム外でも色々な人とコミュニケーションを取らないといけないという立場になりました。立場が変わったことですごくプレーに責任を持つようになったなと思いますね。

塚越 「自分1人のために頑張る」ことで成果を出してきたときと、その次の段階として、チームやファンを意識して「みんなのために頑張る」という二つの時期を経てプレーも変わっていったということですね。

試合の結果は試合までの準備で8割決まる。スポーツ選手にとって1番怖いのは「なんとなく勝てた」こと

塚越 そしてメンタルトレーニングについても話を聞かせてください、日本代表時には、荒木(香織)さんを中心にチームのメントレもありましたね。東京五輪ではどのような取り組みでしたか?

藤田 今回の東京五輪の時も、メンタルコーチがいて、色々話し込みました。まだ僕は波がある選手なので、その波をなくすためにどうしていくかという話をした時に、ミスをすると自分のプレーに影響するところがありました。そこで試合中にミスを引きずらないようにするという部分で僕の中で「ネクスト」というキーワードを持って、ミスした時に自分がその言葉に沿ってミスを切り離し、平常心で次のプレーに臨めるようにしようというメンタルトレーニングを行いました。

塚越 試合中の気持ちの切り替えというところですね。

藤田 ミスを引きずったりとか、それによってどんどん自分で悪くしていっちゃうクセがあったので反省は後にして、一つ切り替えのためのキーワードを作っていました。

塚越 また大きな大会や試合に臨む時に、『準備段階』、『直前』、『試合中』、『試合後』と大きく時期が分けられると思うんですが、この中で藤田さんにとって心のマネジメントが1番重要だと思っていたり、力を入れている時期というのはどこになりますか?

藤田 やっぱり試合前の準備段階です。僕の中では、試合の結果は試合までの準備で8割決まると思っているんですよね。技術的な面、チームワーク的な面も含めて。ただメンタル面もしっかりと準備をして試合に臨めば僕の場合はあまり緊張することなく試合に入れますし、そこが1番重視しているところです。

塚越 話せる範囲でどんな準備をされているか教えていただけますか?

藤田 戦術面に関しては、まず自分が理解し、その上でチーム内での理解を深めていく。試合で一言言えばそれができるといったように完璧にしています。メンタル面でいうと、まずどういうスタジアムで試合をするのか、晴れならばこういうプレー、雨ならばこういうプレーでいこうといったことを考えるなど、色々な想定をしてメンタルを整えていますね。

塚越 イメージトレーニングを、毎日どのくらいやられているんでしょうか?

藤田 決まった時間にやるというよりは寝る前にイメージをしてみたりとか、あとは練習前に戦術をイメージしてみたりといった感じですね。あと、ラグビーの場合、結構形やサインが決まっていても、その選手のキャラクターによって、「もっとこうしたほうがいい」とか「こうして欲しい」といった要望が他の選手から出たりもします。その意味ではその選手やチームにとって1番ベストな状況を考えたり生み出したりすることって、多分グラウンド内外での話し合いの場が1番重要だと思うので、そこは試合前の準備段階でも大切にしてやっていますね。

塚越 事前に理解を深めることが試合当日に、チームやご自身の中でどのように作用されていると感じますか?

藤田 正直、どんなにいい準備をしても、試合になると失敗することもありますし、状況判断で動かないといけないこともあります。ただ、いい準備をしたという自信を持って試合に臨むのと、「あれどうするんだろう」という不安を持ったまま試合に臨むのでは相当違うと思います。それによって、試合時のプレーの精度も上がってくると思うので、そこが1番重要なのかなと思います。

塚越 その試合前の自信というのは、「これだけ準備した」「これだけイメトレした」というところになるんですか?

藤田 それができたからといって、結果が全て良いかと言われたらそうではないですけど、それをして負けるのとしなくて負けるのでは、後悔もあると思います。逆に、『ここまでして負けた』、じゃあ次はどうしたら良いんだろうというステップを踏めるんですけど、もしその準備をしなくて試合に臨んで大敗し、次どうするかとなった時に、試合前の準備がないとステップにならない。そこがすごく大切なのかなと思っています。

塚越 準備などやることをやらないで負けた場合には、プロセスも意味を失うのですごく辛いですよね。

藤田 やることをやらないでもし勝ったとしても、『なんで勝てたんだろう』という理由づけがあまりない。『なんとなく勝てた』というのが競技を行う上では一番怖くて、それが続くと自分のものにならないというか。なので、結果は結果でありつつも、そこまでのプロセスというものがどれだけ大切かというのを僕のラグビー人生の中では重要視しています。
 (次回は今夏の東京五輪に至るまでの藤田氏のマインドセットの方法についてさらに掘り下げます)

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

※健康、ダイエット、運動等の方法、メソッドに関しては、あくまでも取材対象者の個人的な意見、ノウハウで、必ず効果がある事を保証するものではありません。

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塚越友子(つかこし・ともこ)

過去に自身で仕事中にうつ病を発症した経緯から、働く人のカウンセリングに注目。2008年に東京中央カウンセリングを開業。社会学修士号(社会心理学)教育学修士号(臨床心理学)。公認心理師・臨床心理士・産業カウンセラー。

藤田慶和(ふじた・よしかず)

ラグビースクールの監督をしていた父の勧めで7歳から競技生活をスタート。名門・東福岡高校時代に頭角を現すと全国高校ラグビーで主力として3連覇を果たす。2015年ラグビーW杯ではチーム最年少出場、今夏の東京五輪では7人制ラグビー日本代表として戦った。埼玉パナソニックワイルドナイツ所属。