国内サイクルロードレースのプロリーグ「三菱地所JCLプロロードレースツアー」の最終2戦が11月6日・7日に、栃木県内で開催された。連戦の1日目である6日には、大田原市を舞台にした第9戦「大田原ロードレース」。新型コロナウイルスの感染状況が落…

国内サイクルロードレースのプロリーグ「三菱地所JCLプロロードレースツアー」の最終2戦が11月6日・7日に、栃木県内で開催された。
連戦の1日目である6日には、大田原市を舞台にした第9戦「大田原ロードレース」。新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いたことを受け、ルールを定めて観客の観戦を許可しての開催となった。栃木県には宇都宮ブリッツェンと那須ブラーゼンという地域密着型のチームが2つ定着しており、ロードレース文化も生まれつつある。チームのウェアを着用し、横断幕やノボリを持って集まった地元のサポーターが多く訪れ、久方振りの華やかなレースとなった。

この日のレースは大田原市湯津上支所をスタートゴールとし、付近の美しい田園地帯や自然の中を走る7.74kmの特設周回コースで競われた。距離はこのコースを15周回する116.1km。目立った上り区間はなく、平坦基調ではあるが、狭い農道も組み込まれ、道幅の変化もある。集団にとっては、難しいポイントもあり、スピードが上がると厳しい展開になりうるコースと評された。



リーダージャージを最前列にスタートラインに並ぶ選手たち

スタートラインには、個人総合首位の証であるイエロージャージを着た山本大喜(キナンサイクリングチーム)、U23首位のホワイトジャージの宇賀隆貴 (チーム右京相模原)、山岳賞のレッドジャージ姿の山本元喜(キナンサイクリングチーム)、ブルーのポイント賞ジャージを着用し、個人総合でも2位につける小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)のリーダー4名を先頭に選手たちがラインナップ。早ければ、この日のレースで、本年度の覇者が確定する。



この日は観戦が許可され、多くのサポーターが集まった



声援の代わりに用意したフラッグで応援するサポーター

この日、歓声をあげての応援は禁止され、フィジカルディスタンスを確保した上での観戦が要請された。多くのサポーターが集まったが、しっかりとルールを守り、静かにフラッグなどを掲げて、スタートを見守っていた。そして大田原市の津久井富雄市長の号砲で、レースは正午にスタート。

早速、アタック合戦が始まる。この日は、2 周目にアタックが決まり、抜け出した選手たちの集団が形成された。



2周目に数名の選手が抜け出した。この中にはイエロージャージを切る山本大喜(キナンサイクリングチーム)が含まれていた

この逃げ集団には、イエロージャージを着る山本大喜が含まれていた。キナンサイクリングチームからはもう一人、花田聖誠(キナンサイクリングチーム)が入り、スプリンターチームであるスパークルおおいたからは孫崎大樹、宮崎泰史(スパークルおおいたレーシングチーム)が、さらに全日本王者も経験しているベテラン佐野淳哉(レバンテフジ静岡)、石原悠希(チーム右京相模原)、ホワイトジャージの奪取にかける本多晴飛(VC福岡)が入り、7名の構成となった。



 7名となった先頭集団。実力者が含まれて、好ペースを保ち、周回を刻んでいった

このまま逃げ切った場合は、年間のランキングに影響が出るメンバーが含まれている、逆転や奪取をかけて走るチームにとっては、有力選手を含む危険な動きであり、この集団の逃げ切りを防ぐ展開に持ち込まねばならない。
また、地元栃木の宇都宮ブリッツェンや那須ブラーゼンとしては、勝ちに行きたいホームゲームであるにも関わらず、この動きに選手を送り込むことができなかった。何としてもこの逃げをつぶそうと追走を試みるが、強力な7人はパワフルにハイペースを刻み、タイム差を1分以上にまで広げていく。



メイン集団の先頭に立ち、ペースアップを試みる宇都宮ブリッツェン



ペースをキープする先頭集団

この逃げの勢いは衰えず、中盤に差し掛かってもペースを保ち続けた。追うメイン集団は、他チームも選手を出し、協力しあってペースをキープする。牽引に尽力したアシスト選手が力尽き、次々と脱落して行った。
レースが折り返しを過ぎる頃、好ペースを刻み続けた先頭集団からも消耗された選手が脱落し始めた。一時は逃げ切りをも予見させた先頭集団のペースが少しずつ緩んできた。



本格的にペースアップし、先頭をとらえにかかるメイン集団 

メイン集団は増田成幸(宇都宮ブリッツェン)や、谷順成(那須ブラーゼン)など、脚力のある選手も追走に加わり、逃げ集団を追う動きが本格化する。メイン集団は、じわじわとペースアップし、先頭の選手たちに迫った。

11 周目、ついにメイン集団が逃げを吸収した。集団は 一つになり、レースはここで振り出しに戻った。ここで、このレースで勝たねばならない選手が一気に動き始める。
タイミングを見計らい、キレのある動きを見せたのは、小石祐馬(チーム右京 相模原)だ。今季も多くのレースで最終局面に動いてきた存在感のある「常連」だが、意外なことに、チームは今季まだ勝利をあげていない。何としても U23 賞のホワイトジャージを守りたいチームメイトの宇賀が小石に合流し、初優勝に向ける気迫を放ちながら、先頭を走るが、ほどなく、この2名も吸収され、またもや仕切り直しに。
メイン集団は、アタックと吸収が繰り返され、人数を20 人程度まで減らしていたが、ラスト4 周で大きく二つに分断された。

