25年ぶりにパ・リーグを制したオリックスと、6年ぶりにセ・リーグ優勝を果たしたヤクルトが11月20日、日本シリーズ初戦…

 25年ぶりにパ・リーグを制したオリックスと、6年ぶりにセ・リーグ優勝を果たしたヤクルトが11月20日、日本シリーズ初戦で対戦。山本由伸、奥川恭伸の両先発による投手戦となったなか、ヤクルトは6回表、中村悠平のセンター前タイムリーで先制。7回裏に代打モヤの本塁打で追いつかれたが、直後の8回表、村上宗隆のツーランで勝ち越した。しかしヤクルトは9回裏、クローザーのマクガフが無死満塁から宗佑磨に2点タイムリーを打たれて3対3の同点にされると、続く吉田正尚にセンターオーバーのタイムリーを打たれてサヨナラ負けを喫した。勝敗を分けたポイントはどこにあったのか。ヤクルトの現役時代に3度の日本一の経験がある秦真司氏に聞いた。



日本シリーズ第1戦は吉田正尚のサヨナラ安打でオリックスが劇的な勝利を挙げた

 最後に逆転で決着しましたが、ゲームプランとしてはヤクルトの思いどおりに進んでいたと思います。「対山本由伸」ということで、そんなに点を取れないと考えたのでしょう。そこで何とか接戦に持ち込むために、試合前半はあまり積極的に打ちにいかず、粘って球数を投げさせました。

 山本は5回までに95球。このイニングまでに8つの三振を奪った一方、3ボール2ストライクまで粘られることも多く、打者を抑えるのに苦労させられているように感じました。それでも力がある投手なので無失点に抑えていきますが、ヤクルトの粘りがボディブローのように効いてきて、6回、中村のセンター前で1点を先に与えてしまいました。

 対して奥川は、序盤こそ毎回ピンチを背負いましたが、よく粘って投げました。徐々に立ち直っていき、オリックス打線は捉えきれませんでした。

 プランどおりに進めたヤクルトは、7回裏にモヤのホームランで同点にされましたが、直後の8回に村上のツーランでリードします。勝ち越したことで、清水(昇)、マクガフの必勝パターンに持ち込めた。それが最終回、思わぬ落とし穴が待っています。

 先頭打者の紅林(弘太郎)にヒットを打たれたのは仕方ないとしても、続く代打ジョーンズのフォアボールは出してはいけないものでした。

 マクガフのボールがストライクゾーンに1球も来ていないなか、ジョーンズは2球目のカットボール、3球目のスプリットを空振りします。結果として3球で追い込み、バッテリーとしては、ボール球を振らせて三振、もしくはゴロゾーンでアウトを取れたらラッキーという狙いだったと思います。

 でも目論見どおりにいかなかったのは、ジョーンズは追い込まれたあと、空振りした球と同じような軌道のボールを振ってこなかったことです。打ちたい気持ちを抑え、しっかりボールを見極めた。

 個人的には「最悪ホームランでもいい」という気持ちで攻めてほしい場面でした。仮にホームランを打たれたとしても、「同点になって仕切り直し」と気持ちを切り替えることができます。

 逆に、一番嫌なのはフォアボール。ここで歩かせると3番の吉田まで回ってきますし、オリックスとしては「いけるぞ」という雰囲気になる。だからこそ、ストライクゾーンで勝負したいところでしたが、マクガフは投げきれる精神状態ではなかったように感じました。メジャーで超一流だったアダム・ジョーンズを迎え、気持ちが引けてしまったのかもしれません。「打たれてもいいから攻めていく」ではなく、なんとかボール球を振らせたいという気持ちがフォアボールにつながってしまったように思えました。それがヤクルトとすれば、残念な結果につながってしまいました。

 そうした状況で、福田(周平)のバントをマクガフとサードの村上で投内連携のミスが出ます(記録は野選)。逆にあのバントがサードで封殺されていたら、流れがまったく変わったはずです。1アウト1、2塁なら、打席の宗にもプレッシャーがかかりますから。

 でも実際は無死満塁となり、宗の2点タイムリーで3対3の同点になります。そして、吉田のサヨナラタイムリーでオリックスが逆転勝利を飾りました。オリックスはビハインドから逆転したことを考えると、チームのムードはかなり高まったと思います。

 ヤクルトにとってはショックが大きすぎる負けなので、どこまで切り替えられるかが大事になります。明るい材料としては、各打者は追い込まれてからの粘りがすごくて、打線のつながりとしてはオリックスよりいい状態だと感じました。成長株の塩見(泰隆)、山田(哲人)、村上、サンタナ、オスナの両外国人など、打線の奮起に期待したいところです。

 投手陣は、とにかく強い気持ちで勝負していくこと。今年、奥川や高橋奎二がよくなったのは、1、2球目のストライク率が上がったということです。おそらく高津(臣吾)監督と伊藤(智仁)投手コーチが、大胆に攻めていくことをかなり指導してきたと思います。

 もう一度ピッチングの原点に帰り、1、2球目からストライクをとりにいく。そして3球目までに1ボール2ストライクというカウントをつくる。そのために必要な要素としては、技術、メカニック、気持ちがありますが、今から修正できるのは気持ちの部分です。「俺たちはセ・リーグで優勝したんだ」と気持ちを奮い立たせて、2戦目以降に臨んでほしいと思います。