もう一歩、階段を登ろうとしている。 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズにあって、明るく笑顔を絶やさないのがベン・ヘリング ディフェンスコーチ。知人を見つければ笑顔で手を差し伸べ、面識のある取材記者にも自分から「元気…

 もう一歩、階段を登ろうとしている。

 国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズにあって、明るく笑顔を絶やさないのがベン・ヘリング ディフェンスコーチ。知人を見つければ笑顔で手を差し伸べ、面識のある取材記者にも自分から「元気?」と歩み寄る。

 チームはオフロードパスやゲインメーターなど攻撃面の数値で上位層に入る一方、タックル成功率は全18チーム中最下位の77.8パーセントとする。開幕5連敗を喫し、フィロ・ティアティア ヘッドコーチも「課題はディフェンス」と話している。

 もっともヘリング コーチは、「成長は、したと思います」。現象を見定めたうえで、明るいビジョンを示してゆく。

「システム自体の理解はできてきています。ただ、よりよくしなくてはいけないのがタックル。大きい相手に対するタックルのテクニックを、変えないといけない」

 前年度まで2季、スーパーラグビーのハイランダーズ(ニュージーランド)でリソースコーチを務めた。今季から入閣したサンウルブズでも、古巣のディフェンスシステムを採用。密集の位置から数えて「3」番目に立つ選手が鋭くラッシュを仕掛けるなどし、大外へのパス展開を鈍らせる。「2」番目にあたる選手も同時にせり上がり、スペースを埋める…。飛び出しの鋭さで、相手との質量差をクリアにしたいという。

 ところが今季序盤のサンウルブズでは、4月からチームに合流したPR稲垣啓太いわく「2と3の間が抜かれている」。飛び出す選手たちの連携ミスから、隙間が生じているのではと指摘される。選手の多くが在籍する国内のトップリーグで、ヘリング コーチの唱えるシステムがあまり用いられていないことも関係しているのだろうか…。

 この仮説に「エキサイティングなエリアです。向上させなくてはならないのは確かです」とうなずくヘリング コーチは、トライ・アンド・エラーからシステムの修復を図る格好だ。

 徐々に接点の周りをえぐられた第5節(3月25日、シンガポール・ナショナルスタジアム/対ストーマーズ ●31ー44)での反省点を例に挙げ、「1」人目の動きなどにマイナーチェンジを施すと示唆した。

「あの試合では前半、全体的にスペースを取って守れていました。相手の脅威となる選手を見ることもできました。ただハーフタイム、相手チームが戦術を変えてきました。『もっとダイレクトにプレーを』と。こちらの小さい選手に、大きな選手がぶつかるようにしたと思います。試合後に相手のコーチと話しました。我々の動きに感動し、大きな人をボール保持者にする必要を感じたようです。これは、止めないといけない。いくつかの仕掛けを用意します」

 第6節を試合のおこなわれないバイウィークに充て、4月8日、ホームの東京・秩父宮ラグビー場で第7節に挑む。

 相手のブルズ(南アフリカ)には、3月17日の第4節で21-34と屈している(プレトリア、ロフタス・ヴァースフェルド)。相手に退場者がいるなか、反則などで自陣へ押し込まれた。

 リベンジに備え、ヘリング コーチは組織で網を張るキックチェイスの戦術を確認。ゴール前での力業の得意なブルズを、蹴った後のプレッシャーでなるたけ敵陣へ押し込みたい。

「キックチェイスの時は隣の選手と信じて、つながって、トラップを仕掛ける。いまは個々で飛び出してしまう傾向があります。もっとリラックスしないといけません。ここが大きな課題です」

 ここでチェイスを確認していることは、着実な年間計画遂行の証でもある。「2月からこれまでは、ラインを広げて一気に上がることをテーマにしてきました。そこは、まずまずできた」。そして4月からテーマに掲げるのが、「キックチェイス、ラック周りの守備」といった個別的なケーススタディの習得なのだ。

 第7節の翌日からニュージーランドとアルゼンチンへ遠征するだけに、「ニュージーランドのチームは(キック補球後の)カウンターアタックがいい。対応しなくてはいけない」。段階的なレベルアップを、掛け持ちする日本代表の強化にもつなげたい。

 同じくサンウルブズとジャパンの両方に携わる田邉淳アタックコーチとも、密に連携を図る。主体的な攻守の切り替えを目指す集団にあって、「ターンオーバーを取れた時、あるいは取られた時は早いトランジションが必要。それぞれの選手にいて欲しい場所へ素早く行ってもらうよう、促していけたら。それは常に考えています」。ロジカルに練られたロードマップを、陽性の気質で示してゆく。(文:向 風見也)

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