「幸せな高校選びへの挑戦」第1回:中村圭吾氏が「Foot Luck」に込めた想い サッカー少年にとって、全国高校選手権は…
「幸せな高校選びへの挑戦」第1回:中村圭吾氏が「Foot Luck」に込めた想い
サッカー少年にとって、全国高校選手権は昔も今も変わらず憧れの舞台だ。多くの才能が強豪校の門を叩く一方、部活動には様々な課題も見え隠れする。その後の人生を大きく左右する「高校進学」が、幸せな選択となるために必要なことは――。自らの経験をもとに、全国の中学生年代の選手に向けて情報を発信する元U-16日本代表GKの姿を追った。(取材・文=加部 究)
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国連が150カ国を対象に実施している幸福度ランキングで、2021年度の日本は56位だった。自殺率ではG7(先進7カ国首脳会議)でトップの世界7位を記録してしまったが、判断材料とされる健康寿命や国への信頼度などで救われた印象だ。
では日本のサッカー少年たちの幸福度は、どうだろうか。いくら日本代表が強くなっても、それが上昇しなければサッカー文化が根づいていかない。やはりドイツやブラジルなど強豪国には、老若男女が生涯を通じてサッカーに熱狂し続ける土壌がある。
ところが日本の多くのサッカー少年たちは、年齢を重ねるごとに表情を曇らせていく。とりわけ高校の部活に入った途端に、理想と現実のギャップに絶望していく選手が少なくない。全国高校選手権という夢舞台があるせいか、中学生たちは強豪校のユニフォームを着ることを夢見る。そこがプレーの適正環境を優先する他国との相違だが、反面大半が夢の実態を知らずに校門をくぐってしまう。そして一度入ってしまえば、3年間は抜け出すことができない。
「つまり高校進学は、一度ミスをしたら取り返しがつかない重要な人生の選択なんです。ところがこれだけ誰でも自在に情報が取れる時代に、唯一高校の部活の内情は、みんなが取れないんです」
そう語るのは、この夏「Foot Luck」というWEBサイトの運営を始めた中村圭吾さんだ。現在26歳の中村さんは、小学2年生からサッカーを始め、山梨学院大学付属高校時代にはU-16日本代表にも選出されている。神奈川大学時代まで本格的にプレーし、最近になって東京都4部リーグで再開した。現在はコンサルティング会社の経営で収益を確保しながら、寝る間も削ってサイトの運営を主導。実際に高校の部活を経験した卒業生たちの口コミ等を、無償で紹介している。
「今まで周りの友人や知人と話してきた感触からして、高校時代を振り返り幸せじゃなかったと感じている人が85%くらいだと思います。幸せだったと思っている人は15%もいるかな? というのが正直なところで、たぶんそれは今も昔も変わっていない。結局中学生は、限られた情報だけで進路の取捨選択を迫られている。それが当たり前になっているからですよ」
中学生を指導するコーチの言葉に「10年前と何も変わっていない」
年明け早々に中学生を指導する同年代のコーチたちが交わす会話を耳にした。
「Aの進路は、どうする?」
「取り敢えず〇〇高校の練習会へ行かせたよ。とにかくアイツ成績悪いから、あそこでも行かせるしかないよな」
中村さんは「これでは10年前と何も変わっていない」と愕然とした。
コーチが横の繋がりだけで、唯一の選択肢を選手たちに押しつけて送り出してしまう。
「こんな進路サポートがまかり通っていたら、選手たちが可哀想。みんなダメになる」
そう思った瞬間に「自分が変えなければいけない」という義務感がこみ上げた。
もともと長い歳月をかけて、地道に努力をしていくタイプではないという。
「将来サッカー選手になりたいと、黙々と頑張るタイプではない。逆に人が困っていたら自分が助けなければならない。そういう衝動から行動を起こすタイプなんだと思います」
最初はテスト的に、周辺の繋がりから50件ほど出身校の口コミを集めてみた。
「凄く良いか、凄く悪いかでしたが、やはり悪い方が多かった。外から見えている良い評判と、内部での捉え方は違った。選手たちが不満を抱えている強豪校がある一方で、無名でも物凄くポジティブな意見が書かれている学校もある。これを見て(サイト運営を)進めていくべきだと決断しました」
7月にスタートして3カ月間が経過した。反響は予想以上だった。
(第2回へ続く)
■中村圭吾
1995年10月28日生まれ。小学2年生からサッカーを始め、最初はDFだったが途中からGKに転向。山梨学院大学付属高校時代にはU-16日本代表に選出。神奈川大学でもプレーを続け、卒業後に就職し後に起業。コンサルタント会社を経営しながら、今年サッカー関連サイト「Foot Luck」を起ち上げ、高校サッカー部OBの実体験に基づく声を集めた口コミサイトが好評を得ている。(加部 究 / Kiwamu Kabe)
加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。