強豪国のカタールW杯(1)~ブラジル 来年の11月21日に開幕予定のカタールW杯。開催まで1年をきり、大会の出場権を手に…

強豪国のカタールW杯(1)~ブラジル

 来年の11月21日に開幕予定のカタールW杯。開催まで1年をきり、大会の出場権を手にしたチームのニュースも、世界各地から続々と寄せられている。そこで、大会1年前の強豪国の現在を紹介したい。

 まずはこれまでの優勝回数が5回を誇るブラジルから始めよう。これまでの栄光にたがわず、南米予選では圧倒的な強さを見せた。これで22大会連続のW杯出場となる。

 ブラジルは2位のアルゼンチンを6ポイント引き離し、6試合(うち1試合は未消化試合)を残した時点でW杯行きを決めた。南米予選では1番のり、世界では3番目の予選通過となる。これまで戦った13試合は無敗で11勝2引き分け。得点数27は南米予選最多で、失点4は最小だった。

 チッチ監督はすでにセレソン(ブラジル代表)を率いて5年目。ブラジル代表監督でこれほど長続きした監督を私は知らない。2年か3年でチームを去ることがほとんどだ。何度か解任や辞任の噂はあったものの、それを乗り越えここまできたのは、彼が常に周囲に対しリスペクトした行動をとるからだ。選手に対しても、スタッフに対しても、メディアに対しても、彼は常に礼儀正しく真摯に接する。

 2002年日韓W杯で優勝した時のフェリペ・スコラーリ監督が「チーム対その他」の構図を作って戦ったのとは真逆の戦法だ。そのためチーム内の空気は安定している。

 チームの中心であるネイマールは、セレソンでは王様であり、アンタッチャブルな存在だ。チッチはネイマールができるだけ気持ちよくプレーできるよう心がけていて、ネイマールは自分の脇に、自分がプレーしやすいような選手を望むことができる。サポーターとは軋轢があるが、少なくともチームメイトのなかでは彼は居心地がいいはずだ。



カタールが最後のW杯になるとも言われているブラジル代表のネイマール photo by AFP/ AFLO

 チーム内でのヒエラルキーが下がっているパリ・サンジェルマン(PSG)ではそうはいかない。セレソンはいまや彼の唯一の居場所となりつつもある。だからこそネイマールはここでは力を出すことができる。得点王争いでは7ゴールを決めており2位。W杯出場を決めたコロンビア戦では、決定的なアシストを見せた。

 もちろん、ネイマール以外にもヨーロッパのトップチームで活躍する選手は数多い。

 PSGのマルキーニョス、リバプールのファビーニョ、レアル・マドリードのカゼミーロ、バルセロナのフィリペ・コウチーニョ、マンチェスター・ユナイテッドのフレッジ......。みな20代後半の選手として最も脂ののった年代にある。

 特筆すべきはGKだ。今のブラジルには、プレミアリーグの強豪のゴールを守り、世界10指に入るGKが2人もいるのだ。リバプールのアリソン・ベッカーとマンチェスター・シティのエデルソン・モラレス。一応アリソンが正GKの形だが、どちらがゴールを守っても遜色はない。これはブラジルの大きな強みだろう。

 若い選手にもこと欠かない。ガブリエウ・ジェズス(マンチェスター・シティ)を筆頭に、ネイマールのお気に入りでもあるルーカス・パケタ(リヨン)。ブルーノ・ギマラエス(リヨン)、エデル・ミリトン、ヴィニシウス・ジュニオール(ともにレアル・マドリード)、ドウグラス・ルイス(アストン・ビラ)......彼らはみな24歳以下だ。

 それに加えて、東京オリンピックで金メダルを獲得した選手たちがこの秋から南米予選でA代表入りを果たしている。アントニー(アヤックス)、マテウス・クーニャ(アトレティコ・マドリード)、ギリェルメ・アラーナ(アトレティコ・ミネイロ)。もしかしたらブラジルはカタールで最も平均年齢の低いチームとなるかもしれない。

 だが実を言うと、ブラジル人はそんなセレソンに決して満足していない。安定した強さでカタール行きのチケットを手に入れたチームを、ブラジルの人々は全く違った角度から見ているのだ。

 ブラジル人は華麗なプレー"ジョゴ・ボニート"でなければ納得しない。セレソンの選手たちは勝つだけでなく、ワクワクさせてくれるサッカーを見せて彼らを満足させることが求められる。試合を完璧には支配することができず、夢を見させてくれない代表チームに、サポーターは不満の色を隠せない。予選13試合中、ブラジル人が満足してたのは、4-1で勝利したウルグアイ戦だけだった。

 それにブラジル人は、このセレソンが圧倒的に強いのではなく、他の南米のチームが弱くなっているからではないのかと疑っている。南米の王様は井の中の蛙で、ヨーロッパの強豪国と対戦したならボロ負けしてしまうのではないか。そんな心配がつきまとっている。現にブラジルが唯一いいプレーを見せた南米の古豪ウルグアイは、ボリビアに3-0で大敗した。

 若手選手の急激な台頭も両刃の剣だ。東京五輪で金メダルをとったおかげで、チッチはこれまで構想に入っていなかった若手選手をチームに入れざるを得なくなった。最終的なメンバーが決定するまで熾烈なレギュラー争いが繰り広げられ、チーム内の空気も落ち着かないものとなるだろう。もし多くの若手がチッチを納得させ、本大会に出場したとしても、彼らはW杯でプレーした経験がない。同じ国際試合でも五輪とW杯はまるで別物だ。

 ブラジル人の一番の弱みは情に流されやすいことにある。一度ネガティブな思いを抱いてしまうと、なかなかそれを払拭することができない。サウダージ(望郷の思い)のために国外のチームでいいプレーができなくなったり、ブラジルW杯でドイツに7-1と大敗を喫したりしたのも、すべてはその気持ちの弱さのためだ。W杯というプレッシャーのなかで、どれだけメンタルを強く保てるかは、セレソンにとって大きな課題となる。

 そのためにはチームにしっかりとした精神的な主柱が必要だが、チームの中心はネイマールだ。来年の2月には30歳になるが、彼がいかにメンタル的に弱いかは、これまで世界中が何度も見てきたことだろう。

 つまり、他の国の人が思うほど、ブラジル人はカタールW杯を楽観視することができないのだ。