5区の前哨戦が繰り広げられる激坂最速王決定戦! 本大会のレースディテクターである川北 順之さんに、大会の見どころをお伺いしました。   5区の選手を選ぶのはどこのチームも難しい ようやく、数年かけての実績の積み上げや声…

5区の前哨戦が繰り広げられる激坂最速王決定戦!

本大会のレースディテクターである川北 順之さんに、大会の見どころをお伺いしました。

 

5区の選手を選ぶのはどこのチームも難しい

ようやく、数年かけての実績の積み上げや声かけにより、この大会に有力大学が出場してくれるようになりました。私自身も箱根駅伝を目指して走っていましたので、チーム事情もふくめた深堀りしたところから見ると面白いなと思っています。なぜなら、これからこの大会に参加することで、各校の5区出走選手の選考方法が、かなり変わって行くのではないかと思っているからです。

というのも、各校5区の選手を選考する過程としては、主に合宿などで毎年走る登りコースがあり、そこで適正を見せた選手を候補としてピックアップする、というケースがどこの大学も多いのです。

これにはメリットがあって、高い適性を見せた選手を早い段階で区間固定できるので、心も体も準備させることができます。また、他の大学に情報が漏れないので、上位を争うチームにとっては区間配置の情報戦で有利になりうることもあります。

逆にデメリットとしては、選手の登りの「適正」はわかるけれども、実際の5区をどのくらいのタイムで走れるかわからない、という問題があります。あくまで合宿は強化であり練習の場なので、その選手が、実際のレースになってどれくらいの実力を発揮するか、確証が持てないのです。

平地の区間であれば、秋口になって、夏合宿を経た成長具合や調子を確認するためにレースに出ます。たとえば上尾ハーフや、日体大記録会など。そういった大会の結果や他校の選手の仕上がりを指標として区間配置を組み立てていくのがセオリーです。でも5区を走る選手には、そういった指標が本番までありません。結果、ふたを開けてみたら思ったほど走れず、2分、3分想定外に差をつけられた、ということもよくある話です。

候補選手を見極める指標が少ないために、平地区間よりも不確定要素が強いのが山岳区間なのです。

これからの山の選考レースとして

激坂最速王決定戦のコースは13.6km、標高差981m。箱根5区のスタートから最高地点まで15.7km、標高差864m。激坂の方が箱根5区より斜度はキツくカーブが少ない、というコースの違いはありますが、他校と争う「レース」の状況で、選手がこれだけの傾斜をどれくらい走れるかを試す場はいままでどこにもありませんでした。

激坂最速王を走ることで、より実戦的な選手の「登坂力」を確認することが可能になったのです。ちなみに昨年の記録を例に出すと。

激坂1位 三上(創価大)→ 箱根5区2位
激坂2位 津田(順大)→      箱根5区13位
激坂3位 村越(日体大)→ 箱根5区16位

と、実際の5区でのレース展開はさまざまかもしれませんが、激坂で見られた各選手の登坂力が本番に反映されていることがわかります。

もちろん本番のレース展開や、前後の選手により絶対的な指標というわけではありませんが、「箱根一か月半前に、仮想5区のコースを他校も一緒に走る」という指標は、これまでにはなかったもので、さらに回を重ねるごとにタイムも標準化していき「仮想5区」としての精度を増していくと思われます。

どのチームも5区の不確実性が少しでも減ることで、他の区間に向ける注意や、5区までの目標タイム・順位をより明確にすることができます。
厚底シューズの影響もあり、各選手の能力が高いレベルで拮抗しはじめている現代の高速駅伝では、山岳区間を秘密にすることで得られる情報戦のメリットよりも、ある程度選手の情報は開示されつつも、より正しい指標を手に入れ、10区間全体でより現実的な作戦を練った方が予想に近い結果を見込めるように思います。
そういった意味でも今年は、昨年の優勝者、箱根でも区間2位に入った三上選手のタイム(53分9秒)や他校との順位の比較などが非常に重要な指標になるのではないかと思われます。

ただ、いちファンの目線からすると、箱根の5区では、事前の不確定要素が高いがゆえに、タイム的にも目立たなかった選手が、前評判の高い選手と互角の勝負を繰り広げたり、それまでまったく他校に知られずノーマークだった選手が、チームの勝負を決める走りをするなど「ドラマ」が起きる面白さがありました。

各チームが激坂最速王決定戦を利用して「指標」の精度を高めるにつれて、もしかしたら、そういったドラマは今までよりも少なくなっていくのかもしれません。

エントリーを見ると各大学の戦略が見えてくる

各チームのエントリーを見てみると、「(1)選手の選考会」「(2)(5区走者は決まっていて)次の山候補を探す」「(3)出場選手の状況確認」に分かれるように思われます。もちろん、(1)と(2)、(2)と(3)を組み合わせた意図でエントリーをしてきているチームもあるように思います。