ここに一つのドラマがあった。先行する9名には首位の山本大喜も、同 2 位の 小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)も含まれていなかった。小野寺がランキングを逆転させるには、この日 2 位以上でゴールすることが最低条件になる。このまま二人がこの集団でフィニッシュすると、山本の年間ランキングトップが確定する。だが、この集団から小野寺が単独で抜け出し、先頭集団に合流できる可能性は、非常に低いと言わざるを得なかった。



イエロージャージの山本を守るように走るキナンサイクリングチーム。逆転を狙っていた小野寺はこの集団から抜け出すことができなかった

一方、先頭9名には、先ほど先行する意地を見せた小石と宇賀、集団の牽引も担った増田、レッドジャージの山本元喜と 新城雄大(キナンサイクリングチーム)、渡邊諒馬(ヴィクトワール広島)、阿部航大(さいたまディレーブ)、小野寛斗(スパークルおおいたレーシングチーム)、西尾憲人(那須ブラーゼン)が含まれていた。
さらにトマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)、阿曽圭佑(ヴィクトワール広島)の2名が合流する。キナンは3名、右京と広島が2名ずつを送り込み、有利な状況だ。



最終局面で先頭に残った11名。この中から勝者が出ることは確実となった

勝利の行方は、事実上このメンバーの中で争われることになった。



攻撃の掛け合いの中で、先頭集団の人数も絞り込まれて行った

ラスト2周に入ると、先頭集団内でのアタック合戦が始まった。ルバや小石らが仕掛け、ペースがあがると、耐えきれなくなった小野が脱落。

最終周回に入って渡邊、新城、そして阿部がこぼれ落ち、最後のゴール勝負に臨むのは、7名まで絞り込まれる。このメンバーでのゴールスプリントで競われることが確定的になり、互いを見合い、牽制が始まった。



最終周回に残ったのは7名。駆け引きを続けながらゴール勝負に向かう集団

最終コーナーで先頭に立ったのはルバだった。振り返りながら山本の姿を確認するルバの後ろに阿曽が付く。緩やかに上るホームストレートで、牽制を破り、最初に動いたのは増田だった。
ラスト300m、増田は最後尾からするすると一気に加速し、先頭に躍り出たのだ。この後ろに同じ栃木勢の西尾が付く。さらに阿曽も加速を始めた。
先行する3名に、山本、宇賀も食いつくが、3名のスピードは抜きんでていた。わずかに先行を守っていた増田に、阿曽が迫る。抜群の伸びを見せた阿曽は先頭に立つと、右のこぶしを突き上げながらフィニッシュラインに飛び込み、国内トップリーグでの初勝利をもぎ取った。



雄叫びをあげ、フィニッシュラインに飛び込んだ阿曽。タフな展開の中で手にしたトップリーグでの初勝利だった

阿曽は表彰台で自分のために動いてくれたチームメイトへの感謝を述べ、「スプリント力には自信があり、最後まで集団に残れば勝てると思っていた」と語った。「チームのためにも、自分のためにも勝たなきゃいけないという気持ちで、今日は最後まで全開で踏み切った」と、感慨深げにレースを振り返った。



無観客開催のレースでは殺風景だったコース脇だが、今レースでは那須ブラーゼンを応援する黄色のノボリや横断幕が並び、レースの風景が戻ってきた



声援の代わりに拍手で応援する観客たち。特に地元栃木勢には、熱い拍手が送られていた

多くのサポーターの応援を受けて走った地元チームの西尾は、悔しい2位。表彰台でも悔しさを語ったが、勝利への執念をにじませた死闘を目の当たりにしたサポーターからは、温かい拍手でいつまでも惜しみなく健闘が讃えられた。



イエロージャージを確定させた山本大喜(キナンサイクリングチーム)レッドジャージの山本元喜 (キナンサイクリングチーム)、ブルージャージの小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)、ホワイトジャージを守った宇賀隆貴(チーム右京 相模原)

小野寺の個人総合での逆転劇は叶わず、このレースの結果により、山本大喜が年間の個人総合首位の座を確定させた。宇賀は、最後の展開まで大健闘を見せ、5位でフィニッシュし、U23のホワイトジャージを守り抜いた。山岳賞、ポイント賞も山本元喜、小野寺がキープする結果となった。

最終戦は、那須塩原駅前の大通りを交通封鎖し開催されるクリテリウムとなる。

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【結果】大田原ロードレース 116.1km
1位/阿曽圭佑(ヴィクトワール広島)2:40’23”
2位/西尾憲人(那須ブラーゼン)
3位/増田成幸(宇都宮ブリッツェン)
4位/山本元喜(キナンサイクリングチーム)+0’01”
5位/宇賀隆貴(チーム右京相模原)+0’01”
6位/トマ・ルバ(キナンサイクリングチーム)+0’07”

【イエロージャージ(個人ランキングトップ)】
山本大喜(キナンサイクリングチーム)

【ブルージャージ(スプリント賞)】
小野寺玲(宇都宮ブリッツェン)

【レッドジャージ(山岳賞)】
山本元喜(キナンサイクリングチーム)

【ホワイトジャージ(新人賞)】
宇賀隆貴(チーム右京 相模原)

【敢闘賞】
増田成幸(宇都宮ブリッツェン)

【スプリント賞】
孫崎大樹(スパークルおおいたレーシングチーム)、山本大喜(キナンサイクリングチーム)

画像:JCL ロードレースツアー(株式会社ジャパンサイクルリーグ)、編集部

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