テレビ東京・竹﨑由佳アナウンサー インタビュー【前編】テレビ東京のスポーツ番組の顔として活躍する竹﨑由佳アナウンサー『追跡LIVE!SPORTSウォッチャー』『FOOT×BRAIN』『卓球ジャパン!』(BSテレ東)など、数々のテレビ東京のス…

テレビ東京・竹﨑由佳アナウンサー
インタビュー【前編】



テレビ東京のスポーツ番組の顔として活躍する竹﨑由佳アナウンサー

『追跡LIVE!SPORTSウォッチャー』『FOOT×BRAIN』『卓球ジャパン!』(BSテレ東)など、数々のテレビ東京のスポーツ番組を担当する竹﨑由佳アナウンサー。今年は東京五輪キャスターを務め、視聴者にさまざまな競技の情報・感動を届けてきた。そんな彼女が、第一線で活躍するアスリートたちへの取材を行なってきた視点から、心に残った2021年のスポーツ名場面をピックアップ。番組を通じてスポーツの現場に携わってきたからこそ抱いた想いを、存分に語ってもらった。

──今年は東京五輪・パラリンピックを中心に、さまざまなスポーツシーンがありました。そのなかで、竹﨑さんが選ぶ名場面を教えてください。

 特に心に残っているのは、東京五輪の卓球女子シングルス3位決定戦、伊藤美誠選手が銅メダルを獲得して、試合後のインタビューで悔し涙を浮かべたシーンです。同種目においては日本女子初のメダルですし、紛れもなくすばらしい結果だと誰もが思いますよね。しかし、本人は「中国人選手を倒して金メダル」という目標を掲げてきましたから、準決勝で同い年でライバル関係でもある孫穎莎(スンイーシャ)選手にストレートで負けてしまった結果には、相当な悔しさがあったと思います。

 伊藤選手は、水谷隼選手がついていけないぐらいの練習をすることで知られていますが、五輪期間中も混合ダブルスを含めてものすごい量の練習をしていて。足の裏の皮がベロっとめくれ上がるぐらい追い込んでいたらしいんですよ。解説者の平野早矢香さんが「こんな卓球選手見たことない」と話すぐらい、満身創痍の状態で戦っていたんです。基礎練習を山ほど積んできた姿を私も実際見てきたので、「ここまでしてもダメなのか......」と。歴史的快挙のはずなんですけど、どこかやりきれない気持ちがあって、ちょっと落ち込んでしまいました。

──番組を通じて伊藤選手をずっと追いかけてきたからこそ、うれしさより、悔しさが残った場面を挙げたわけですね。

 はい。福原愛さんも「伊藤選手の心情を考えると、おめでとうとはまだ言えない」と話していて。本当にそのとおりだなと思いましたね。

──水谷選手と組んだ混合ダブルスでは、中国人ペアを倒しての金メダル獲得を達成しました。

 そうですね。決勝戦は見ている全員が熱くなり、心踊った試合だったんじゃないでしょうか。あのふたりだからこその金メダルだと思いますし、中国に勝つことは夢ではないんだと、他の日本人選手たちは感じたはず。今後の若い選手たちに期待が高まりますね。

──さらには女子団体で銀メダルと伊藤選手は3種目でメダル獲得。石川佳純選手においては同種目で3大会連続の表彰台となりました。

 伊藤選手の活躍はもちろんですし、団体でのチームワークのよさは石川選手が中心にいたことが本当に大きかったと思います。彼女もリオ五輪のシングルスでは初戦敗退してしまって、この5年間は相当な覚悟を持って試合に臨んでいました。ですが、若手の台頭が著しく、日本卓球界のなかでは一気にベテランと言われる領域に入り、きっと焦りもあったんじゃないかと思います。そのなかでも今年1月の全日本選手権で伊藤選手を破って優勝し、「やっぱり石川佳純は強いんだ」ということを証明してくれました。そして今回の東京五輪。この銀メダル獲得までのストーリーを見ていると、石川選手とは同世代なので、「まだまだ私も頑張れる」って思えるんです。本当に強くてかっこいいので、同じ女性としても憧れます。

 改めて振り返ると、平野美宇選手を含め、彼女たち3人とも五輪代表争いから想像を絶するほどの過酷な戦いを続けてきました。それを思い返すだけで目頭が熱くなっちゃいます。表彰台に3人が立てて本当にうれしい気持ちでいっぱいです。

──ぜひ卓球男子についてもお聞かせください。

 張本智和選手と丹羽孝希選手は、シングルスでともに4回線敗退と悔しい思いをしましたよね。特に張本選手は、初出場の五輪で少し硬くなっていた部分もあったと思います。それでも団体で試合を重ねるにつれてどんどんプレーの内容がよくなっていきましたし、スウェーデンとの準々決勝で、2019年以来に丹羽選手とダブルスでペアを組んだんですけど、そのあたりから表情がほぐれてきたように見えましたね。そういう姿を見ていると、「人って、大会のなかでも成長していくんだな」と感じました。3年後のパリ五輪も楽しみになるような試合でしたね。



五輪では、新種目の競技も印象に残っているそう

──卓球以外で印象深い名場面はありますか?

