東京オリンピック終了から約2か月半、次なる五輪へ向けての動きが始まった。地元大会でメダル獲得を逃した日本代表は、どのよ…
東京オリンピック終了から約2か月半、次なる五輪へ向けての動きが始まった。地元大会でメダル獲得を逃した日本代表は、どのようにしてパリ大会での「リベンジ」へと進むのか。サッカージャーナリスト・後藤健生が、その第一歩をリポートする。
AFC Uー23選手権の予選大会が始まった。グループKの初戦で、Uー22日本代表はカンボジア相手に4対0で勝利。パリ・オリンピックを目指す、遠くて長くて険しい戦いの第一歩である。
前半の10分にCKから高校生で18歳の松木玖生(青森山田高校)が先制し、前半終了間際にこちらも18歳の甲田英將が追加点。そして、後半にもワントップで奮闘した細谷真大(柏レイソル)と交代出場の中村仁郎(ガンバ大阪ユース)が2点を加えての勝利……。結果的に「快勝」であるのは間違いない。
だが、内容的にはけっして手放しで喜んでよいような試合ではなかった。
守備から中盤にかけてはJリーグ経験者が多く、安定した試合が期待されたが、ミスで相手にボールを奪われる場面も多く、カンボジアの選手たちが元気だった前半にはピンチを迎えかける場面も何度かあったのだ。
チーム力として日本とカンボジアの間には大きな差はあったが、カンボジアにも優秀な選手はいた。
たとえば、ワントップに入ったシエン・チャンテアは小柄だがテクニックがあり、意外性のあるプレーができたし、左のインサイドハーフで10番を付けたリム・ピソットはDFとDFの間のスペースにするすると上がってパスを引き出すことができたし、ドリブルのスピード感もあった。
ただ、球離れが遅かったので、ゴール前では日本のDFと1対1の勝負となって、個人能力の差でストップされてしまっていた。もう少し、彼らが周囲の味方をうまく使えるようになれば、攻撃力はさらに増しただろう。
つまり、日本が無失点で切り抜けられたのは個人能力の差によるものであって、もし、もう少し強い相手だったらそう簡単には勝てなかったはずだ。
■年少の選手たちが主力を占めた理由
もっとも、日本チームの状況を考えれば、ミスが多かったことも想定内だったと言わざるを得ない。
先ほども書いたようにUー22日本代表(実質的にはUー20)にはJリーグでレギュラーとして出場している選手が多いのが強味の一つだ。かつては、「Uー20代表では出場機会が与えられていない選手が多い」というのが大問題だったが、最近ではJリーグで若い選手にも出場機会が与えられるようになっているのである。
それは、日本サッカーのためには肯定的な現象なのだが、Uー22代表のチーム作りのためには逆に難しい問題となってしまう。
つまり、Jリーグのトップに所属している選手の多くが、直近の週末に行われたリーグ戦に出場してから合流することになったのだ。
ヴィッセル神戸の郷家友太は22歳の最年長の世代で、攻撃面でこのチームを引っ張っていくことが期待されている選手だが、10月24日のJ1リーグ第33節の名古屋グランパス戦でフル出場しているのだ。そのほか、松岡大起(清水エスパルス)、田中聡(湘南ベルマーレ)、馬場晴也(東京ヴェルディ)、半田陸(モンテディオ山形)も、それぞれがJ1もしくはJ2でフル出場。徳島ヴォルティスの藤田譲瑠チマも86分までプレーしている。
日曜日の試合に出場した選手たちにとっては、中2日でのカンボジア戦というスケジュールになるし、月曜日になって合流した選手たちにとっては、チーム練習が1日しかできていない状態だったのだ。
前半に得点を決めた松木や甲田のような、このチームの中でも下の世代に当たる選手、高校生や大学生の選手が活躍したのも、そうした事情があったからこそである。
■日本にミスが多発したもうひとつの理由
ミスが多発したのには、この日のJーヴィレッジ・スタジアムのコンディションも影響していたのかもしれない。
東日本は試合の前夜から低気圧による大雨に見舞われていた。そして、Jーヴィレッジ・スタジアムは使用頻度がかなり高いということでピッチコンディションもあまり良くなかった。芝生も、張り替えてから日数が足りず、しっかりと根付いていないような印象で、そこに雨が重なってかなり軟弱な状態だった。
しかも、一度は雨は上がって前半には雲間から太陽の光が差し込む時間さえあったが、後半に入ると再び強い雨が降り出し、風下側に立った日本チームは強い雨と向かい風に悩まされることになったのだ。
もっとも、これからアジアでの戦いに臨むことになれば、ピッチコンディションや気象条件を言い訳にはできない。
たとえば、前回のAFC Uー23選手権はタイで開催されたが、メイン会場となったラジャマンガラ・スタジアムの芝生はこの日のJーヴィレッジ・スタジアムの芝生よりもさらに軟弱なものだった。
ただ、このチームはまだチームとしての完成度が低い状態だったのだ。
完成度が高く、各選手の役割がはっきりと確立されているのであれば、悪コンディションであってもそれなりの戦い方ができるのだが、まだお互いの立ち位置を確かめながらのプレーでは、気象条件やピッチコンディションから受ける影響も大きい。