連載「幸せな高校選びへの挑戦」第2回:ブラックボックスだった高校サッカー部の実情 サッカー少年にとって、全国高校選手権は…

連載「幸せな高校選びへの挑戦」第2回:ブラックボックスだった高校サッカー部の実情

 サッカー少年にとって、全国高校選手権は昔も今も変わらず憧れの舞台だ。多くの才能が強豪校の門を叩く一方、部活動には様々な課題も見え隠れする。その後の人生を大きく左右する「高校進学」が、幸せな選択となるために必要なことは――。全国の中学生年代の選手に向けて情報を発信する元U-16日本代表GK中村圭吾さんの姿を追う「幸せな高校選びへの挑戦」第2回は、“口コミ”が持つ力に迫る。(取材・文=加部 究)

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 現状で中村圭吾さんが運営する「Foot Luck」というサイトは、高校の戦力と口コミのランキング、さらに中学生とその保護者を対象としたプロ選手やOBによる進路相談のシンプルな3本立てで構成されている。

「最初は直近3年間の成績を総合的にデータ化した戦力ランキングの方が見られるのだろうと思っていました。でもフタを開けて見れば、断然口コミの方が見られています。保護者の方々や指導者、さらにサッカー関係者に注目して頂いています。一方、中高生など当事者は戦力の方を見ていますね」

 おそらくそれが高校選択でミスマッチが起こり、不幸なサッカー少年が生まれる一因なのだろう。当事者の中学生は強い高校に憧れる。だが保護者は、それだけで進路を選ぼうとする我が子の行く末を懸念している。

「そろそろ学校をブランドや知名度だけで選ぶ時代は終わりつつあるのだと感じています。息子が頑張りたいと言っているから応援はしたい。でもサッカーだけで進学させて良いのか、保護者の方々は不安なんです。だからこそ卒業生たちの口コミ情報は、送り出す側にとって貴重な判断材料になる。不透明な部分を情報提供することで、感謝の言葉も頂いています」

 さらに中村さんは続ける。

「例えば関東では、流通経済柏、市立船橋、昌平などが人気になっています。もちろん選手権での活躍や、プロを何人輩出しているかなどの部分だけを切り取れば華々しい。でも外から情報を集めようとしても、試合やトレーニングを見に行く程度しかできない。毎日のルーティーンがどうなっているのか、どんな学校生活を送っているのか、どういう環境でどんな想いを持った選手たちが集まっているのか。そこはブラックボックス化してしまっている。もし僕の高校時代に、こういうサイトがあったら、もっと真剣に覚悟を持って進路を決められたな、と思います」

 プロ選手も含めた同年代の仲間とも話すが、進路先が自分に適しているかどうかは「中に入って自分の目で見て体験しなければ絶対に分からない」と異口同音に返ってくる。しかしそれが当事者には難しいから、大学までサッカーを続けてきた中村さんならではの幅広い関係を活かして集めた情報を「あくまで保護者と選手たちのために」開示している。

「口コミと戦力は一致しません。大学関係者に聞くと、卒業生が満足できている高校の出身者はプレーの質も高いし人間性も良いと話していました。それは新しい発見です」

口コミの先に見える学校側の意識改革

 保護者や選手たちへのサービスなので、学校側からは「怒られてナンボ」だと思っていたが、意外に肯定的な反応が相次いだ。

「口コミ評価が高い高校の監督からは、自分たちの理念がしっかり伝わっていることが確認できてありがたい、という感謝の声が結構ありました。関係者からも『面白いことをやっているね。手伝えることがあれば協力するよ』などと言って頂いています」

 中学生が理想の進路を追求し、高校とのミスマッチを減らすことを最大のテーマにしているが、その先に「学校側の意識改革、組織改革」が実現すれば、サッカー界全体を俯瞰しても「ウィンウィンの関係ができる」と考える。

「このサイト運営は、キャリア選択のインフラ整備の一部だと思っています。僕たちは判断材料を提供する。それをどう調理するかは、受け取る方々次第になります」

 旧来の部活は、指導者から選手たちへの一方通行が続き、送り出した卒業生たちからのフィードバックはほとんどなかった。そういう意味では、結果的に指導者の反省や努力を促す企画と捉えることもできそうである。

(第3回へ続く)

■中村圭吾

 1995年10月28日生まれ。小学2年生からサッカーを始め、最初はDFだったが途中からGKに転向。山梨学院大学付属高校時代にはU-16日本代表に選出。神奈川大学でもプレーを続け、卒業後に就職し後に起業。株式会社Livaを経営しながら、今年サッカー関連サイト「Foot Luck」を起ち上げ、高校サッカー部OBの実体験に基づく声を集めた口コミサイトが好評を得ている。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。