「目標は渋野」という23歳、涙の合格までの道のりと心の揺れ 2021年度日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の最終プロテストは2~5日に京都・城陽CCで行われ、20位タイまでの21人が合格した。JLPGA正会員でなければ、ツアー予選会(QT…

「目標は渋野」という23歳、涙の合格までの道のりと心の揺れ

 2021年度日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の最終プロテストは2~5日に京都・城陽CCで行われ、20位タイまでの21人が合格した。JLPGA正会員でなければ、ツアー予選会(QT)も受験できない規定の下、総受験者614人で合格率は3.4%。その超難関を突破した中には、岡山・作陽高で渋野日向子の1学年先輩で6度目受験の成澤祐美もいた。「目標は渋野」と話す23歳が「THE ANSWER」のインタビューに応じ、合格に至るまでの道のりと心の揺れ、今後を語った。(取材・文=THE ANSWER編集部・柳田 通斉)

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 最終18番パー4。成澤は「心臓がドクドクしていた」という。第1打を右のラフに入れ、残り120ヤードの第2打はグリーン奥のカラーに。アプローチは寄らず、残り5メートルのパットも入らず、ボギーにした。当日73、通算4オーバーで4日間のラウンドを終えた。

「最後にやってしまいました。これでもう、落ちたと思いました。ただ、残り3組になった時点でJLPGAの方が『今、成澤さんは単独9位だから、残り12人が1人でも4オーバーまで落ちてきたら合格だから』と言われました」

 心を落ち着かせるため、トイレに入った。出てきたところで、「合格です」と伝えられた。すぐに駐車場で待つ母親のもとに向かい、「受かったよ」と言いながら抱きついた。

「泣きました。やっぱり、ここまで長かったですし、いろんなことがありましたから……。でも、母は意外と泣いていなくて、『やっとだね~。でも、ここからだよ』と言ってくれました。きっと、1人になって泣いていたと思いますけど」

午後4時20分、渋野から届いていた1本のLINEメッセージ

 その後、成澤はメディア対応などを終え、ひと段落した午後4時20分、1本のLINEメッセージを目にした。

「ゆみさん ほんとにほんとにおめでとうございます」

 ひらがなだけの22文字。渋野からだった。

「ビックリしました。それも、結果が(JLPGA公式サイトに)発表されてすぐでしたから。渋野、自分の試合だってあったのに……」

 うれしくなった成澤は「この前、一緒に練ランして刺激をくれたおかげだよ」と返し、渋野からは「そう言っていただけるとうれしいです」。TOTOジャパンクラシック第2ラウンド(R)を終えたばかりの後輩からの気遣いが、テスト合格の喜びをさらに大きくした。

 作陽高時代、成澤はチームのエースだった。2015年全国高校ゴルフ選手権女子団体戦で、成澤は第1R67、第2R67。渋野は67、73で回り、ともに優勝に貢献した。36ホールの個人戦では、成澤が通算6アンダーで2位、渋野は通算イーブンパーで22位。成澤は「当時から渋野はすごかった」と振り返るが、自身の方が上にいたことは明らかだった。

 それでも、卒業後は「いばらの道」が待っていた。最初に受けた16年度プロテストは最終26位。合格圏に2打届かなかった。17年度は2次予選で不通過、渋野は最終の第3Rカットで不合格。18年度は成澤が最終59位で合格圏に8打届かず、渋野は14位タイで合格した。

「めっちゃ、悔しかったです。後輩に負けた悔しさが大きかったのと、うらやましさで『いいな~』と思いました」

渋野の快進撃に「すごっ」、自身は見えない未来に不安

 ここを境に両者に大きな差がついた。19年、渋野は5月にツアー初優勝、7月に2勝目を飾った。そして、8月に全英女子オープン優勝という快挙を成し遂げた。瞬間、成澤が抱いていた渋野への悔しさは「尊敬」に変わった。

「もう、『すごっ』のひと言です。私は卒業してからも岡山に住み続けていますが、大変な騒ぎになりましたからね。渋野にも祝福のLINEを送りましたし、ちゃんと返信もありました」

 だが、自身はくすぶり続けた。19年度テストは2次予選不通過、20年に入ると、コロナ禍で予定されていたプロテストが延期に。成澤は不安にさいなまれた。

「いつテストがあるのかも分からないし、通る保証もない。落ち続けて、年齢も重ねていけば、いつかは諦めなければいけないと思ってもいました」

 そんな苦悩の中、同年3月に設立されたDSPE(ツアープロを目指す女子ゴルファーを支援する団体)の月例会に参加。試合開催が難しい状況下、同じ志を持つ選手たちと切磋琢磨し続けた。

