リーグ、選手、メディア、地域と様々な視点で考える女子スポーツ スポーツチャンネル「DAZN」がアジェンダパートナーを務める「SOCIAL INNOVATION WEEK 2021」の6日目が今月10日に行われ、「Long Panel Dis…

リーグ、選手、メディア、地域と様々な視点で考える女子スポーツ

 スポーツチャンネル「DAZN」がアジェンダパートナーを務める「SOCIAL INNOVATION WEEK 2021」の6日目が今月10日に行われ、「Long Panel Discussion|Respect is knowing スポーツと女性のこれから」と題したパネルディスカッションに、日本女子プロサッカーリーグチェアの岡島喜久子氏、プロサッカー選手・荒川恵理子氏(ちふれASエルフェン埼玉)と田中美南氏(INAC神戸レオネッサ)、インフォバーングループ本社代表取締CEOの今田素子氏、Number編集部メディア・プロデューサーの藤森三奈氏、DAZN JAPAN Vice President Communications & PRの松岡けい氏、一般社団法人渋谷未来デザイン理事・事務局次長の長田新子氏が登壇した。

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 昨年、アメリカで始まったBlack Lives Matter(ブラック・ライブズ・マター)は世界的なムーブメントに拡大し、スポーツ界でも多くの選手が声を上げた。東京五輪でも、サッカー女子日本代表がイギリスと対戦したグループリーグ第2戦、キックオフ直前に片膝をつくアクションを通して人種差別に抗議したことは記憶に新しい。これらのムーブメントは人種差別問題に留まらず、ジェンダーに関する議論にも発展している。

 東京五輪では48.8%という過去最高の女性アスリートの参加率を記録し、直後には日本初の女子プロサッカーリーグ・WEリーグが開幕した。岡島チェアは、「2011年になでしこはワールドカップ(W杯)で優勝し、今年の東京五輪ではベスト8に終わった。日本が弱くなったわけではなく、プロリーグができたことで、世界の女子サッカーのレベルが上がった。もう一度、なでしこが世界のトップに立つにはプロリーグが必要でした」と設立理由を語った。

 パネルディスカッションでは、リーグ、選手、メディア、地域と様々な視点から女子スポーツの盛り上がりについて意見が飛び交った。Number編集部の藤森氏から「観客をどうやったら集められるか。目の肥えた男性サッカーファンにとってはちょっと物足りないという人もいます。新しいファン層を意識しているのか」と質問が飛ぶと、岡島チェアは二つのグループを想定していると答えた。

「まずは、サッカーに興味ある子どもがいるファミリーにみんなで見に来ていただきたい。そのためにサッカー以外のコンテンツ、例えば食べ物やキックゲームなどの楽しいことが必要だと思う。次に女性です。これまでは女性が女子スポーツを見ることはあまりなかったと思うので、特に選手と同じぐらいの年齢の女性に興味を持ってほしいと思っている。この二つのグループの集客を考えていきたい」

女性アスリート、女子スポーツがメディアで取り上げられるためには

 DAZNグローバルの調べによると、スポーツファンの93%が男子スポーツしか見ていないが、そのうちの63%は女子スポーツにも関心を持っているというデータが明かされた。また、アメリカにおけるスポーツカバレッジのなかで女子スポーツが占める割合は全体のわずか4%に満たないことも示された。その理由として、選手やチームのことをよく知らないこと、見る機会が少ないこと、どこで試合を観戦できるか分からないことが挙げられた。

 この数字には登壇者も驚きを隠せなかったが、これを受けてNumber編集部の藤森氏からもNumber誌面での記事露出について、女子スポーツに関するカバレッジは全体の0.03%、今年に言及すると10月末時点で0.07%、昨対比は230%であることが語られた。さらに過去1040冊発行されたなかで特定の女子アスリートが表紙になったのは36冊で、全体の3.6%であったことが伝えられた。

「女性で最初に表紙になったのはゴルフの岡本綾子さんでした。その後は五輪メダリストが表紙になっている。女子アスリートで表紙の回数が最多だったのは浅田真央さんで8回。これは人の心を動かせる選手だからで、そこが大事なのかなと思う」と藤森さんは分析した。

「お母さんに、自分の娘にスポーツをやらせてもらいたいと思っている」と切り出した岡島チェア。特に昨今ではチームスポーツをやらせたいと考えるお母さんが少ないのではないか、と問題提起したうえで、チームスポーツをやる利点について説いた。

