日本フェンシング協会 会長武井壮インタビュー 後編 前編:メジャー競技になるための「3つのシステム」>> スポーツの運営…

日本フェンシング協会 会長
武井壮インタビュー 後編 前編:メジャー競技になるための「3つのシステム」>>

 スポーツの運営にとって切り離すことができないスポンサーとの関係。タレントという立場からもよく知る現フェンシング協会会長の武井壮が、出資者に対するメリットの提供について「認識を改める必要がある」と語る理由とは。さらに11月6日、会長になって初めてとなる全日本選手権(個人)決勝の注目ポイントについても聞いた。



これからのフェンシング協会、全日本選手権について語った武井壮会長

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――武井さんが会長になり、東京五輪で金メダルを獲得したことで、フェンシング協会が"順風満帆"に見える人も多いと思います。ただ、オリンピック後はスポーツ団体への助成金なども減ることが予想され、コロナ禍の影響も残っている中で、協会運営にはスポンサー収入を増やす必要があるように感じます。

武井 僕はその前に、協会や選手たちがスポンサーに対する認識を改める必要があると思っています。特にマイナースポーツの運営にとってスポンサー収入は不可欠ですが、それに依存しているだけではいけない。支援を受けたら、出資者の方にメリットを提供しなければいけません。

 それは、スポンサーのサポートがあってタレント活動をしている僕としては当たり前のことですが、日本のフェンシング業界ではまだ「選手が大会で頑張りました」「メダルを獲得しました」ということでメリットを返せると考える人もいます。でも、本当のスポンサーのメリットとは、例えば1000万円を出資した時に3000万円分の広告効果があること。フェンシング協会も太田雄貴前会長の時代にスポンサーは増えましたが、そのスポンサーに実際の利益をもたらせるようにならないと、新たなスポンサーの獲得は難しい。

――武井さんは自身のSNSなどでフェンシングに関する発信が増えていますが、その手応えはいかがでしょうか。

武井 僕は一般の方に比べたらSNSのフォロワーも多く、「発信力がある」と言われることも多いんですが、発信自体は誰でもできる時代です。重要なのは発信したものに「どれだけ受信してもらう能力・魅力があるか」だと思います。

 東京五輪で金メダルを獲得したことで情報を受信してもらいやすくなり、僕がSNSでフェンシングについて発信した時の反応はよくなった。メディアからのオファーが増えたことも事実です。ただ、そこで競技に魅力や関心を持ってもらえなかったら終わりですからね。選手たちのプレー以外の活動もそうだし、競技を認知してくれた人が「自分もやってみよう」と思うための場所や手段があることも大きな魅力になります。だからフェンシングパークや、フェンシングのおもちゃなどを作っていこうという話を進めている段階です。

――常に魅力がある存在であり続けるということは、タレントとしての活動に通じる部分がありそうですね。

武井 これまで僕が培ってきた、自分の知識や経験がどうしたらビジネスになるかという発想は、任期中にすべて伝えていこうと思っています。それをどれだけの人が実践するかはわかりません。ともあれ、日本でフェンシングをメジャーにするために、認知されたあとにどんな魅力が必要なのかを選手たちにも考えてもらって、多くの人に愛される選手になってもらいたいです。

――新規スポンサー獲得には、武井さん自らが動くこともあるのでしょうか。

武井 スポンサーまわりの対応は太田雄貴前会長にも大きくサポートしていただいています。僕が会長になるにあたって、太田前会長に退任前と同等レベルのサポートをしてもらうことを条件に出しましたから。僕はあくまで広告事業がベースにある芸能活動がメインの収入源なので、僕個人を広告に利用してくださるスポンサーを確保することも大事な仕事のひとつ。個人のスポンサーと協会へのスポンサーと、どちらにも配慮する必要があります。だから太田前会長に引き続きサポートしていただくほうがスムーズなんです。

 今年の6月に「太田体制」から「武井体制」に変わったというよりは、「太田・武井の共闘体制」という感じですね。僕が改革するのではなく、日本フェンシング界の長い歴史の一部に、改革のきっかけになった共闘体制の2年があったと認識してもらえたらと思っています。

