今年のドラフトで"遊撃手"がほしいのは、ソフトバンク以外にも日本ハム、楽天がそうだったはずだ。

 日本ハムは遊撃手というよりも"二遊間"がなかなか固定できない状況にあり、さらにレギュラー候補だった石井一成が「左第五中足骨骨折」という大きなケガを負って、内野陣全体がピンチにあった。

 楽天は、昨年は小深田大翔、今年は山崎剛が遊撃手として頑張ってきたが、アマチュア時代は二塁手か三塁手が本職の選手だ。ちなみに、その前の正遊撃手だった茂木栄五郎も大学時代は三塁手で、つまりはアマチュアからの遊撃手となるとルーキーの入江大樹ぐらいしかいない。

 遊撃手経験者に聞くと、体力的にも精神的にもきつく、簡単にこなせるポジションではない。それだけに、どのチームも「生粋の遊撃手」がほしいはずだ。

 ソフトバンクのショートには今宮健太という絶対的な存在がいるが、後継者探しは急務である。

 今宮は明豊高校(大分)から2009年のドラフトでソフトバンクから1位指名を受け入団。3年目からレギュラーとして出場すると、そこから今シーズンまで不動の遊撃手としてソフトバンクの黄金期を支えてきた。だが、体は満身創痍。チームとして、後継者の目鼻をつけておく時期にさしかかっているのは間違いない。

 今年6月、社会人野球の日本選手権でドラフト候補としてスカウトたちから注目されていたJR四国の遊撃手・水野達稀が、三菱重工WEST戦で八木彬からサヨナラホームランを放った直後のことだ。

「うわー、すごいホームラン。これで今宮健太の後釜も決まりとちゃうか」

 ほっともっとフィールド神戸のライトスタンド中段に突き刺さる会心の一発に、そう声を上げたスカウトがいた。ちなみに、八木は今回のドラフトでロッテから5位指名を受けた剛腕である。

 だがドラフトでソフトバンクは、1位で風間球打(投手/ノースアジア大明桜高)、2位で正木智也(外野手/慶応大)、そして3位は水野でいくだろうと思っていたら......北海高校の左腕・木村大成を指名したから驚いた。

 木村を左腕不足の西武や、地元・北海道の日本ハムに持っていかれたら、のちのち厄介な相手になると思ったのか......そこまではわからないが、ソフトバンクは水野の獲得を見送った。結局、アマチュアナンバーワン遊撃手の水野は、日本ハムが3位で指名した。

 ソフトバンクは昨年のドラフトで青森山田の川原田純平を4位で獲得している。その川原田は今シーズン途中に三軍から二軍に昇格し、夏場あたりからウエスタンリーグにも出場している。

 高卒1年目の選手としては順調に成長を続けているのだろうが、今宮の後継者となると、たとえ高卒入団であろうとも、1年目からいきなり一軍をうかがう位置につけられるほどの圧倒的な走攻守が必要となる。

「今宮の後釜がつとまりそうなショートなんて、今年なら水野ぐらいだろうし、来年もどうだろう......。FAってわけにもいかないだろうし、どうするんだろうね」

 ある球団のスカウトがそうつぶやくように言い放った言葉を聞いて、ふたりのアマチュア選手の名前が浮かんだ。

 ひとりは横浜高校の緒方漣(1年)だ。今年夏の甲子園では「1番・ショート」の重責を担い、初戦の広島新庄戦でサヨナラ逆転本塁打の離れ業をやってのけた。

 緒方を初めて見たのは、今年春の神奈川県大会。入学したばかりだというのに、まずフィールディングのうまさに舌を巻いた。打った瞬間、もうスタートを切っているような抜群の反射神経と打球へのタイミングの合わせ方は、教えてどうこうというものではない。緒方にはその「天性」が備わっている。

 それ以上に驚かされたのが、実戦での勝負度胸だ。当たり前のように打球を処理して、アウトを重ね、ピンチの場面でも平然と自分の仕事をこなす。1年生らしくないといえば、これほど「らしくない」選手もいないが、逆にこんなに頼もしい選手もいない。

 春の時点では、まだバッティングに非力感が漂っていたが、どんどん力強くなり、夏の県大会の頃にはボールを長く見て、呼び込みながら豪快にバットを振り抜く"スラッガー"のスイングになっていたから驚いた。



2023年のドラフト候補、日体大の松浦佑星(写真左)と横浜高校の緒方漣

 しかも緒方は、無類の野球好き、練習熱心と聞いている。フィジカルだけじゃなく、体の隅々まで野球が浸透している、まさに野球をするために生まれてきた男だ。これからどんな選手に成長していくのか、楽しみでならない。

 そしてもうひとりが、日本体育大の松浦佑星(2年)。富島高校(宮崎)3年時に夏の甲子園に出場したが、ケガの影響もあって本領発揮とはならなかった。だが、左打席から一塁到達まで3秒台という快足が強烈な印象として残っている。

 大学入学後は、早くもレギュラー遊撃手としてリーグ戦に出場。今季は緒方同様「1番・ショート」としてチームのキーマンになっている。

 松浦がショートを守っていると、ダイヤモンドが小さく見えて仕方がない。それは打球を追うスピードの速さと鉄砲肩のせいだ。三遊間の深い位置からの一塁送球は、多くの遊撃手がワンバウンドで送球するアマチュア球界だが、松浦はダイレクトスローで一塁へ送球して刺してしまう。この能力は間違いなく希少価値だ。

 打っても、見えなくなるほど高々と上がる内野フライ。広島の鈴木誠也が二松学舎大付の頃に「こんな打球をよく打っていたなぁ」と思い出す。

 現状、ホームランを量産するタイプではないが、スイングもスローイングも全身の力を一気に爆発させる"瞬発力"が抜群の選手だ。

 こういう選手がプロの食育とトレーニングで筋肉量を増大させた時の変わり身は、たとえば浅村栄斗(楽天)、栗原陵矢(ソフトバンク)、山田哲人(ヤクルト)などが好例だ。

「ひと口に言って、モノが違いますね」

 松浦について、そう最大級の評価をしたのは、日本体育大の辻孟彦コーチだ。辻コーチは中日で3年間プレーした経験があり、プロの遊撃手のすごさを実感しているだけに、この言葉には説得力があった。

 名人、名手の後釜ほど、ファンにとって気がかりなことはない。ただ、緒方も松浦も来年ではなく、2023年のドラフト候補である。今年のドラフトであえて今宮の後継者を指名しなかったのは、このふたりのうちどちらかを狙っているからだと思えてならなかった。はたして2年後、ソフトバンクが狙うのは......その動向から目が離せない。