たとえば、日体大は昨年5区を走って計算できる村越 凌太選手を軸に、おそらく夏合宿などで山適正が見られた選手をエントリーして、来年以降のチーム編成も見越していると思われます。つまり参加の意図としては「(2)(5区走者は決まっていて)次の山候補を探す」「(3)出場選手の状況確認」。

明治大学は、28分台を持つ杉 彩文海選手をはじめ、他校であれば箱根で戦力としても成り立ちそうな選手をエントリーしてきました、もちろん「(1)選手の選考会」であることが読み取れます。ブレーキなく進めば、往路の優勝争いもうかがえる戦力を有するだけに、現有戦力でより最適な配置をしたい、という監督の意図が感じられます。

といったように、箱根駅伝を見据えたうえで、エントリーの選手からチームの意図を読み取るのも、激坂最速王の楽しみ方だと思います。

川北的な注目は、早稲田大学

今回興味深かったのは、早稲田大学です。主将の千明龍之佑選手、菖蒲敦司選手、そして、東洋大学・石田選手とともに昨年高校記録を更新したスーパールーキー伊藤大志選手、出雲駅伝で区間賞、全日本大学駅伝で快走し、ポテンシャルの高さを見せた石塚陽士選手、昨年5区で19位と悔しい思いをした諸冨 湧選手がエントリー。

伊藤選手も石塚選手も、高校時代はスピードをしっかり養って活躍してきたエリート選手。まだ箱根本番の20kmを走り切れるかは未知数ですが、そういった選手を惜しみなく登りで試して勝ちに行く姿勢、そして諸富選手にもういちどチャンスを与えるところに、早稲田が伝統的に持つ「泥臭さ」を改めて感じました。10000m27分台の選手を3人抱えるチームであるにもかかわらず、山にこれだけの候補を立てるということは、どうしても必要なピースとして、確実に山を走る選手を渇望しているように思われます。

懐事情が見えてくる、駒澤大学・東京国際大学

さらに今年注目のチーム全日本大学駅伝を制した駒澤大学、出雲駅伝を制した東京国際はそれぞれ最大人数の7名のエントリー。

駒澤大学は4年生で安定感のある佃康平選手がエントリーされていてコンディション・坂適正の最終確認、とも考えられます。昨年5区を走り、今季スーパーエースに成長した鈴木芽吹選手は激坂にはエントリーしていません。鈴木選手は出雲駅伝も全日本大学駅伝も欠場。今年の実績から考えても、箱根駅伝では勝負所の平地区間での起用が予想され、5区での出場は考えにくいように思われます。

大八木監督としては、5区は大崩れせずきっちり走れる選手に任せ、それまでに現有の戦力で往路の勝負をつける、という目論見なのかもしれません。伝統的に見ても、駒澤大学の5区での区間賞は多くないということもあります(84年大八木弘明:総合12位、91年北原慎也:総合9位、17年大塚祥平:総合9位)。

ただ、鈴木芽吹選手を5区に起用する可能性はゼロではありませんし、佃選手以外の出場者がまだ若い学年であることを考えると、何か大八木監督の中で腹案(あるいはチーム事情的な悩み)があることも(想像として)否定できません。

東京国際も昨年5区を走った荒井雄哉選手が卒業。次の、そのまた次の山候補を探さなければならない懐事情がこのエントリー者数に現れているのかもしれません。東京国際はイェゴン・ヴィンセント選手、丹所健選手のダブルエースが最高学年になる来年がこれまでの最高順位を狙うチャンスになります。そのため山で正確な計算ができる選手を今年のうちに発掘する、というのは今現在のチームにとって喫緊の課題であると思われます。

もしかしたら今年にも、この2校は、4区までの戦力が強大なだけに5区まで勝負がもつれ込む可能性は高く、往路成績を決めるターニングポイントになるかもしれません。そういった意味では、この両校の激坂での結果は、来年の布陣も見越したうえで、非常に興味深いものになるようにも思われます。

そういった両校の目論見がこのエントリー数に現れている、と想像するのも激坂最速王の楽しみ方ではないかと思います。

有力校以外にも

そのほか、今年は東大や東大大学院(東大在学時に学連選抜で箱根を走った阿部飛雄馬選手、今年の学連選抜に選ばれた古川大晃選手も出場)、麗澤大、筑波大など、箱根を走れなかったチームも参加してきてくれていますし、将来的に関東学連以外のチームなども「箱根の山候補」にひと泡ふかせようと、乗り込んで来てくれたらうれしいですね。
あとは、時期的には難しいかもしれませんが、関東学連選抜の5区選考レースになってくれたら、より盛り上がるかもしれません。