左膝半月板の手術から1年2ヵ月、その間に46歳になった伊達公子がまたコートに戻って来た。信じられないことだが、本当に、戻って来たのだ。 「まだやり終えたという思いがなかったので、もう一度コートに立つことしか選択肢はなかった」 …

 左膝半月板の手術から1年2ヵ月、その間に46歳になった伊達公子がまたコートに戻って来た。信じられないことだが、本当に、戻って来たのだ。

 「まだやり終えたという思いがなかったので、もう一度コートに立つことしか選択肢はなかった」

 最後の公でのプレーは昨年1月の全豪オープン予選。その1回戦で敗れ、翌月手術に踏み切った。長いリハビリを経て、5月第1週に岐阜で開催される「カンガルーカップ国際女子オープンテニス」での公式戦復帰を予定している。それに先駆け、「より試合に近い状況での実戦が必要」という考えから4月12日、愛媛県松山市でエキシビションマッチ「伊予銀行 CHALLENGE MATCH」を実施した。

 対戦相手は世界ランク77位の日比野菜緒(LuLuLun)。先週、メキシコのモントレーでダブルスのツアー初優勝を果たし、昨日帰国したばかりだったが、長旅の疲れも見せなかった。

 「伊達さんのリハビリの過程をずっと見ていたので、復帰されると聞いてとてもうれしく思いました。ぜひやらせていただきたいと思った」

 1000人の地元ファンが足を運び、集まったテレビカメラは20台以上。重ねて言うが、愛媛である。元世界4位の“再々挑戦”への注目度は高かった。

 ポニーテールの長さと、色白になった肌が、1年以上の時の経過を物語っていた。アスリートにとってその時間がどれほど長いか。その時間をどれほどの鍛錬と葛藤の中で過ごしたかは、この日の伊達のプレーからある程度は想像することができた。

 試合はツアーのルール通りの3セットマッチで行われた。実は、練習で1セットはプレーしたことがあるが、2セットを連続で戦ったのは初めてだったという。

 第1セット、昔からリターンが得意だった伊達らしく2度ブレークに成功したが、自分のサービスゲームを一度もキープできず、6-2で日比野。それでも、速いテンポのストローク、ラインの上をなぞるようなウィナー、果敢にネットに出る姿勢など、随所に「伊達」を見ることができた。

 第2セットは第3、第4ゲームとブレークし合い、第8ゲームをブレークして5-3とした日比野がサービング・フォー・ザ・マッチを迎える。40-15でダブルマッチポイントを握ったが、ここでこのゲーム2度目のダブルフォールトをおかして30-40。伊達がラリー戦を制してデュースとし、さらに2ポイントを得てブレークバックに成功した。

 第11ゲームをブレークして逆にサービング・フォー・ザ・セットとした伊達だが、ここを落としてタイブレークの末に結局ストレートセットで敗れた。

 「正直な感想は、『まだまだだな』ってことです。スタミナ、スピード、ショットの精度…。必要なことは見えてきた。とにかく今日を終えないと次はなかったので、不安もある中、こうして無事に終えることができて何よりうれしい」

 課題が見えたことさえも喜びであるかのようだった。次は岐阜。そのあとのことは「これを踏まえて、体の状況も見ながら考えていきたい」と話した。一つ確かに言えることは、たとえおぼろげだとしても伊達の見ているゴールはまだずっと先にあるということだ。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)