――会長の任期は1期2年ですが、未来を見据えてさまざまな種を撒いている武井さんには、任期後に他のスポーツ団体からの依頼が来そうですね。

武井 実は、すでにいくつか話は来ているんですよ(笑)。まだフェンシング協会の会長として結果を出していないので「気が早いな」と思いますが。僕はスポーツ全般が好きなので、今は「スポーツ株式会社」という大きい会社の「フェンシング部の部長」をさせてもらっている感覚ですから、何年か後には別の部署に移っているかもしれない。「芸能株式会社」のバラエティー部でも仕事をしているから、今は2足のわらじを履いて走り回っています。ただ、「フェンシングを支える」という感覚だけではなく、僕自身がフェンシング協会で何ができるかを楽しんでいこうと思っています。

――「芸能株式会社」のタレントとして築いた人脈は、フェンシング協会でも使おうと考えていますか?

武井 そのつもりですし、実際に動いていました。11月6日に「全日本フェンシング選手権(個人)」の決勝が行なわれますが、もともと予定されていた10月上旬に開催できれば、総合格闘家でありYouTuberとしても人気の朝倉海選手と、ボクシング界の「KOダイナマイト」と呼ばれた内山高志さんの"フェンシングマッチ"を予定していました。大会が延期になってスケジュールの関係で流れてしまいましたが、いずれこうした夢の対決をどんどん実現していきます。

 この2人に限らず、フェンシングは"異種格闘技"を行なう場として活用できる競技だと思っています。例えば、身長2mのバスケットボール選手と、スピードがある身長160cmくらいの陸上選手が対戦したら、どちらが勝つのかといった結果が読めない試合ができる。そういう試合を既存のフェンシング大会に組み込めたら、公式戦でもエンターテインメント性を増すことができます。こうした異種格闘技は「どんな結果になるの!?」と楽しめるエンターテイメントになり、その直後に世界トップレベルのフェンサーの試合を見たら、よりプレーのすごさもわかるのでいいと思います。

――お話に出ました、日本選手権の見どころを教えてください。

武井 史上初の屋外、六本木ヒルズアリーナで行なわれる日本選手権です。開催の延期が幸いしたこととしては、有観客で行なうことができることですね。天候が崩れるリスクはありますが、これまでにないさまざまな演出を用意しているので、より多くの人に楽しんでいただけると思います。

――エペ、フルーレ、サーブルの3種目で行なわれる、男女それぞれの決勝戦の注目ポイントは?

武井 オリンピアン12人のうち8人が決勝に進出していて、男子エペ団体で金メダルを獲得したひとりである加納虹輝(こうき)選手も残っています。一方で、その金メダリストのひとりが予選で敗退しているように、各種目でハイレベルな試合が繰り広げられることは間違いないなく、大番狂わせが起こる可能性も十分にあるでしょう。

――6試合すべてが見逃せない試合だと思いますが、あえて注目選手を挙げるとしたら誰になりますか?

武井 女子エペで2年連続、7度目の優勝を狙う佐藤希望(のぞみ)選手です。東京五輪を含めてオリンピックに3度出場しているのですが、それぞれの五輪と五輪の間に1回ずつ出産を経験し、今は2児のママ。相手は、2年前の女王である大学生の原田紗希選手ですが、最強のママさんアスリートがどんな戦いをするのか楽しみです。

 そのほか、日本選手権でチャンピオンになった選手たちには、新たなフェンシング界の旗頭として、年末年始はメディアなどで稼働してもらおうと思っています。新たなスターが誕生する瞬間を、ぜひ見てもらいたいですね。

――今後は、大会も「武井カラー」が色濃くなるのでしょうか。

武井 来年は自分のカラーを全面に出していきたいです。フェンシングだけを観るというよりも、楽しいイベントの合間にフェンシングが観られるという形も面白いんじゃないかと思っています。先ほど話したスペシャルマッチにしてもそうですが、もっとバラエティー色を強くして、フェスみたいな感じでやるものいいですね。

――今年の全日本選手権は無料で生中継(ABEMA) されますし、会場に来られない人にも試合を見てもらいたいですね。

武井 僕はスポーツとエンターテインメントを通じて、ひとりでも多くの人がより豊かな人生を送れる手伝いがしたい。ここまで難しいことを話してきましたが、全日本選手権の当日は僕も会場で応援しますので、観客のみなさんには純粋に、そして盛大にフェンシングを楽しんでもらいたいです!

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