「ビジネスの世界においてもチームスポーツが大事だと感じる。負けた経験を次に生かす、モチベーションを作ることはビジネスでも役に立つんです。何が悪かったのか、自分のなかで考える力というのはスポーツから学べる。チームスポーツにはその価値があることをお母さんたちに知ってもらいたい。そのためにはメディアの力は非常に大きい」

 注目を集めるためにはどうしたらいいのか――。

 編集部でもたびたび話題に上がるというNumber編集部の藤森さんは、「スターが必要」と語る。「あえてでも作り出すことが大事なのではないか。例えば、監督に著名な元Jリーガーを招へいして、この監督ならどういうサッカーをするのか見に行きたいとファンに思わせる。そういった案も出ました」と話した。

 WEBメディアを運営している今田さんは、「これはメディアの責任が大きいと思っている」と答えた。「人の心を動かす、感動を伝えるというところからストーリーを作っていく。WEリーグは社会貢献活動をしているということで、そこにうまくメディアを巻き込んで活動を露出していくとか、いろんな社会変革の象徴になるようなレバレッジの利かせ方をしてメディアを巻き込んでいけたら、スポーツ以外のメディアでも取り上げやすいのではないだろうか」。

日本初の女子プロサッカーリーグ誕生も、手放しでは喜べない理由

 9月に開幕したWEリーグ。当事者たちはどのように感じていたのだろうか。練習終わりにオンラインでディスカッションに合流した荒川選手は「WEリーグの開幕が決まっても、テレビで取り上げていただけていたけど、知らない人が多かった。正直、さらーっと始まったなという感覚だった」と語り、田中選手は「サッカー界のなかでは一大イベントというのを感じたけど、関わっていない人たちの盛り上がりはそんなになかった」と口にした。

 メディアに取り上げられる秘訣として、Number編集部の藤森氏は「たくさん発言すること」を提案した。

「ミックスゾーン(取材エリア)はもちろんですが、自分をさらけ出していただきたい。それがメディアにとっては協力的な選手という位置づけになり、何かあったときにはすっと手を差し伸べたいと思えるようになる。SNS上でも対面でも、できるだけ自分の個性をアピールする。それがファンサービスにもつながるし、皆さんの個性を知ることにもつながる。それがあって皆さんの、WEリーグのストーリーができると思う」

 DAZNの松岡氏からは、「“女性アスリート”として取り上げられやすいと思うが、いちアスリートとして取り上げてもらうためにはどうすれば伝えられると思うか」という質問が飛ぶ。この質問に対し田中選手はトレーニング法などのプライベートとプレーの両方をバランスよくやることが大事だと感じている。

「サッカーをしていてサッカーに興味がある女の子からはトレーニングや1日の過ごし方についての質問が来るので、個人的にはそういうものを発信していかないといけないと思っている。ただ見せ方については海外の選手がうまいので、そこは真似しないといけない。メディアの方には選手のパーソナリティ含めて、トレーニングの仕方を、サッカーをあまり見ない人たちにはプライベートを見せること、どんな人なのかから入ってもらってサッカー選手なんだと知ってもらう。難しいけど、その二つをバランス良くやらないといけない」

 その一方で、2度のW杯と五輪の出場経験を持ち、メディアの取り上げられ方で浮き沈みを経験している荒川選手は、「こちらが求めるばっかりではいけないのかな」と指摘。「選手も、人の心を動かせるプレーを一人ひとりがもっと追求していかないといけないと思う」とプレーの質を高めることも大事だと語った。

 司会を務めた長田氏から「地域との関係性」について話題が及ぶと、岡島チェアは「ホームタウンというのを一つひとつのクラブが持っていて、プロモーション活動などを行っている。Jリーグで結果を出している事例もあるので、そこを参考にゆくゆくは選手がアイデアを出して地域コミュニティを作ってほしい」と語った。

 東京五輪で多くの女性アスリートの活躍を目にし、スポーツチャンネル「DAZN」ではUEFA女子チャンピオンズリーグやWEリーグも見られるようになった。このタイミングで開催された今回のパネルディスカッションは、スポーツと女性のこれからについて考える良いきっかけとなったに違いない。(THE ANSWER編集部)