 そして20年秋、成澤は予選会を勝ち抜いて出場した日本女子オープンで26位に入り、82万1250円を獲得した。第3Rで同組になったペ・ソンウ(韓国)からは「ショットのリズムがいい」と言われた。その喜びと自信を胸に練習を重ね、今春に延期開催された20年度テストで最終に進出。合格圏に8打差の59位だったが、「次こそは絶対に通る」と心に決め、翌日から練習拠点の久米CC(岡山・津山市)でクラブを握った。

ペ・ソンウに褒められて自信…両親には「お金返します」

「今、思えばその決意と行動が良かったと思います。課題にしていたラフからのショットもしっかり練習できましたし、9月からは新たに教わった練習をして苦手にしていたパットも良くなってきました」

 言葉通り、成澤は師事するシニアプロの坂本圭治から紹介された岡茂洋雄の指導を受け、約80センチのパットを強めに打ってカップの真ん中から入れる練習を繰り返した。そして、日本シニアオープンで坂本のキャディーを務め、パットやマネジメントを学んだ。

「この練習でパターの芯に当てて弾く感覚がつかめてきました。ストロークは緩まないし、3、4メートルのパットが入るようになってきました。岡茂プロとの出会いと坂本さんからの助言はものすごく大きかったです」

 その流れで再び予選会を突破して出場した日本女子オープンで32位に入り、賞金100万2857円を獲得。自信を持って臨んだ21年度最終プロテストでもパットに救われた。

「第1Rも第2Rもトリプルボギーをたたいていますが、パットで取り戻すことができました。最終Rもダボを打ちましたが、5バーディーを取って73で耐えることができたのは、パットのおかげです」

 文字通り、積み重ねと強い思いがあったからこその合格。ただ、成澤は「ギリギリでの合格ですから、『あの1打が入らなかったら』と思うと怖くなります。もし、不合格だったら、『あと1年で終わり』とか、自分の中で区切りをつけていたでしょう」と話す。そして、これまで支えてくれた家族、周囲への感謝を言葉にした。

「岡山に戻って、すぐに作陽の(田渕潔)監督や久米CCへ挨拶に行き、『おめでとう』と言っていただきました。今回、作陽から私を含めて4人が合格したので、さらにみんなで作陽の名を広げ、これから受験する作陽生の励みになればうれしいです。そして、久米CCをはじめお世話になった全ての方々に恩返しをしたいです。両親にはたくさんのお金を使わせたので、これから頑張って返済していきます。日本女子オープン2試合で稼いだお金も、自分のものだとは思っていませんから(笑)」

試合前の練習ラウンドで感じた「渋野、かっこいい~」

 その明るさは、後輩の渋野に負けず劣らずで、合格会見では「目標は渋野みたいなかっこいいプロです」と話した。かつては先に合格されて、「悔しい」と思ったが、今は素直に「目標」と言えるようにもなった。

「(今年の)日本女子オープンの練習ラウンドで一緒に回った時、渋野のことを『かっこいい~』と思ったんです。ドライバーはめっちゃ飛ぶし、アイアンも切れがすごいですから。でも、話すと昔の渋野のままなんですよ。そこも含めてかっこいいです。いつかツアーの最終日最終組で一緒に回りたいです」

 現状、渋野の背中は遠い。渋野が願い通りに来季米女子ツアーの出場権を取れば、一緒のフィールドで戦うチャンスも少なくなる。だが、成澤は言った。

「まずは出られる試合に全部出て、前進していきます」

 渋野に近づく次のステップは、今月23日からの来季1次QTと今月30日からの最終QT。成澤は、ここで国内ツアー出場権を獲得し、かっこよくなって渋野を待つつもりだ。

【成澤祐美プロテスト成績】

16年度 最終26位 2打差(永井花奈、田辺ひかり)
17年度 2次予選不通過(勝みなみ、小祝さくら)
18年度 最終43位 6打差(渋野日向子、稲見萌寧)
19年度 2次予選不通過(笹生優花、西村優菜)
20年度 最終59位 8打差(佐久間朱莉、岩井明愛)
21年度 最終20位 合格

カッコ内は主な合格者。打差は合格圏まで。

■成澤祐美 / Yumi Narisawa

 1997年11月21日、札幌市生まれ。冬はスキー場、夏はゴルフ場を運営している会社に勤めていた母親から、10歳のときに「ゴルフでもやってみる?」のひと言でクラブを握った。中3の11年には北海道ジュニア選手権で優勝。「年間を通してゴルフをしたい」との思いから、岡山・作陽高に進学した。趣味はYouTubeを見ること。160センチ、55キロ。(THE ANSWER編集部・柳田 通斉 / Michinari Yanagida)