トヨタ自動車のルマンプロジェクトをけん引してきた中嶋一貴(36)が今季限りで仏ルマン24時間レースを主軸とする世界耐久選手権(WEC)のレギュラードライバーの任務を終え、勇退することが発表された。6日にバーレーンで行われたシリーズ最終戦で…

 トヨタ自動車のルマンプロジェクトをけん引してきた中嶋一貴(36)が今季限りで仏ルマン24時間レースを主軸とする世界耐久選手権(WEC)のレギュラードライバーの任務を終え、勇退することが発表された。6日にバーレーンで行われたシリーズ最終戦ではトヨタの一員として優勝を果たし、有終を飾った。

WEC最終戦のバーレーン8時間で優勝し、同僚に担がれる中嶋一貴(トヨタ自動車提供)

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 「このような最高の結果でWECのキャリアを終えることができ、本当にうれしいですし、最高のチームメートに恵まれた私は幸運でした。ファイナルラップでは、感情を抑えきれず、ドライビングに集中するのが大変でした」。2012年にプロジェクトから立ち上がってから10年間も車両開発に携わり、ルマンでは2018~20年に自身3連覇を果たし、ハイパーカーに車両が変更された今年も小林可夢偉が駆るチームメートのマシンを優勝に導いた。

 所属するトヨタガズーレーシングのチームオーナーを務める豊田章男トヨタ自動車社長からも「一貴は2012年からこの挑戦に力を貸してくれていました。10年間、戦ってくれたレースの距離はおよそ3万キロ。シーズン前の30時間走行テストなども考えれば、もっと長い距離かもしれません。耐久レースという本当に過酷な道の上でトヨタのハイブリッドを鍛え続けてくれたこと感謝しています。3万キロの戦いをありがとう」とねぎらいの言葉を贈られた。

 一貴は日本人初の親子2代F1ドライバーだ。父の悟さんは1987年に日本人で初めてF1にフル参戦を果たしたレジェンド。一方の一貴も2007年最終戦にウィリアムズ・トヨタからF1デビューし、08、09年とフル参戦した。

 悟さんはホンダ系チームでF1参戦し、経営するレーシングチームでもホンダのマシンを走らせている。一方の一貴は一貫してトヨタ系。父の関係でいけば、ホンダのドライバーになってもいいはずだったが、息子はトヨタを選んだ。

 悟さんは当時、ホンダ系の鈴鹿サーキットレーシングスクール(SRS)で初代校長を務めていた。だから親の七光りでレースの世界に進みたくないという意地もあったのだろうが、レーシングカートでトヨタに近いヤマハのワークスチームに所属していた影響もあったと思う。

 さらに言えば、トヨタが本格的に若手ドライバーの育成に着手し始めたことも大きかった。2000年に「フォーミュラ・トヨタ・レーシングスクール(FTRS)」を立ち上げたばかり。その前年にエンジン、車体も自作するワークスチームでのF1参戦を表明していた。トヨタが日本人選手を育て、F1に送り込む。そんな機運が盛り上がっており、受講の応募が殺到した。

 そのモデルケースとなったのが3期生の一貴と2期生の可夢偉だった。ちなみに一貴は前年のFTRSでスカラシップを逃し、いわば「留年」で再受講。サラブレッドではあるが、挫折も味わっている。結果的にスカラシップを獲得した翌年の2003年に育成シリーズのF・トヨタに参戦。可夢偉らを相手にチャンピオンを獲得した。その後は欧州武者修行なども経験し、F1シートをつかんだ。

2003年にタイトルを取ったフォーミュラ・トヨタ時代の中嶋一貴(トヨタ自動車提供)


 ちなみにアルファタウリ・ホンダでF1を戦う角田裕毅はSRSのフォーミュラスクール出身だが、15歳の時に先にFTRSを受講。その時にスカラシップを取っていれば、トヨタのドライバーとして進んでいた可能性もあった。その逆に一貴もSRSのカートスクールの出身でホンダとのゆかりもある。海の物とも山の物ともつかない駆け出しであれば、はい上がるためにはわらをもつかむ。何事にも貪欲な姿勢でトライすることは大事だ。

 昨年からは新型コロナウイルス感染拡大の影響でWECに参戦すると帰国後は2週間の自主隔離期間が必ず設けられ、国内カテゴリーとの掛け持ち参戦が難しい状況が続いた。今季もスーパーフォーミュラにエントリーしたが、参戦可能な2レースのみに出場。スーパーGTは2年連続で参戦しなかった。

 来季以降は国内カテゴリーに専念することもできるが、トヨタのWECプロジェクトに継続して参画する可能性もあり、レーシングドライバーからの完全引退も選択肢としてはあり得る。悟さんが引退したのは38歳の時。一貴も来年1月で37歳になる。潮時を見極めつつあるようだ。

[文/中日スポーツ・鶴田真也]

トーチュウF1エクスプレス(http://f1express.cnc.ne.jp/)



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