NHK杯で2位となり、自身初めてのGPシリーズ表彰台に立った河辺愛菜 11月11日、グランプリ(GP)シリーズ第4戦、NHK杯前日練習後のリモート会見で、河辺愛菜(17歳、木下アカデミー)はその心境を口にしている。全日本女王である紀平梨花の…



NHK杯で2位となり、自身初めてのGPシリーズ表彰台に立った河辺愛菜

 11月11日、グランプリ(GP)シリーズ第4戦、NHK杯前日練習後のリモート会見で、河辺愛菜(17歳、木下アカデミー)はその心境を口にしている。全日本女王である紀平梨花のケガで急遽、決まったGP出場。決して簡単な挑戦ではなかったはずだが......。

 河辺はトータル205.44点を記録し、2位という結果を残している。単なる代役以上の殊勲。巡ってきた運をものにするのも実力だ。

「シニアでの国際大会の経験が少ないなか、チャンスが回ってきただけでもありがたくて。大きな舞台で緊張もありましたが、落ち着いて演技できたのは自信になります。今回の結果が、少しでも(北京)オリンピックにつながったらうれしいです」

 河辺は控え目に野心を語っている。

 女子シングルは、北京五輪出場をかけた争いが熾烈さを増してきた。3人の枠は紀平、坂本花織が一歩リードも、三原舞依、宮原知子、樋口新葉、松生理乃が追走し、風雲急を告げる。年末の全日本選手権が天王山になるだろう。

 群雄割拠、17歳の少女が名乗りを上げた。



NHK杯SPの河辺。トリプルアクセルを成功させた

「トリプルアクセルは(練習で)近くで跳んでいるのが梨花ちゃんなので。その練習を参考に、自分もこんなジャンプがしたい、と思いながらやっています」

 2019年11月当時、中学3年だった河辺は甘い声で懸命に思い言葉にする姿が印象的だった。

「アクセルは最初怖かったですが、だんだん怖くなくなってきています。でもシニアのトップ選手を見ていると、もっと確率を上げないといけないな、と。練習では絶対に成功できるようにしたいです」

 河辺はセンスだけに頼らず、常に上を見て、技を磨いてきた。その甲斐あって、わずか2年で確実に成長。トリプルアクセルは力強い武器になりつつある。最近はバックアウトが長すぎ、バラバラだった踏みきりを早めに飛ぶことを意識し、成功感覚は高まったという。

「今シーズンはトリプルアクセルに挑戦していきたいです。たとえ調子が悪くても入れたい」

 河辺は五輪シーズンの意気込みを語り、強固な意思が見えた。

 GP初戦のスケートカナダで、その一端を見せている。ショートプログラム(SP)でトリプルアクセルを失敗し、そのあとのコンビネーションジャンプにも引きずった。弱気になってもおかしくなかったが、フリーもひるまずトリプルアクセルに挑み、見事な成功で大きく巻き返した。難しいジャンプに挑みながら、演技全体のレベルアップを図っているのだ。

 大観衆のNHK杯でも、彼女は物怖じしていない。SPではビバルディの「四季」より『冬』を使用曲に、風の声を聴くような静ひつな予兆が漂うなか、冒頭のトリプルアクセルを完璧に着氷。度胸のよさを感じさせた。

「すごく緊張していたんですが、落ち着いてできました。トリプルアクセルは6分間練習で感覚が合っていたので、自信を持っていけました。降りた瞬間は、安心感が強かった。アクセルは目標だったけれど、それだけにとらわれないようにしてやってきました」

 その後、彼女は3回転ルッツ+3回転トーループの大技も気をゆるめずに決めている。SPは73.88点と自己ベストを8点以上も更新し、2位に入った。

 そして翌日のフリースケーティング、河辺は「成熟」を見せている。

 パープルとピンクの濃淡にシルバーのストーンがちりばめられたゴージャスな衣装で『ミラクル』をたおやかに滑った。冒頭のトリプルアクセルは失敗したが、そのあとに気持ちが落ちていない。3回転ルッツ+3回転トーループを成功させ、次々にジャンプを決めた。ダブルアクセル+3回転トーループ+2回転トーループでは、リンクサイドでコーチが跳び上がって喜ぶほどの出来だった。

 折れない心でリカバリーし、フリーは131.56点と4位。トータルで3位と1点台の差で2位に滑り込んだ。

「カナダではショートから切り替えて、フリーでの滑りが自信になって。今回のNHK杯はショートからアクセルは成功できましたが、ショートでできたぶんだけ、フリーも絶対という気持ちが不安とかになったのかな、と。ただ、アクセルを失敗したあとに落ち着いて滑れたことは自信になると思います。合計点で自己ベストを出せたのはとてもうれしい」

 そう語る河辺にとって、トリプルアクセルは羽ばたくための旋回軸なのだろう。

「試合でアクセルを決められる確率は、少しずつ上がってきていると思います。でもアクセルなどジャンプだけでなく、スピン、ステップももっとうまくなり、表現の面も出せるようにしたいです。全日本で完璧な演技ができるように頑張っていきたい」

 すべては全日本選手権のためにーー。浅田真央、紀平が代名詞にしてきたトリプルアクセルを継承することで、五輪出場もにわかに現実味を帯びる。決戦の日まで、少女は研鑽(けんさん)を積む。