 2つあります。1つ目は、新種目のスポーツクライミング女子複合決勝戦。野中生萌選手と野口啓代選手が最終種目を終えて結果を待っている時の姿と、表彰台が決定した瞬間に金メダルのヤンヤ・ガンブレット(スロベニア)選手を含めた3人での涙の抱擁シーン。彼女たちがここまでくるのにどれだけの努力を積み重ねてきたかがわかりますし、それ以上にクライミング界の絆ってすごく強いんだなと思いましたね。それにこの決勝は、野口選手の引退試合という意味合いもありましたから、普通の試合とは違う重みがあったんじゃないかと思います。

 続けて同じく新種目のスケートボード。それぞれトリック(スケボーの技)を終えたあとに、まわりの選手たちが集まってきて「よくやった!」と賞賛するシーンは印象深いですね。これまで見たことがない光景だったので、各メディアからも大きく取り上げられていましたし、10代の女の子たちが切磋琢磨し合っている姿は美しいなと。すごく心に残りました。西矢椛選手、四十住さくら選手の10代コンビがメダル獲得というのも衝撃的でしたね。

──どちらも今まであまり陽の当たらなかった新競技。ライバル関係ではありながら、選手全員で競技を盛り上げようという想いの強さを感じます。

 実際に盛り上がりましたし、その影響はすぐさま現れていると思います。というのもこの間、江ノ島にロケに行きまして。そこで8歳ぐらいの女の子が、お父さんとお母さんに支えられながらスケボーに乗って練習していたんですよ。きっと、西矢選手たちの活躍している姿を見て挑戦しているんじゃないかと思うんです。これは、五輪選手たちの頑張りの証。私はそれを見たとき、五輪をきっかけに何かを始めた人、競技に興味を持った人たちの熱を絶やしてはいけない。今後もずっと続いていくように、スポーツの魅力がしっかり伝わるようなニュースを届けていかなければと、改めて思いましたね。

──新たなスター誕生に向けて、すでに好循環が生まれていたわけですね。

 そうなんです。それで言うと、東京パラリンピック卓球女子日本代表で女子クラス11(知的障がい)で銅メダルを獲得した伊藤槙紀選手もそのひとり。もともとパラ卓球選手として活躍していましたが、2008年北京五輪で見た平野早矢香さんのプレーが、パラリンピックを目指す大きなきっかけだったらしいんです。先ほどのスケボーの話でもそうでしたが、オリンピアン・パラリンピアンの活躍、その一つひとつのプレーが、こうして次世代のメダリストを生んでいるんだなと実感しました。

 伊藤選手には試合直後にインタビューさせてもらったんですけど、「次出たら絶対金メダルを獲ります」と悔しさはありながらも、すぐに3年後を見据えていました。その切り替えの早さと志の高さには驚きましたし、障がいを持って制限がありながらも、「できない」と決めつけることなく前を向いて挑戦し続ける心。このコロナ禍で生活を送る私たちにとっても必要なことですし、何より大きな勇気をもらえましたね。

──ここまで東京オリパラの名場面を聞いてきましたが、同大会以外で印象深いシーンは何かありますか?

 北海道日本ハムファイターズの斎藤佑樹投手の引退試合ですかね。試合直後の引退セレモニーで、ファンや両親、そして仲間たちに対する感謝の気持ちを伝えた姿。そして2軍での引退試合の際に涙した清宮幸太郎選手を見ても、周りの人たちから愛されていることが伝わりましたし、すごく惜しまれての引退だったんだろうなって思います。

 私自身も、今でも覚えているんですけど、甲子園での斎藤投手のインパクトがものすごく強い印象があって。彼がマウンドに上がるだけで、あの真夏の暑い甲子園球場が一気に涼しくなる、みたいな(笑)。それほどの清潔感があふれていましたし、その選手がもう引退かと思うと、時の流れを感じます。もっと見ていたかったですね。

──松坂大輔投手の引退もそうですが、ひとつの時代が終わった感じがしますね。では今後、名場面の誕生を期待するスポーツや大会は何かありますか?

 11月23〜29日に行われる「世界卓球2021ヒューストン」には注目しています。何より伊藤美誠選手の活躍が楽しみで、彼女は東京五輪で悔しい思いをしましたから、「今度こそ金メダル」とリベンジを誓っています。ただ、シングルスは男女それぞれ5人、強豪国からは参戦します。つまり中国人選手も5人出てくることになるので、勝ち上がるのは厳しく、伊藤選手も「五輪より勝つのは難しい」と話していました。それでも私は伊藤選手が大爆発してくれるんじゃないかと、今からすごくワクワクしています。

 加えて、五輪代表メンバー以外にも、Tリーグで力をつけてきた若手の選手たちも出場します。世界ランクは関係なく中国勢を倒し、メダルを獲得する可能性は十分あると思うので、ニュースターとして花開く瞬間を拝めるかもしれません。みなさんにも五輪で熱狂した気持ちそのままに、ぜひ大会を見てほしいなと思います。

(後半に続く)

Profile
竹﨑由佳 たけざき・ゆか
大阪府出身。2017年テレビ東京入社。『追跡LIVE!SPORTSウォッチャー』『FOOT×BRAIN』『卓球ジャパン!』(BSテレ東)などのスポーツ番組に加え、『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』ほかバラエティ番組も担当。今年は東京五輪キャスターにも抜擢され、スポーツキャスターとして活躍の場を広げている。