サッカーの世界は奥が深い。プレーを伝えるメディアの世界も、知的フィールドとなり得る。世界中のさまざまな文化が、そこで混…
サッカーの世界は奥が深い。プレーを伝えるメディアの世界も、知的フィールドとなり得る。世界中のさまざまな文化が、そこで混じり合うからだ。蹴球放浪家・後藤健生が、サッカー界の表記について、一石を投じる。
■中国人選手は漢字表記にすべき
僕は東アジアでは漢字と表音文字の混じり文にすべきだと思っています(日本語の漢字かな混じりのように)。そうすれば、お互いに新聞の見出しくらいは理解できるようになります。
まあ、それは難しいことかもしれませんが、少なくとも日本語の文章の中では韓国人や中国人の名前は漢字を使うべきだと思います。たとえば、韓国人の名前をカタカナで書くと区別が難しくて、覚えることができません。ハングルでは区別できる発音、たとえば「N」と「NG」と「M」が、カタカナでは全部「ン」になってしまうからです。
もっとも、韓国語の場合は日本人がカタカナ表記をそのまま「そんふんみん」と発音しても韓国人にも「ああ、孫興民のことね」と分かるでしょうからカタカナ表記にする意味もあるでしょう。しかし、中国人の名前を日本人が「しいちーぴん」と発音しても、中国人にはそれが「偉大な指導者、習近平主席」のことだとは絶対に理解できません。だから、少なくとも中国人だけは漢字表記にすべきです。
■キング「貝利」と神の子「馬拉多納」
日本の編集者が人名表記に悩む以上に大変なのは中国人編集者です。なぜなら、彼らは新しい選手が登場するたびにその名前を漢字で表記しなければならないからです。キリアン・エンバペだったら「基利安姆巴佩」、ヨハン・クライフだったら「約翰克魯伊夫」といったふうにです。ペレの「貝利」、マラドーナの「馬拉多納」なんていうのは易しい方でしょう。
チーム名は意訳が多いようです。「曼聯」はマンチェスター・ユナイテッド、「曼城」はマンチェスター・シティのことです。「曼」はマンチェスターのこと。「聯」は「連」と同じで連合(ユナイテッド)のことです。「城」は中国語では「市」という意味ですから、「シティ」ですね。
「皇家馬徳里」は「レアル・マドリード」のことです。「馬徳里」は音を当てはめた当て字です。スペイン語のレアル(REAL)は英語の「ロイヤル」に当たる「王の」という意味の言葉ですから、これを中国語に意訳して「皇家」となるわけです。
■今季J1優勝の「川崎前鋒」
中国人編集者にとって日本の地名や人名は楽なはずです。元々、漢字があるからです(発音はまったく違いますが)。しかし、チーム名はやはり意訳が多いようです。
川崎フロンターレは「川崎前鋒」、横浜F・マリノスは「横浜水手」、サンフレッチェ広島は「広島三箭」、モンテディオ山形は「山形山神」といった具合です。ブラウブリッツ秋田はドイツ語がチーム名(青い閃光)になっていますが、これもちゃんと「秋田藍閃電」と意訳しています。まあ、コンサドーレという意味のない造語(「どさんこ」の逆読み)の場合はチーム名も「北海道札幌岡薩多」と音訳になりますが……。
でも、もちろん中にはビックリ訳、迷訳もあります。
昔、香港の新聞を読んでいたら、「真馬徳里」というチームが出てきました。「馬徳里」はマドリードですよね……。さて、「真」とは? そう、この新聞の編集者はスペイン語の「REAL」を英語の「REAL」と混同してしまったのです。英語の「リアル」、つまり「真実」ですね。
それから、日本代表の記事の中に「津波選手」という選手が出てきたことがありました。「え、そんな選手っていたっけ?」。よく読んでみると、これは「都並敏史』選手のことでした。読売サッカークラブと日本代表の不動の左サイドバック。現在はブリオベッカ浦安(千葉県、関東リーグ1部2位)で監督をしています。
きっと、英語の記事があったんでしょう。「TSUNAMI」という選手名を見た編集者は、英中辞典かなんかを調べたんでしょう。そして「TSUNAMI=(津波)」というのを見つけて、津波選手の記事を翻訳したのですね、きっと。